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62話・さぁ帰ろう

弟 姉視点です




弾力のある未知との遭遇の後、王子様は近衛騎士にがっつりお説教を食らっていました。

僕は心の底から怖い思いをしました。お陰でぷるぷるしたものに囲まれて逃げ場が無いという悪夢を見ました。


誰かさんだけ、楽しい思いをしたのは気のせいでしょうか?



服従から点々をとったら復讐になるんですよ・・・。







それはそうと、今日は砦に帰る日です。出発は昼前、暖かくなってからですが。


早く目が覚めてしまった僕は荷造りもさっさと終えて仕込みも完璧。清々しい気分で、朝食をいただいています。

宿のおじさんが出してくれる不思議に甘いホットミルクも今日でお別れだと思うと、感慨深いですね。




テーブルに着いているのはクルトとパイクさん、ボッシュさん。マイヤーさんはぎりぎりまで起きてこないし、王子様は部屋で食事です。アガサさんと姉はまだ寝ているか、身仕度中でしょうかね。


多分、そろそろ。



二階で大きな声と音がしたかと思うと、すごい勢いで誰かが階段を駆けおりて来ました。



「こ、これっ、こいつが寝てたっ私のベッドに!」



じたばた藻掻くモップを鷲掴みにして、こちらに突き出したのは怒り狂った姉。


クルトはお茶を吹き出し、パイクさんはパンを喉に詰めて咳き込み、ボッシュさんは石になりました。


寝起き姿のままで、ちょっと刺激が強すぎたでしょうか。


この国は寝るときの格好が適当で、だいたい男性はジャージみたいな簡単な上下で、女性はシャツワンビースのようなゆったりしたものを着ています。

お城では流石にちゃんとしてて姉は普段着にしたいと言って周りを困らせていましたが。


今、姉が着ているのは砦から持って来ていたジルさんのお下がり。微妙にサイズが合っていないので、長さは膝までで、首周りが大きいらしくて半分肩が出ています。



「おはよう、トモ。寒くないの?」



姉は僕を睨むと、裸足で何度か足踏みをしました。



「足が冷たいよっ。そうじゃなくて、あんたでしょ、これ、仕込んだわね?」



ぺちぺちと足を鳴らしながら、手に持ったモップを上下に振ります。あぁごめんね。頼んで協力してもらったけど、姉は意外に怪力なのを忘れていました。



「居ないから探してたんだよ、本当に。寒いから、暖かいところに逃げ込んでたんだね!ありがとうね、トモ」



にこにこして言うと、怒るに怒れないという表情になった姉はモップを振るのを止めました。そのすきに、いち早く立ち直っていたパイクさんが救出します。



「トモ!もう、こんな格好で男どもの前に出るんじゃないよ!」



ようやく部屋からアガサさんが追い掛けてきて、持って来た毛布で後ろから包み込みました。逃げた猫を捕獲する図みたいです。



「あのぉ、着替えて来たほうがいいんじゃ…」



赤い顔のクルトが、顔ごと逸らしたまま遠慮がちに言いましたが、いつもと違って消え入りそうな声です。



「何の騒ぎだ……うわっ」



別室の王子様と近衛騎士までやって来ましたが、多分見る前に、騎士が目を塞ぎました。警護は完璧です。変態を見たかのような反応なのが気になりますけど。



姉は毛布に包まれて回収されていきました。アガサさんも力持ち。

それにしても。

下着姿で出て来たわけでもないのに、なんでこんなに過敏に反応するんでしょうかね?

クルトなんかだったら照れるより冷やかすかと予想してたんですが。まぁパイクさんは予想通り、姉よりモップに釘づけでした!



「ちょっと大げさじゃないですか?」


「おま…だってな、あんな首とか足とか…」



クルトが真っ赤になって言うのを聞いていると、いきなり頭を鷲掴みにされました!



「うぎゃ、痛い痛い!割れる、傷が開くっ」



「首とか足とか何だって」



あぁ、平和なトリップだと思ったのに、魔王はここにいました。



「見てません、なんにも見てませんっ」



僕とクルトの頭を、ギリギリと握り潰す勢いで嫉妬深い魔王は絞め、それは見兼ねた王子様と近衛騎士に止められるまで続きました。




○ ○ ○ ○







今日の目覚めは最悪。

この世界での初めての朝を思い出す。


顔の辺りでもふっとしてくすぐったくて、自分のくしゃみで頭がはっきりした。目を開けると視界が黄色でいっぱいになってて、これはまだ夢なのかと思った。


それが動いて、ぎざぎざの牙を見せ付けながら欠伸をするまでは。


多分、ぎゃーとかぎえーとか、実に女らしくない悲鳴をあげたと思う。

起き上がって立ちくらんで真っ白になりつつ、モップを捕まえて下の食堂へ駆け降りた。飼い主の責任を追求するために。





なんか弟に言い包められたような気がするけど、裸足だったし寒くてたまらないことに気付いて、アガサさんに部屋に戻されて。


着替えている間中、説教された。



「結婚前の娘が、みだりに肌を見せるんじゃないよ、まったく!ああいうのは大事な人の前だけでいいの」



そういえばボッシュさんもそんな事を言っていたような?でもこれは別にスケスケネグリジェでもないし、膝丈でたいして足も見えないと思うけど。

着替え終わって、改めて体にあてて考えているとアガサさんに横から奪われた。綺麗に畳んで荷物に詰めながら、片手で右肩を突く。



「こっちの肩が全部出てたの」



あ〜それはちょっと色っぽいかも?



