6・かわいいのはもふもふ?それともお姉さん?
弟→姉 視点変更
何となく話す気が失せて、僕達は砦の中まで無言で歩きました。
騎士の二人は僕らが疲れ切っていると思ったようで、ボッシュさんが報告に行って、パイクさんが部屋に案内してくれることになりました。
「まぁ、野宿するよりは幾らかましだろう。君達の事情は明日聞くことにする。ゆっくりできるとよいな」
別れ際にボッシュさんが渋い声と味のある表情で言ったのが気になります。
ゆっくり休め、じゃなく、できるとよいな?
希望的観測。そんなにぼろい部屋なんでしょうか。こちらの生活水準や衛生状態がどうなっているのかわからないので、不安です。
ぱっと見は中世ヨーロッパ的なんですが・・・だったら一週間生きられる自信はないですね!除菌大国でトイレ先進国の日本で育ったんですから・・・
病気になるか、キレた姉にどうにかされて異世界に骨を埋めることになりそうです。
「さあ、ここだよ〜。寒かっただろう、入って。」
砦の一階部分をしばらく歩いて、等間隔にドアの並ぶ一角にたどり着きました。
パイクさんはその中でも一番端の部屋へ僕らを招き入れてくれます。
「寝台は二つあるからね、遠慮なく使って。こっちの物入れに上掛けがあるから寒かったら重ねてね。後で水を汲んでくるから手足を洗うといいよ。それから軽く食べるものをもらって来るから待っててね。
う〜ん・・・そんなところかな?あ、こいつらは構わなくていいからね」
パイクさんはものすごく世話をし慣れてる様子で、窓を少しあけて換気したりベッドのシーツをピンと伸ばしたり横にあるベンチチェストのようなものを開けて薄い布団を引っ張って見せたり部屋の真ん中にあった小さなテーブルと椅子を隅に移動させたりとテキパキ動きながら説明してくれました。
腰にカチャカチャいう長剣がなければ、高級ホテルの従業員のようですよ。職業間違えていませんか、パイクさん。
「・・・あの、こいつらとおっしゃるこれらは何ですか?」
ずっと黙って説明を聞いていた姉が、部屋の中に居た何かをちらちら見ながら言いました。
テーブルの上にある木の籠に入った鳥はわかるとして
大形犬の大きさをした何かは、灰色の長い毛で覆われていて、毛の間からすっとした鼻面が見えてます。耳?はウサギのロップイヤーとかいう種に似て長く下向き。四肢は爪があって指は四本にわかれているようです。後ろが見えないけどきっとしっぽもあるはず。
さらさらでもふもふで、かわいい・・・!誰もいなかったら飛び付いてぎゅーっとしたいですよ!
もう一匹は・・・形はトカゲとかイグアナとかのように胴が長細くて足は短く、胴部分よりも長いしっぽ。顔も爬虫類系。なのにその体はふわっふわの黄色い毛で覆われています!ナニコレ!全体的に短い毛で背中だけ長くなっています。
ここは天国でしょうか?
にやけるの抑えるのに一苦労です。
「こいつらはねぇ、あの森で拾ってきたんだよ。変わってるでしょう?おとなしくて噛んだりしないから、仲良くしてやってね」
おや、変わっている、ということはこの辺の生きものじゃないのでしょうか?
パイクさんと語り合いたいところですが、彼は軽く片手をあげて出ていってしまいました。
後に残された僕達。姉は灰色のもふもふと睨み合うように立ち尽くし、僕はずっと持っていたバスケットをテーブルに置きました。涼しいから腐らせずにすんで良かったけど、どう始末を付けましょう?宿代代わりにパイクさんに進呈しましょうか。
「トモ、ちょっと楽にしたら?ブーツ履きっぱなしで足痛くない?」
「や、この灰色の毛玉が・・・何でこれこっち見てるの?」
あまり動物相手が得意ではない姉は、どうしていいかわからない様子で動きません。
「じっと見てるからだよ。気にしないでベッドの上にでも座ったら?緊張が伝わってる。多分知らんぷりしてたら向こうも自然にするよ。パイクさんも構わないでいいって言ってたし」
「そういえばそうね」
姉はようやく頷くと、そっと移動してベッドに腰掛けました。ため息をついてブーツを脱いで、ついでに靴下も脱ぎ、マッサージをはじめます。
灰色のもふもふはその辺りで姉の観察を中止して、壁ぎわにそって横たわりました。動作は犬っぽいです。
黄色のふわふわは僕達には全く興味を示さず、窓脇にべったりと腹ばいになって微動だにしません。寝てるのかも?
