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番外編・女心と職人気質

影の薄いアガサ姐さん



ああ、これは修理に出さなくちゃいけない。

父から贈られた弓――翼獣を仕留めきれなかったのが悔しい。弦が弛んできているのか、もしかして本体が寿命なのか。


時間ができたら武器屋に寄らせてもらわなきゃ。





廃城で同行する事になった親子と食事をしていて思ったけど、娘のほうがボッシュに気があるみたいだ。

彼はトモと相思相愛で、他は目に入らないって様子だけど。現に今も、具合を悪くしたトモの看病で宿に行っている――あの子は体が弱いからそれはもう心配だろうね。


この子がどのくらい本気か知らないけど、あんなに想い合ってる2人の仲を裂くような真似はして欲しくないな。マイヤーみたいに軽い気持ちでからかって遊ぶのもね!






後から合流したボッシュとトモも一緒に、おいしい食事を終えて。

宿に向かう途中にそれは起こってしまった。


トモの悲鳴。流れる血。


復讐だか何だか知らないけど、弱い存在を狙うだなんて反吐が出そうだ。

逆らえない子を道具に使うのも。許せない。


今回、あのオルガって子に同情してるのはアタシくらいかもしれない。

的外れな逆恨みの復讐は勿論とんでもない。ボッシュやマイヤーは、父親の言いなりで何も考えずに実行したオルガや、それを止めずに手を貸した獣人兄弟に怒りを募らせている。


でも、あの子には多分選択の余地が無かったんだ。貴族の庶子として、父親に逆らうなんて事は頭の隅にも浮かばなかったろう。それにきっと、ボッシュに惚れたのは演技もあったみたいだけど――半分以上は本気を感じたんだ。

だからまぁ、止めなかった獣人には文句を言ったんだけど、社会性の違いか、理解されなかった。

こればっかりはどうしようもないね。





早く砦に帰りたいのに。


ボッシュは怪我しているし姉弟は王城での騒ぎから、まだ本調子ではない。

今回の襲撃で怪我をしてしまって、もっと悪い状況になってしまった。


トモは夜うなされるし、リョータは眠れないと言って一晩中宿をうろうろしていた。事件の所為で煩かったというのもあるだろうか。可哀相に。




「温泉にトモ達を連れて行くんだが、どうする?」



寝不足とその他諸々でひどい顔のボッシュが言った。こいつがこんな顔してたらトモが心配するだろうに。



「いや、アタシはちょっと武器屋に行かせてもらう。弓の調子が悪くてね。マイヤー誘えば?」


「いや、俺はいい。何で知らん野郎共と一緒に風呂入らなあかんねん」



丁度後ろを通りながら欠伸混じりに言うので、結局行くのはボッシュと姉弟ということになった。その方があの子達も寛げるだろう。


暫らくして砦からパイクとクルトが到着して、書類は彼らに任せた。



これでようやく、武器屋に行ける!



街の入り口に近い、一軒の武器屋。外から見た品揃えからは、かなりまともな部類に入るだろう。



「…いらっしゃい」



壁や棚に展示された武具類に目を奪われていると、低い声がかかった。


すらりとして背はアタシと同じくらい、だけどずっと細い。もしかして――。



「あなたが、店主?」



恐る恐る声を掛けると、微笑んで頷いた。

若い。パイクと同じくらいか、とても武器屋の主人には見えない、こんな優男。



「騎士さんですね、何をお探しですか?」


「あ、あぁ、違うんだ。弓の修理を頼めないかと思って…これを」



気を取り直して、弓を預けると、隅々まで、傾けたり引っ張ったりして調べ始めた。なぜだかそれが気恥ずかしい。


店主は柔らかそうな砂色の髪がちょっと寝癖で乱れていて、真剣に弓を見る目は明るい青色。

こんなに綺麗な顔の男にはケラーさん以外で初めて見たかもしれない。


は、見惚れている場合じゃない!



「ちょっと威力が落ちてきたような気がするんだ」



店主の顔から視線をずらして、彼の持つ弓を見ると、その状態を確かめる手は大きくて傷だらけ。働いてる手だ。



「そうですね、補強すれば問題ありませんよ」



何度か頷きながら言う店主と目が合った。その美しい青色に目が離せない。

青が一番好きな色なんだよねぇ、制服は緑だけど!



「……あの?」


「はっ、うん、頼むよ!ただ時間が無くてね。一時凌ぎでいいんだ」



アタシが慌てて答えると、店主の顔が不意に険しくなった。



「何を言うんです!貴女にとって武器は命を預ける大切なものでしょう?常に完璧な状態でないと、もしもの時どうするんです!」



うわ、怒られたっ!

しかも至近距離で。


綺麗な顔をあんまり近付けないで欲しい。腰が抜けそうだよ。

迫力に飲まれて後退りながら無言で首を縦に振ると、我に返った店主も一歩後退した。少し赤くなって、可愛い。



「し、失礼しました」


「イヤ、うん、心配してくれてありがとう」



こんな時うまく喋れないアタシは自分がイヤになる。ジルのように、皆から好かれる子が羨ましい。



「出来る限り急ぎますからどうぞ私に任せて下さい。代わりの弓も好きなのをお持ちになって下さい」



そんな真剣な目で言われると断れないよ。

見た目と違って頑固で融通が利かないみたいだけど、武器屋だからこれくらいでいいのかね。



「まだ何日かは居ると思うから、お願いするよ。アタシはアガサ」



またこの人に堂々と会えるわけだ。

久しぶりに心が踊る。





色んな話をして、彼に見送られて店を出たらもうすっかり日が暮れていた。あの3人も温泉から戻っているかもしれない。



「じゃあ、メルローズ、さん。お願いね」


ぎこちなくなった挨拶に、顔に血が昇るのを感じた。次にはもうちょっとまともな会話ができますように。




意外に落ち着いて思慮深い一面もあるアガサさん。


見た目のイメージで頼りにされてるので、アネゴキャラを崩せなくなっているのです。


そういう事ってありますよね。

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