「…ボッシュさんどんな顔してた?」



その他大勢はいいんだけど反応知りたい人は決まっているとも!アガサさんの言う通り、大事な人だけ。



「怖くて見てない」



姐さんは案外ボッシュさんには遠慮するよね。



細々したモノを全部荷造りして、忘れ物が無いか確認した。予定外に長く泊まったこのお宿は、とても居心地がよかった。

色々あって、店的には大変だっただろうけど。怪我した囚人を預かったり、王子様がいきなり来たり。



ちょっと思い出にひたってから、朝ご飯を食べに行った。今日はいつもより食欲があるぞ。最後くらいは残さず食べよう。





食堂にはマイヤーさんしか居なかった。

あれ?

さっきのは夢だったんだろうか。



「おはよう〜今日も可愛いなぁ」



ちょっとおっさんくさい、マイヤーさん。

3人で並んで、しっかり食べた。甘いフルーツ牛乳ともお別れ。牛じゃないみたいだけど。



「リョータとクルトは、世話になった礼に宿の周りを掃除するんやって。若いやつは偉いなぁ」



おっさん以下略。



「殿下も、もう戻られるんでしょうかね」



ちょっと浮かない顔のアガサさん。



「あぁ、護送馬車の警備実習も兼ねてなぁ。あっちのが先に発つらしいで」



大変だな、王子。

ちょっと弟と仲良く?なってきたのにザンネン。

お見送りはちゃんとしなきゃね。






お見送りは、また皆で。お出迎えの時よりずっと柔らかい雰囲気だった。

護送車に乗り込む3人は、なぜか堂々としていてちょっとむかついたけど、すごくらしいと思った。

オルガさんはもうボッシュさんを見なくて、こっちの方に曖昧に会釈して、どちらかというと王子様ばっかり見ていた。あれあれ?



王子様は皆それぞれに声を掛けて、弟とは文通するらしい。携帯あれば簡単なのにね。

私には「あなたはもう少し女性らしく落ち着かれたほうがよい。周りの身がもたない」と言って、後ろの騎士もわざとらしく何度も頷いた。嫌味な奴だ。





彼らが出発してから、アガサさんの落ち着きが更になくなってきた。

お別れだもんね〜。



「アガサさん、お客さんですよ」



パイクさんの呼ぶ声に、姐さんは飛び上がるようにして入り口へ向かった。



「もしかして〜」


「男か?」



こっそり窓から見ようとすると、マイヤーさんが寄って来て、気配に気付くと全員後ろに居るし。



「アガサさんいつの間に」



クルトの台詞が、全員の気持ちを代弁してると思う。

窓からはアガサさんは後ろ姿だけど、例の武器屋さんはしっかり見えた。

うわ、アイドル系イケメンだ。アガサさんたら。


2人共もじもじどきどきしてる感じで、見てるほうも恥ずかしい。他の皆もそう思ったみたいで、なんとなく窓から離れた。


アガサさんが幸せそうな顔で弓を抱えて入ってきたのを生暖かい視線で迎えて、あのマイヤーさんでさえからかわなかった。






やっと、今度こそ、ついに砦に『帰る』。



帰りの馬車は、パイクさんの強い勧めでボッシュさんも中で一緒。上手なマイヤーさんが運転?することになった。



「帰ったら驚くよ〜」


「イアン達が待ち構えてるからな!」



パイクさんとクルトが、顔を見合わせて笑った。

あんまりいい想像ができないんだけどな、あのお兄さん達だと。



それなりに期待に胸を膨らませて、馬車に揺られていると眠くなってくる。

弟は、最初から寝不足だと言ってモップを抱いて寝てしまった。頭ぶつけても起きないから、熟睡してるらしい。器用な子。



「トモのお仕置きがまだだったな」



うとうとしていると、頭を撫でながらボッシュさんがぼそっと呟いた。


なんで、お仕置きするのですか?


聞こうとしたら、口を塞がれた。



死ぬ死ぬ死ぬっ!!


ギブです、3回叩いても通じないしっ!



気が遠くなったらやっと離れてくれた・・・。



「あんな格好を他の男に見せるなんて…」



やっぱそれか!

夢じゃなかったんだね!


ぺろりと舌で唇を舐めるのがやたらセクシーで、そう言えば顔とか首とか舐められた事を思い出す。

鼻血出そう。

なんかもうくたくたになったので、私はそのままボッシュさんにもたれて丸くなった。

膝を借りてこのまま寝てしまおう。

砦に着く頃には恥ずかしさも消えるはず。煩悩退散。



「おやすみ、トモ」



優しく撫でてくれる手のひらが嬉しくて、落ちないように支えてくれてる腕に安心して、目を閉じた。


次でやっと帰還です。



年内は切りがよいのでそこで終わりにしようと思います。

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