48・嫉妬の炎は何色?
姉 弟視点です
目が合った途端、お互い相容れないと感じた。
簡単に言うとムカついた。
「待ってぇな、あんなん相手にせんで。な?まだ出たら危ないし」
追い掛けようとしたら、マイヤーさんに捕まった。
プテラノドンもどきのことを忘れてたわ。
でも弟も外に居るんだし、ボッシュさんは怪我人だ。
変な女の子も居たし。
ん?娘って言ったな。あれは親子なのかな。似てなかったけど。
やっぱり早く行った方がいいんじゃないかな、と思ってマイヤーさんを見ると、首を横に振った。
なんで言う前に断るかな。
ゆっくり進むマイヤーさんに手を取られているので仕方なく、一緒に進む。逆らうと怖い気がするから。
やっと、廊下がぱっかり割れたような場所に出たのでそこから皆の所へ戻ることにした。
「心配せんでも、翼獣相手にはアガサがおるから大丈夫やで」
無言で歩いていると、マイヤーさんが振り返ってそう言った。
なんでアガサさんだと大丈夫なんだろ?
「あの子は弓が得意やからなぁ。あれだけ的がでかいんや、無敵やな」
あぁ〜そうなんだ。
動いてたら難しそうに思えるけどなぁ。エルフ族の美形戦士みたいに百発百中なんだろうか。
「あんなぁ、トモちゃん。喋ってくれへん?」
急に頭をぐしゃぐしゃしながら、そんなことを言うのでびっくりした。
「言う前にマイヤーさんが答える」
ありのままに答えたのに、なんか不服そう。
ボッシュさんより年上なのに、弟が拗ねた時の顔みたいで、思わず笑ってしまった。
「…もぅえぇわ〜」
マイヤーさんの左手と私の右手。幼稚園児みたいにブンブン振って歩いた。
「見てみぃ、見事に仕留めとんで」
「うわ…グロ…」
やっと辿り着くと、まず目に入ったのは引っ繰り返ったプテラノドンもどき。
斬られてもげそうな翼が変な方向をむいて、大きな口からはデロンと舌が飛び出ている。
身体と翼には何本も矢が突き刺さっていた。
当然、辺りは流れた血で水溜まりのよう。うぇ。
傍でしゃがんで観察している我が弟と、得意げなアガサさん。
気持ち悪くないのかなぁ。
近付くのをためらっていると、アレの声がした。
「素ん晴らしいですわぁ!流石は騎士様、よくぞワタクシの愛する娘をお救い下さいました」
ボッシュさんに縋りつくようにして立っている謎の少女Aと正体不明生物B。
・・・・・・・。
「トモちゃん、怖いやんか喋って!あれ放っといてえぇのん?」
繋いだままの手を引いて、マイヤーさんが小声で言ってくる。
何を言えって?
そう思って顔を見ると、マイヤーさんはちょっと眉をひそめた。
それから死体を避けるように遠回りしながら皆の方へ近付いていく。
「お疲れさーん」
今の流れを断ち切るような声をかけると、弟が立ち上がって走り寄って来た。
「トモ!大丈夫だった?すごかったんだよ、アガサさん」
弟に手を取られて、いつのまにかマイヤーさんが離れていたことに気が付いた。
「平気。あんたは怪我ないの?」
見た感じ大丈夫そう。
やたらテンション高いし。
「トモ!」
ボッシュさんの声。
そっちを向くと、少女Aは相変わらず張り付いて、ウルウルした綺麗な目でボッシュさんを見上げていた。
綺麗な女の子。健康的で、華やかで、美人。
「あらぁ?アンタさっきの貧相なトリガラ娘じゃなぁい?何やってんのさ」
珍獣Bが、目を細めて私に言う。
「…変わった生物がいるのね。樽人間なんて初めて見たわ。リョータ解剖してみたら?」
弟は無言で私の手を放し、じりじりと後退りしていった。
「樽ですってぇ?このぉ小娘、煮込んでやろうか!」
「樽じゃなかったら球?長い坂の天辺から転がしてやろうか、隣の国まで行けるんじゃない?」
「トモ、何を言ってる。あまり失礼なことを言うな」
「父さん、やめて!騎士様のお連れの方よ」
ボッシュさんと少女Aがそれぞれ止めに来た。
私は、急に喋れなくなる。
「ごめんなさい、父が失礼なことを。疲れていて気が立ってるの」
少女Aが私の前に来て、にっこり微笑んだ。
「私はオルガです。仲良くしてね?」
首を傾げて、またにっこり微笑んだ。
無理です。
私がじっーと見ていると、困った様にもじもじし始めて、大人達にその視線を向けた。
「あの、私なにか嫌われるようなことしてしまったかな…」
何だこの展開。
少女漫画の健気主人公的な台詞。
私は、純真無垢で無邪気で健気な少女の存在を否定する。
今までそんなの見たことないし。
生きてる人間で、欲の無いヒトなんて気持ち悪い存在があるわけが無い。
特に、女は生まれながらにして女優だっての。
好きな人は独り占めしたいし、女の子でもオカマさんでもベタベタされると、むかつく。
あ、これってヤンデレ?やばいのかな。我儘言うと嫌われるかも?
