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59話・まわる世界の中で

ボッシュ 姉 視点です



王子に強く言われて、今日も温泉に行く事になった。傷ぐらい放っておけば治るんだが、トモ達はそういうわけにはいかない。

今度はアガサもいるから、安心していられるな。


そう思って、前よりかなりゆっくりして待合所に来てみれば、まだ2人は出ていなかった。



「今日は随分遅いな」


「女性は髪が長いし、支度に時間かかりますよ」



思わずこぼれた呟きにリョータがしたり顔で答え、膝の上のモップを撫でた。



しばらくそうして待っていたが、出てくる気配が無いので誰かに様子を見てきて貰おうか、と2人で話していると。



「遅くなった!ちょっと…色々ごめんよ」



途方に暮れたような、引きつった笑いを張りつかせたアガサが、トモを半ば抱えるようにしてやって来た。

一体、何が。



近寄ると、トモが腕を伸ばして擦り寄ってくる。

まさか、酒を飲んでいるのか?



「アガサさん、なんでトモが酔っ払ってるんです?」



リョータが目を吊り上げて問い質しているのが聞こえるが、こっちはそれどころではなかった。


前よりも酔いが回っているのか、ゆるんだ顔を俺の胸元につけ、しっかりと服を掴んでいる。目元まで赤く火照らせ、潤んだ目で見つめられ――これは何の拷問だ?

理性を掻き集め、咳払いをしてからトモの両肩に手を置くと、柔らかく暖かい猫はさらにうっとりと微笑んだ。



「トモ?どうして酒を飲んでるんだ?」


「お風呂に、チーズのおばあちゃんがいたの。あがしゃしゃんが武器屋の子とらぶらぶなんだって言ったらくれたの。おばあちゃんが作ったんだって〜」



一応説明する気はあるらしいが、言ってることの半分も意味が解らん。



「人前で酒を飲むなって言っただろう?」


「飲んでないよ〜」



ダメだ。色々と。

ふにゃふにゃ言いながら顔というか、体全体を押しつけてくるので、服の上からでも熱いくらいの体温が伝わってくる。


恐ろしく軽い体を抱き上げて、リョータ達を促した。これ以上他の男の目に曝してたまるか。


馬車に乗り込む頃には、トモは半分以上眠りかかっていた。このまま大人しく眠ってくれたらいいんだが。戻ればパイクはいいがマイヤーやらクルトがいるし、年頃の王子もいる。

こんなに無防備な状態のトモを奴らの前に出すわけにはいかない。



「トモ、このまま寝ろ。夕飯には起こしてやるから」



優しく撫でてやると、素直に頷いて目を閉じた。髪がまだ湿っているから拭いてやらないと風邪を引くかもしれない。



「い〜ぃにおいする」



胸元でもごもごと、トモが呟くので思わずこちらも頬がゆるむ。

いい香りなのはそっちなんだが。


冷ややかなリョータの気配がなければもっと近くに抱き寄せて、色々堪能したいんだがな。



「トモは酒に弱いんだな」


「そうみたいですね。そんなトモは初めて見ました」



何故か不貞腐れたようにリョータは言って、デレが何とかと呟いた。時々この姉弟は意味の解らない言葉を使う。故郷の言葉なんだろう。ただ、今回は何となく意味を聞かないほうがいいような気がする。




○ ○ ○ ○




お風呂でおばあさんに貰ったのを飲んでから、世界がブレて見える。


なんだか楽しいし。


アガサさんが体を拭いて、服まで着せてくれた。もぅ小さい子じゃないから自分で出来るのに。



待合室で立っているボッシュさんは、そこだけはっきり見えた。


砦にはでっかい人ばっかりだからあんまり思わなかったけど、今日は特に目立っているよ!周りの男の人とは格が違う格好良さ。

うん、やっぱ大好き。


逃げないように服を掴むと安心する。

ちょっと怒った顔はなんでかな?遅かったからかな?そんな顔も、心配顔も、優しい顔も見てて幸せ。


ひたすらくっつきたくて、胸元にふにふにする。

あったか〜い。


アガサさんも、好きな人と上手く行けばいいな。



取り留めなく考えながらボッシュさんにしがみ付いていると、いつの間にか宿に戻っていたみたい。



「うわ、どしたんそれ。羨ましい」


「どうして温泉行って酔うんですか?」


「わ〜かわ…いえ見てません!」


「ん〜?」



聞き慣れた声に、目が開きそうになる。ご飯かな?もう夜?



「起こしたら気の毒だ」 



静かな声がした。

誰だっけ?王子様かな。


声のした方に顔を向けようとすると、大きな暖かい手に頭を固定された。そのまま撫でてくれて気持ちがいい。


それから暫らくしてベッドに寝かされて、耳元で声がした。



「トモ?服を放してくれないか」



いやです。


もっと強くにぎにぎする。離れたら寒い。 



「隣にどうぞ」


「……は?」



珍しくびっくりした声に、薄目で観察。


おぉっと、近い。



「しゃむいので、隣に来てくだしゃい。だいじょぶ、変な事はしないよ」



片方外して、ベッドをばしばし叩く。

それでも動かないので、ちょっと悲しくなってきた。



「嫌ならいいでしゅ。じゃあリョータか…クルト呼んでくだしゃい」



クルトはテンション高いからあったかそう。


諦めて服を放した途端、唸り声が聞こえて、がっしり手を掴まれた。



「ふぇ?」



半分も開かない目で見るとボッシュさんは真っ赤になっていた。

なんか怒ってるみたいだから、謝ったほうがいいのかも?



「ご…」



なんで怒ってちゅーするのか解らない。

でも嬉しいからまた目を閉じると、となりに大きな暖かい物体が来て、ぎゅーっと抱き寄せられた。



「…隣にいるから、寝ろ。いいか、動くなよ?」



ボッシュさんに抱えられてると、保温状態がいい。

でも動くなって。

ちょっとだけもぞもぞして安定する位置に到着して、しっかり目を閉じた。



眠り込む寸前、ボッシュさんのため息と独り言が聞こえた。




生殺し!



ちなみにトモちゃんは正気ではありません。


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