僕ももう一つのベッドに座ってブーツを脱いでいるとドアがノックされ、すぐに開きました。
「よお、どうだ」
パイクさんかと思いきや、入ってきたのはボッシュさんと、女の人でした。
ボッシュさんは部屋の隅から大きなたらいのようなものを引っ張りだして、片手に持っていた巨大なピッチャーから水を注ぎ入れ、肩に掛けていた大きなタオルを一枚ずつ僕達に投げ渡してくれました。
「これで、顔洗うなり体拭くなりしてくれ」
タオルは使いふるされてはいるものの、きちんと洗濯して畳まれていたようで、清潔感があります。ああよかった。
「こんなものしかないけれど、暖まるから食べてね」
女の人はにっこりと微笑みながら僕達を交互に見て、お盆を姉に渡しました。お盆にはパンが二つと、湯気のたつスープのお皿がのっていました。
おいしそう!
女の人は 長い赤褐色の髪を緩い三つ編みにして背中に垂らしていて、ぱっちりした青い目の癒し系美人さんです。年は20代後半でしょうか。ちょっとぽっちゃりしてシンプルなワンピース姿がかわいいです。
保健室の先生っぽいかな〜などと思いながらぼんやり見ていると、ボッシュさんが咳払いをしました。
おや?
○ ○ ○ ○
パイクさんに案内してもらった部屋は、シンプルで物があまり置いてない部屋だった。
妙な生きものが居なければ最高なんだけど。
鳥は籠に入ってるからいいとして、大きな灰色の犬っぽい毛玉と、30センチくらいの黄色い毛の掃除用品みたいな生きものはどうしたらいいの?
パイクさんは爽やかに去ってしまった。
弟が無視したらよいというので、考えないことにしよう。どうせ奴は『もふもふしたい!』とか思っているに違いない。
しばらく足のツボ押しなどをしていると、ボッシュさんと女の人が入ってきた。
たらいに水を入れてくれたので、少しはさっぱりできるかな!
女の人は食べ物を運んでくれた。メイドさんかな〜かわいい〜。もてそうな人だわ。
弟がでれっとして見ているので、ボッシュさんが咳払いをした?
おやおや?
「ボッシュさん水をありがとうございます。お姉さん、お食事ありがたくいただきますね。私はトモで、こっちは弟のリョータです」
「はじめまして、トモ、リョータ。私はジルよ。パイクは報告をしてから来るそうよ」
ジルさんはしっとりした声でそう言った。ボッシュさんは弟を見ていてちょっと反応にぶし。
なんとなく当たり障りのない話をしながらパンとスープを食べていると、パイクさんが戻ってきた。
「先輩、ジルさん、手伝わせてしまってすいませんでした!隊長にまた拾ってきたのかって言われちゃって・・・」
「いつものことだからな」「慣れてるから平気よ」
お人好しパイクさんはよく生きものを拾うらしい。この部屋の先住民や私達以外にも拾ったのかも。この人達にとって私達って犬や猫を拾う感覚なわけ?
私がちょっと微妙な感慨に耽っていると、食事を終えた弟が立ち上がってテーブルからバスケットを三人に向かって差し出した。
「これ良かったら皆さんで食べてください。お世話になりっぱなしで、申し訳ありません」
バスケットに詰まったベリーを見て、ジルさんが嬉しそうに受け取った。
「甘くておいしいし、女性の美容にもいいんですよ」「まあ、本当?」
にこにこ。にこにこ。
弟とジルさんが微笑みあっているのを見て、ボッシュさんは窓辺の黄色い化学モップ的な何かを握って奇妙な鳴き声を響かせ、パイクさんはちょっとわざとらしく大きな声で
「うわぁ、全部いいの?おいしそうだねぇ!ジルさん重いから僕が持ちますよ」
と 言ってジルさんからバスケットを取り上げた。
やばい。これはジルさんを囲む逆ハーレムか!?
ちょっと面白い・・・
二人きりになって、顔や体を拭いてからベッドに横になった時に、弟に聞いてみた。
「ジルさんかわいいね」
「そうだね。保健室の先生って感じがしない?」
「音楽だと思うよ私は。保健の先生はもっとこうエロいのがいい」
「・・・まぁいいけど。それより二人の反応が面白かったね」
「あんたもしかしてわざとやってたの?」
「ジルさんてニブくて絶対気が付いてないよね」
「大人をからかっちゃダメよ。武器持ってるし」
「年上は対象外。頭が上がらないのはトモだけで精一杯だよ。焚き付けといたからあの二人がトモにちょっかい掛けてくるのはなさそうだよね。安心安心」
後半むにゃむにゃと何言ったか聞きとれなかったので弟を見たら、仰向けに寝たお腹の上に黄色いやつをのっけていたので、光の速さで見なかったことにした。
構うなって言ったくせに。
さっきボッシュさんに握られてギュエェーとか鳴いてたから、自分も触りたくなったんだろうか?
かわいいお姉さんよりも毛玉か。
ちょっと弟の将来に不安を覚えつつ、いつのまにか眠ってしまった。
ちょっとぐだぐだと長くなりました
読んでくださってありがとうございました