55話・幸せなひととき
姉 ボッシュです
「これ美味しいよ、はい、あーん?」
温泉でさっぱりして、宿に戻って手当てをして。
今度は皆で夕飯を食べに来た。
早速お色直しをしたオネーサンズに男共は釘づけ。してやったり、ていうのとボッシュさんまで見てたのでジェラシー!
よく解らないけど、パテみたいな柔らかいのをフォークでちょっととって差し出すと、ボッシュさんは困った様にフォークの先を見て動かない。
恥ずかしいのかな?
自分はやったくせに。
あ。これが嫌いなのかな。
諦めて自分で食べようと思ったら。
わし、と私の手ごとフォークを掴んで口に運んだ。
おぉ、素直でよろしい!
「まぁうまいな」
よかった。肉っぽいから食べてなかったんだよね。
「そういうのは二人きりの時にやってくれないかな」
「なんやすっかり元通り?これはこれで欝陶しい」
「ああぁ羨ましい〜!ズルいっすよ」
「トモ、こっちも美味しいよ」
「ゴホン、見て見ぬ振りをするもんだよ、全く気の利かない連中だね」
外野がうるさいな。
皆はオネーサマ方を見てりゃいいのに。看病の時は弱ってたからボッシュさんの反応が鈍かったんだよね。
ちょっと照れたり手を握られたり、色々あるほうが楽しい。
私きっとにやけてるだろうな。ここんとこ落ち込みが激しかった気分が急上昇してて、やばいくらい。
私も少しパテをとって、食べてみた。うん、まぁうまい、という感想に納得した。不味くないしすごく美味しいわけでもない。
微妙?
「そんな事より、いつ帰れるんですか?」
そんな事ってどの事よ、弟め。最近反抗期かな。
場を和ますというのは大事な事なんだよ?さんざん心配かけた私が、今更だけどさ。
「囚人護送の役人と騎士が着かない限り、ここから動けない」
苛立って顔の包帯を引っ張る弟に、ボッシュさんが淡々と答える。
そういえば砦で囚人に逃げられたのもその役人だったな。
「今日は昼寝した程度やんか、体調整えな馬車は辛いで」
酒瓶片手に、マイヤーさんが静かに言った。
酒瓶はリターナブルで、空になったら酒屋に戻して使い回し。だから食堂なんかで割ったら罰金とられることもあるらしく、客が飲んだらすぐ回収に来る。
今みたいに。
「お代わりいかが?もっと強いの、有りましてよ?」
GAGA風おねーさんは、何だか話し方まで変わってる。にっこり笑ったのを見て、クルトが赤くなった。年上好きなのかな?
「酒はもういい」
ボッシュさんは、ちらっとマイヤーさんが頷くのを見て答えた。
今夜は皆控えるらしい。
そもそもボッシュさんは怪我人だしね!
パイクさんは弟と一緒になって、モップに食べものをやってるし、アガサさんは自分が食べるのに忙しい。
お腹が満たされて、暖かくて、ざわざわと音に包まれているうちに、視界がぐらっとした。
いつの間にかうとうとしてたみたい。
座り直して目をパチパチさせても、目蓋が重くて開けていられなくなってきた。
「トモ、大丈夫か?」
肩に手を置かれたので、その重みで私の狭い視界が斜めになっていく。
ちょうどいいクッションに到達したので、そのまま気持ち良く枕にして、しっかり目を閉じた。木のベンチだったけど、いつのまにクッション置いてくれたのかな?
おやすみなさい。歯磨きしてないけど。もう無理。
誰かに優しく呼ばれた気がして、幸せな気分で夢に入り込んだ。
○ ○ ○ ○
姉弟を連れて、温泉に行った。この街のは初めてだったが、清潔で広々としていて、彼らも気に入ったらしい。
トモを1人にするのはかなり不本意だったが。
出てきたトモは、来た時より見違えるほど機嫌が良くなっていた。暖まって血色がよくなり、楽しいことでもあったのか、目が輝いている。
そのせいで首の傷と痣がひどく目立っていて、やたらと扇情的で、周囲の視線が気になった。
周囲の危険な男共から隠すために、頭から布を被せて髪を拭く作業に没頭した。
ふと俯くトモを見れば、顔が赤い。
「逆上せたのか」
水でも飲まそうか、と思って見ていれば、どうもこれは照れているらしい。
愛しさが込み上げ、そっと口付けした。
そして今は、俺に手ずから料理を食べさそうと、真剣な顔でこちらを見ている。
他の客はともかく、マイヤーやらリョータやらが見ているんだが・・・。
躊躇っている間にトモの顔が曇り、肩が下がったので慌てて細い手を掴み、そのまま食べた。
うん、何か解らん。
ただ、それだけのことなのにトモはとても嬉しそうだった。
反対にリョータは機嫌が悪く、早く砦に帰りたがっている。気持ちは解るが、引継ぎ無しに当事者が全員帰る訳にはいかない。
まったく今回の旅は碌でもない。
酒食がすすみ、気が付くとトモが揺れていた。どうやら半分寝かかっていて、本人は必死に姿勢を保とうとしている。見ていて面白いが、傾き加減によっては机で顔面を打ち付けるかもしれない。
それは避けねばならない。
そっと肩に手を置き、揺すって起こそうとしたら、体の力が抜けたようにこちらへ凭れ掛かってきた。
そのまま頭を俺の腿にのせて、目を閉じている。
「トモ?」
頬を撫でると、ふにゃりと微笑んだ。
久しぶりに見る、安心しきった顔。
寝顔を他の男に見せないために、外套で顔まで覆ってやった。
「嫉妬深い夫は、嫌がられるで〜」
「え?夫って、えぇ?」
マイヤーの揶揄にクルトが過剰に反応したので、睨むと同時にパイクが肉の塊を口に突っ込んだ。
「起こしたら可哀相でしょう」
情けない顔で咀嚼するクルトに、リョータが酒の器を手渡した。
「寝たら、滅多なことじゃ起きませんから。普通に話してて大丈夫ですよ」
そういうリョータも、眠たそうな顔になっている。
ようやく、いつも通りに戻れるのだろうか?
今夜は、子供達が安心して眠れるんであればいいんだが。
ただ惚気てるだけの回でした〜。




