番外編・ねらいうち
アガサ姐さん頑張ってます
あぁ怖かった。
ボッシュはトモの事となると、人が変わるような気がする。いや、あれが本性なのかも?思わず逃げ出してしまったけど、あの子は大丈夫だったろうか。
気の利かない男ばかりだけど、宿にはおかみさんも居たし、まぁ心配することもないか。
それより、この際だからちょっと武器屋を覗いてみよう。弓がどうなっているか気になるし。
顔も見たいし。
「こんにちは…」
緊張して、何だかか細い声になってしまった。平常心平常心・・・。
「アガサさん!ようこそいらっしゃいました」
奥から、穏やかな顔のメルローズさんが出て来て、それだけなのに暖かい気持ちになる。
「や、やぁ。夜まで時間が空いてるから、作業はどうかな、と思って。邪魔しちゃったかな?」
「いえ、そんな事は。休憩しようとしていたんです。お茶でもいかがですか?」
もちろんご一緒します。
何だか緊張して言葉に詰まって、頷くことしか出来なかった。
せめて笑顔が引きつっていませんように。
店の奥は工房になっていてこちらの方が遥かに広かった。作業台には様々な工具や武器が置いてあって、勧められた椅子に座って見ているだけで楽しい。
「お待たせしました!すみません、ちらかっていて」
いい香りのするお茶を運んできたメルローズさんが、申し訳なさそうな顔になった。オノリアによると酒は全然飲まないらしい。
飲んだくれより、よっぽどいいじゃないか?
「こういう所は好きだから見られて嬉しい。砦にもあるんだけどね。あなただけでやってるの?」
「はい。この街は旅の途中で寄る方がほとんどですから、修理が主で、売れるのは料理用くらいなんです。私だけで間に合っちゃうんですよ」
困ったように眉を下げて苦笑する顔が可愛い。
さりげなく混ぜた『好き』には反応してくれなかったなぁ。どうしよう。
「このお茶、美味しい。上手に煎れるんだねぇ」
「ありがとうございます。独り身ですからね、なんでも自分でやるんですよ」
ご両親も早くに亡くして、ずっと独りなんだってね。この温厚な彼を見ているといいご両親だったんだろうと思われる。
「……寂しくない?」
思わず口をついて出て来てしまった言葉に、一瞬メルローズさんが驚いた顔をして、私を見た。
「店をしていると、色んな方がいらっしゃって退屈しないし、おせっかいな街の人も居るんですよ?」
謝ろうとした私を遮って、安心させるように、優しく笑ってくれた。
「温泉でオノリア婆さんが会ったって、言いに来たんです」
「……え?」
続けられた言葉に、お茶を吹き出しそうになった。
まさか、まさか。
「何か…言ってた?」
「は、はい。色々話をしたそうですね…」
オノリア!彼に何を言ったの!
何で目を逸らして赤くなってるのっ?
迷惑、だったんだろうか?
「なんか、ごめんね?勝手に」
単なる客が色々聞いてたらそりゃ嫌だろう。
あぁ。せめて修理代を割り増しで払おう。
「いえ、違うんです。アガサさんは……」
名前を呼ばれたので、沈んだ思考からふと浮上した。綺麗な青い目に、吸い込まれそうになる。
「私の事を聞かれたということは、私個人に、興味がお有りということでしょうか?」
赤い顔のまま、一気に喋ってアタシの顔を見た。
返事をしなくては、と思うけどいい言葉が思い付かない。仕方がない。
「勝手に、探るような真似をして申し訳ない。けど、アタシはメルローズさんの事が知りたかったの。本当にごめんなさい」
偽らずに白状したものの、怖くなって床に付いた自分の足を見つめることしか出来ない。
修理も断られたらどうしよう。自業自得だけど帰りが不安だ。
無言の時間がとても長く感じられて、流石にそっと顔をあげて彼を見ると、さっきよりも赤い顔――耳まで赤くなっていた。
すごく怒ってる?
苦情を申し立てられたら、今なら殿下がいらっしゃるから下手したら騎士団を解雇されるかもしれない。
「私は女性から好意を示されたことがなくて、うまく言えないんですが……お気持ちは大変嬉しいです」
ゆっくり言われた言葉に、耳を疑った。
好意を持たれた事がないというのは多分気付いてなかっただけだろう。
「どうして私なんかに興味があるんです?」
照れたように、不思議そうに聞かれて合点した。
顔が赤いのは怒ってるんじゃなくて、恥ずかしがってるんだ?
「そういう所。気取ってなくて、仕事に熱心で、初対面の客の心配してくれた」
ちゃんと言えたけど、顔が熱いので負けず劣らずの赤い顔になっているだろう。
アタシ達は暫らく赤い顔のまま無言で顔を見合わせていたけど、同時に吹き出して、緊張が解れた。
美味しいお茶をおかわりして、それから今度は色んな話をした。
ほとんどは弓の事だったけど。
青い目が好きだと、言ってみた。
アタシは砦切っての射手。狙った獲物は逃がさない!
アガサ番外編は完