なんかもう面倒になってきた。
「トモちゃん気分悪そうやったんで、先に馬車に連れてっとくわぁ。リョータもおいで」
ため息ついて俯くと、突然マイヤーさんに抱き上げられた。
「だから喋りぃって言うたのに。それにしても、あの人お父さんなんやなぁ。変わった人やなぁ」
こそっと耳元で言うその声は、半分笑ってるみたいでマイヤーさんにしては優しかった。
○ ○ ○ ○
初めは巨大な鳥だと思いました。
ボッシュさん達が言うには『翼獣』と総称して言われる生きものの一種で、赤い毛のアレは最大サイズらしいです。
もふもふと言うには、豪毛すぎますね。
ボッシュさんが囮になってアガサさんが弓で遠距離攻撃。合理的なペアですね。
ふらふらしながらもしつこく舞い降りてきたヤツの翼を、ボッシュさんが切断する勢いで斬り付けたのが最後の一撃でした。
怪我人・・・あんなに動いてよかったんでしょうか。
伏せた草から立ち上がって声をかけようとしたら、さっき2人が連れて来た女の子がボッシュさんに飛び付いた。
そう言えばこの子はどこから来たんでしょう?
「オォルゥガァァ!」
雄叫びが聞こえたかと思うと、近くの壁の穴から巨大な黒い物体が走り出て来ました。
僕は熊かと思いました。
「オルガ!翼獣が出たってホント?」
「父さん、大丈夫よ。こちらの騎士様が救けて下さったの」
あれ?あ〜、お父さん?こっちにもそういう人いるんですねぇ。
感動の親子対面。
騎士に救われた美少女とその父の、有りがちな話。
つまらないので、折角だから珍しい生きものの観察でもしましょうかねぇ。
「お疲れさーん」
マイヤーさんの気の抜けたような声がしたのでそっちを見ると、姉と手を繋いで帰ってきました。
珍しい生きものと間近で見た戦闘に、柄にも無く興奮していた僕は、姉の無表情の原因を勘違いしました。
翼獣の死体が気持ち悪いんだと。
建物内で出会っていたらしく、何故か女装のオジサンと口喧嘩を始め――気温が下がったような気がしてきたと思ったら、ボッシュさんとオルガさんが仲裁して更に冷え込みました!
ボッシュさんに叱られて姉が凍り付いた女王様みたいになっているのに、オルガさんは気付かないのか話し掛けて、玉砕して涙ぐんでいます。
う〜ん。
空気読みませんか。
わざと・・・じゃないですよねぇ。
ジルさんの例があるからなぁ。
ボッシュさん馬鹿ですね。さっさとフォローしたらいいのに、女装オジサンと何やら話して。
大人はそうするのが当たり前だろうけど、こっちは子供なのになぁ。
我儘な女の子なのに。
知ーらない。
「トモちゃん気分悪そうやったんで、先に馬車に連れてっとくわぁ。リョータもおいで」
マイヤーさんが軽がると姉を抱き上げて、返事を待たずに歩きだします。
流石最年長ですね!
