56話・なに王子?
弟 ボッシュ視点です
久しぶりに、穏やかな夕食を楽しみました。
温泉で体も楽になって食欲も出たし、姉も機嫌がすごく良かったし、なぜか食堂のキャバ嬢が王城の侍女にジョブチェンジしてて視覚的にも楽しめました。顔の傷がかゆいのが気になりましたけど。
どうやら温泉で姉と交流を深めたらしいです。
初めて会った時は気が合わなさそうだったのに、女子はよく解らないですね。
ただ、元気になったらなったで、人前でいちゃつくのはどうかと思いました。
しかもこっちは全員独り身なのに。
まぁ僕には可愛いモップがいるからいいですけど!
温泉効果か、毛がぽわっぽわです。意外に泳げるのも解って、帰ってからパイクさんに即報告しました。
腹八分目まで食べて、ぼんやりしていると姉がうとうとしていました。ガクってなるのが面白くて見ていると、本格的に寝入ってボッシュさんの膝枕です。
マイヤーさんがからかってクルトが面白いくらい焦って、パイクさんが無理矢理黙らせました。どこまでボッシュさん好きなの、この人。
ジルさんとどうなったんだか聞きたいんですけど、本人がいなかったら鉄壁なんですよね〜。まぁそんなに急には変わらないかなぁ。
「あ〜ぁ、いいなぁ」
店の外は相変わらず雪が降っていて、うっすら積もっていました。僕が足跡をつけて遊んでいると、後ろから僕の肩に肘を乗せて、クルトがため息をつきます。
いつものメンバーが居ない上に怖い先輩ばっかりだから、調子が出ないみたいですね。
「トモちゃんを応援してるんだけどさ、あっさりべたべたされるとつまらないというか、羨ましいというかねぇ?ふくざつー」
「気持ちは解りますけど、命が惜しかったら邪魔しない方がいいですよ?」
「しないけど。なんかさ、妹を嫁に出す気分?」
いつあんたの妹になったんですか。
平均寿命が短いと、結婚も早いですよね。そうですよね。
眠ってる姉を大事そうに抱えてゆっくり歩くボッシュさん。
体を張って守るし、美少女にもお色気美女にもなびかないし、基本的に溺愛っぽいし。
まぁちょっとおじさんだけど僕から見ても格好良い事は認めますよ!
合格。
合格なんですけど。
「複雑ですよね」
「弟よ!」
クルトに頭をぐりぐりされて転びそうになっている僕を見て、アガサさんが呆れ顔になります。
「リョータに妙なこと吹き込むんじゃないよ?」
クルトって信用無いですねぇ〜。
そんな会話も楽しかった夜が明けて、更に冷え込んだ朝。やっとお城から人員が到着しました。
なぜか全員整列でお出迎えですよ。雪が10センチくらい積もって現在進行形で高くなってるんですけど?
「出迎えご苦労」
えらっそーな上から目線で声を掛けたのは、僕より少し背の低い、同年代の奴。茶色の髪に、年の割に落ち着き払ったモスグリーンの目。
誰?
僕の疑問は即解消されました。近衛騎士がくっついていたから。
つまり、王族。
人が良さそうな顔してえげつない策を採る王様の息子ってことですね!
何しに来たんだよ?また帰りが遅くなる。
○ ○ ○ ○
朝は更に雪が積もり、吐く息が白い。
本格的になる前に、帰らなければ。
見回りをして戻ると、宿に都からの要員がようやく到着していた。
安心したのも束の間。
「遅れて、第2王子が来ます」
騎士が声を低めて言うので思わず見返した。
何をしに来るというんだ?だいたい、まだガキじゃないのか?
「研修だとか…で」
諦めたような、何とも言えない表情で言う彼を責めても意味が無い。
名前はなんだったかな。
変り者だと聞いた覚えがあるが。
「ロタール殿下、ご到着です!」
眠たそうな顔を隠そうともしない面々で出迎える。ぎりぎりまで寝かせておいた姉弟は、雰囲気で察したのか静かに状況を受け入れていた。
ロタール王子は粗末な宿にも文句を言うことも無く、淡々としている。確か騎士学校に入学した辺り、リョータと同年か。
「まずは、2人に陛下から直接見舞いに行けぬがよく養生するように、とのことだ」
挨拶も抜きで話し掛けられ困ったような表情になったが、姉弟は会釈して口々に感謝の意を陳べる。王子は特に興味をひかれた様子もなく、部屋で休むようにと返した。
少しは世間話などしないもんだろうか?
変わっているという噂は本当だったらしい。一瞬、トモ達の迷い、問い掛けるような視線がこちらへ向いたが、何も言わずに客室へ戻って行った。
「捕らえた獣人族と話がしたいのだが」
「聴取は都に戻られてからでも宜しいのではございませんか?」
王子の発言に、パイクが遠慮がちに返答する。アガサとクルトは緊張で固まっているし、俺とマイヤーは王子から出来るだけ遠ざかっている。
身分からも性格からも、パイクが応対するのが最適だろう。
怪我を理由に下がれないもんだろうか。
「いや、出来る限り時をあけずに話をしたいのだ。他の獣人族への配慮もそうだが……道中何が起こるともわかるまい」
眉間に皺を寄せ、王子は重々しく言う。
お前は本当に10代なのか?
「近衛の方と、パイクが供をすればよいでしょう。拘束してありますので安全に問題はありません」
パイクの縋るような視線を受けて答えると、王子は大きく頷いた。
約1名喋れないかもしれんが、何とかなるだろう。
陛下はこの王子にレヴァイン家残党の処断を任せたようだ。確かに、宮廷に巣食う老獪なあれやこれやと渡り合う為には良い経験となるかもしれないが。
王位の継承権が一段下がっただけで汚れ仕事とは、気の毒なことだ。
リョータの「誰?」に
「カナダだよ!」と答えたあなたはお友達です。
次回はちょっと長く、というかダラダラ視点を変えて書く予定です。
が、身内に不幸があったので数日先に更新します。
話の筋として主人公のテンションあがってきた所なんで、自分も気分が良くなってから書こうと思います。
では、寒いので皆様お体に気を付けて!