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61・レベル1で倒せたはず

姉 弟視点です



ほどよく積もった雪が、明かりに照らされてぼんやり光って見える。

ちょっとだけ、気味が悪いと思ったのは秘密。


馬車の車輪?や内装を冬用に変える作業の音と、声――主にクルトの悲鳴――が聞こえてきて、皆が笑う。


ちょっと離れたら、きょろきょろしている近衛の人にぶつかりそうになった。

この人が1人でいる所を初めて見たような気がする。



「失礼!殿下を見かけなかったか?」



ぶつかる寸前肩をつかんで勢いを殺して、そのままの姿勢で問い掛けられた。

王子様、迷子か。



「いーえ。会ってませんけど。裏にも来てなかったですよ?」



クルトとパイクさんとボッシュさんとお役人だった。宿にはマイヤーさんと他の騎士が居るはずだけど、王子様が近付くとは思えないなぁ。


残るは。


「弟がいないから、一緒にどこかで遊んでるんじゃないですか?」



心当たりを教えてあげたのに、近衛さんは絶句して間抜け面で私を見た。口を半開きにするとイケメン台無し。女の子だと可愛いのにネ!



「一緒に探してくれ……」



ため息混じりに言われたので、了解してあげた。よく考えたら、四六時中付きっきりでガキのお守りは大変だろうな。逆に王子様も、息が詰まって逃げ出したくなるだろうし。

気の毒〜。


近衛の人は、宿の周りをぐるっと回って、何となく近くの細い道、というか建物の隙間を覗き込んでいた。猫じゃないんだから、店とか街中を見たらいいんじゃないだろうか?


私の不審な視線を感じたのか、肩をすくめた。



「こういう時は、狭いところに隠れる事が多いんだ」



慣れてるなぁ。というか、あの真面目そうな王子様は脱走癖があるのか?ちょっと意外だ。


この機会に、近衛の人をじっくり観察する。

身長は多分180以上で、ボッシュさんよりは少し低いかな。短めの髪は焦茶で癖があって、のばしたらもじゃもじゃになりそう。

しっかりした眉は上がり気味で、表情の変わらない灰色の目と合わさってちょっと怖そう。爪の飛び出るミュータント役の俳優に似たワイルドなイケメンだな。この国でもてる系だ。



しばらくうろうろしてても見つからなくて、近衛さんの眉間には山脈のような皺が寄ってきた。

きっと王子様は見つかったら物凄く怒られるに違いない。ふふ、叱られる王子様なんて滅多に見られるもんじゃないよね。


口元がにやけたのを見られないように、顔を反対側に向けたら見慣れた後ろ姿が目に入った。

見つけちゃったよ!


近衛の人の袖を引っ張って合図すると、鼻息荒くずんずんと進んでいった。

頑張れ、名前知らないけどさ。




○ ○ ○ ○




今日は、出発も近いので馬車を整備したり増えてしまった荷物を詰めたりと朝から大忙しです。


馬車の整備は珍しいので、姉は寒い中面白そうに見ていました。見ているのはもしかしたらやる気なさそうにクルトに指示をしているボッシュさん限定かもしれませんが。



僕も近くへ見に行こうとしてコートなどを着込んでいると、窓越しに歩くロタール殿下が見えました。

こっそり、1人で。


何故だか、面白くなるという予感が止められません。ここは尾行してみるべきでしょう・・・!



「身を低くしろ」



こっそり尾行をする筈が、新雪を踏みしめる音であっさりばれてしまいました。王子様は物凄く不本意そうでしたが、『散歩』に同行する事を許可してくれたので遠慮なく観察できます。


さっきは窓から見えていたので、宿の室内から見えないように、身を潜めてそっと進みます。

あ、これがSNEAKINGというやつですかね。何だか楽しいです。


でも、隠れて散歩は無いですよね。抜け出してどこかに用事でもあるんでしょうか?


「どこに行くんですか?」


「歩くだけだ」



ええぇ〜?

ほんとに散歩だけ?


僕の心の声が聞こえるわけはないんですが、王子様の目は『なんか文句あんのかゴラァ』と語っていましたので、そっと目線を外しました。きっと来てから続く激務で気が立っているんでしょう!


ただの散歩なら、こんなに寒い中出て来なかったのになぁ。後の祭りですね。



「おい」



しかし微妙に帰り道が解らないという情けなさ。どうして変な小道ばっかり入るんでしょうか?人気の無い死角の多い細道は行ってはいけないと習ったんですけどね・・・。



「おい、止まれ」



呼び止められて僕が振り返ると、立ち止まっていた王子様が地面を睨んでいるような、険しい表情をしています。

もしかして、道間違えた?