見事な空気読みです。
意外とこういう時にはアガサさんは普段の強引さが隠れてるんですよね。
マイヤーさんは停めていた馬車まで早歩きで行くと、姉を降ろしました。
姉はさっきから黙ったままです。
大丈夫かなぁ。
変な事考えませんように。
オルガさんのせいで、盛大にヤキモチ焼いてるんでしょうけど。
たまに想像の斜め上にかっ飛ばす人だから、心配なんです。
「トモちゃん、ボッシュは隙が無い様でぼーっとした奴やからな、思ったことは言ったらないかんで?」
馬車に乗り込む姉に、マイヤーさんが言い聞かせましたが、どうでしょうね。
素直じゃないところが可愛いところだと思うんですけどね。
あそこまで解りやすく嫉妬してるのに放置するだなんていい度胸ですよね。
考え直すべきでしょうか。っていうかもう死ねばいいのに。
「おいおい、リョータ?顔怖いで?なんなん、もぅ。お前等姉弟はぁ〜」
おっと、口には出してないですよね?
マイヤーさんはため息をついて、馬車の近くにしゃがんでしまいました。
傍若無人に見えて、意外に気を遣ってくれてるのがわかります。いい人。
「おーい、待たせたね」
手を振るアガサさん。その後ろにボッシュさん。その横に例の親子。
なんでかなぁ?
「馬車にこの2人も同乗させることになった」
決定ですか。そうですか。
「よろしくねぇ、坊や。ワタクシはコンスタンスよ」
「オルガよ。よろしくね」
「…リョータです。さっきのは姉のトモです。体調が思わしくないようなので話し掛けないで下さい。命が惜しかったら」
「マイヤーです、さっきはどぉも」
あ〜あ。胃に穴が開くんじゃないかな。
アガサさんとマイヤーさんはさっさと自分達の馬まで避難してしまいました。
ボッシュさんはいつもと変わらない様子で、親子の荷物を馬車の屋根へ括り付けていきます。
う〜ん。
チャンスをあげた方がいいんでしょうか。
「ボッシュさん?どうしてあの人達も一緒になるんですか?」
「方向が同じだからな。食料を盗まれて、大変な旅だったらしい。父親…?は足を痛めているそうだ」
それにしては元気いっぱいに走ってましたけどね。
「トモがどうしておかしいか、自覚あります?今回に限り、無償で助言しますけど。女の子に嫉妬してるんですよ。あと、痩せてるのを言われるのが嫌いなんです。
姉の性格上ですね、このままいくと逃げられますよ」
「逃げるって、どういう意味だ?」
「苦しいのはボッシュさんが大事だからです。だから大事じゃ無くなれば、怒られても盗られても苦しくないでしょ」
自己防衛本能ってやつですかね?
まぁ、ここまで言われて何もしないならどうしようもないですよね。
ボッシュさんは少し考えて深いため息をつきました。
「悪い」
ぼそっと言って僕の頭を叩いて、馬車の扉を開きました。
「トモ、おいで」
今まで聞いたことのない甘い声で姉を呼ぶと、そのまま抱き締めてキスをしました。
おいオッサン。
姉を抱き上げて馬車から降ろし、目を丸くしている親子の前に立たせると、ブライアンさんのような優しい笑顔で姉を見つめます。
「この子は私の婚約者でトモといいます。道中よろしく」
親子は毒気を抜かれたような表情でコクコクと頷きました。
姉は何が起きたか解らないようで、茫然とボッシュさんを見ています。そんな姉の頭を撫でて、ボッシュさんは馬車の前の方へ行ってしまいました。
やりっ放しか!
思考停止中の3人は、大人しく馬車に乗り込み、成功なんでしょうけど。
これはこれでむかつきますね。
コンスタンスさん
本名コンスタンティン
勢いで出してしまった新キャラです。父であり母でもある。娘のために頑張ります。
足を痛めたのは、体重のせいかもしれません。