僕が戻ると、やっぱり地面を見ながらそこを指差しています。

変な奴、と思いつつ指の先を辿ってみれば、そこには何かがありました。

または、居ました、と言うべきでしょうか?



大きな葛餅だ、と思いました。背筋がぞっとします。アレ系は駄目なんです、飲み込めないんです!

ぷるぷるっとして、やたら弾力があって・・・?


あれ、ぷるぷるっと動いてますよ?



「…ちょ、あれ、王子!動いてますよ?何ですかあれはっ」



「何だろうな?私も初めて見た」



うわぁやたら冷静なのがむかつく!



「自分とこの国民…?でしょうが、このナマモノっ」


「それはそうだな。不勉強だった、すまない」



もうこの王子を囮にして逃げましょうか?



「見つけましたよ」



恐慌の余りちょっと危険な発想にとりつかれた時、後ろから聞き覚えの無い声がしました。


振り向くと派手なシマシマが目に入って、ほっとします。

そこには王子を探しに来たらしい近衛騎士と、何故かにやにやしている姉がいました。



「コレを知っているか」



王子様は慣れているみたいで、お小言を貰う前に質問して機先を制しました。近衛騎士は殿下のご下問を後回しにするような人ではなかったようで、コレ、を確認しに来ました。



「なぁに、スライム?」



明らかに騎士を盾にしながら見に来た姉が呟きます。



「何でしょうか、初めて見ましたが…」



スライムでも流動体生物でも餅でも何でもいいですから帰りたいです。

さっきより近付いてきているような気がしなくもないですし。


「ぶよぶよねぇ…どこが前だろ」



フサフサが駄目でツルツルが平気な姉は王子と一緒になってそいつを突き回しています。冷静に見るとかなり大きい事が解ります。

60×40×30くらいでしょうか、うわぁ気持ち悪い。



「えい!」



気付いた時にはもう遅く、姉がどこからか拾ってきた木の枝を、思いっきり突き立てていました。



「おい、あまり乱暴は…」



「見てたなら止めて下さいよぉっ!」



思わず王子様に突っ込んでしまって、近衛騎士に怒られるかとヒヤっとしたけどそれどころじゃありませんでした。


一撃を食らったソレは、ぷるぷるより更に激しく震え始め、明らかに危険。感情があるなら、怒り狂っている、と見た人皆が思うでしょう。



「「うはぁ…」」




震えていたソレは一気に伸び上がって、僕達の頭上より遥か高くまで形を変え、津波のように、並んで立っていた姉と王子に襲い掛かりました。



びたっというかびちょっというか、とにかく不快な音が響いたのは何もない地面の上。

間一髪、近衛騎士に抱えられて2人は無事で、そのまま離れて行きます。


あれ?



「あのぉ…」


「下ろせ、自分で歩く」



騎士は王子様だけ下ろして姉は抱え直しました。



「あなたはじっとしていてくれ」



気持ちは解りますけど。

退治しなくていいんでしょうか?



「あのぉ…」



再び僕が声を掛けると、騎士はきっぱり言いました。



「私の任務は殿下の警護。あれは緊急性はないようだから、後からでも間に合うだろう」







少し不貞腐れたような顔の王子様は、部屋で待っているように言われて素直に引っ込み、近衛騎士は相変わらず姉を抱えたまま移動しました。



「何やってるんだ?」



「この人から目を離さないでいただきたい」



探していたのは保護者でしたか。

驚いて反応に困っているボッシュさんに姉を押しつけると、ほっとした顔になって、今度はクルトやマイヤーさんにさっきの事を説明しはじめました。



「何やってたんだ?」



事情の解らないボッシュさんは、姉を持ち上げて目線を合わせて聞いています。流石、隠れマッチョ。



「一緒に、逃げた王子様を探してあげたの!そこで変な生きものを見つけて、いじってただけ」



結果を省いて報告するのはどうかと思うけど。

まぁ、ボッシュさんはそれより近衛騎士が姉を抱き抱えてたのが引っ掛かるみたいで、あの人が触っていたお腹周りを不満そうに撫でてます。

なんだか馬鹿らしい。


目を逸らすと、クルト達がなぜか嬉しそうに、剣や松明やらを持って出て行くところでした。

正体不明の軟体生物は、あの怖いお兄さんたちに狩られるのでしょう。



どうか恨まないで下さい。一生、ぷるぷるしたものはたべません。




葛餅の量り売りは、ちょっとグロかったです。


たらいにみっしり詰まって黄粉をまとった姿は、何かの生物のようでした。


まぁ私は好きなんですが。



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