45・あ、明日帰りますんで
ボッシュ 姉
俺の回復を待って、2日休養して戻ることになった。
その間、マイヤーがふて寝していたのでアガサに旅の支度をさせてしまった。
来た時よりも明らかに荷物が増えているのはルシンダの仕業だ。俺達の服を子供達用に仕立て直して詰め込んでいた。トモの、城で用意されたものなど女物も入れてあったので、楽しみができたな。他の連中に見せたくない・・・特にレオ。
「ボッシュ〜こっち来い」
手持ち無沙汰で部屋で本をめくっていると、ジジィがやって来た。
周りを気にしながら、小さな布の袋を手渡してくる。触ってみると中身は小さな硬いものの様だった。
「なんだこれ」
「こ・ん・や・く・ゆ・び・わ」
得意げに囁く顔を凝視してしまった。
いつの間に。
手のひらにそれを転がすと小さな石が柔らかく光っている。
透き通る金色。
男の家から贈る婚約指輪にのみ使われる石らしい。
「いやぁ、この指輪を頼むのはいつも心が踊るわ。
言っておくが、トモ以外は認めんからな?ラーソンはお前がどうにかせぃ。あ奴は苦手だからな!」
言い捨てて、さっと身を翻して出て行った。
了解を貰ってから、両家が用意するものじゃなかったか?
手の上の華奢な指輪を見ていると、ふと口元が緩む気がする。
きっとトモの指に似合うだろう。
指輪を袋に入れて落とさないようにしまっていると、今度はリョータが入って来た。いつも扉を叩いて、返事をしてからでないと入ってこない。どこかのじいさんとは大違いだ。
「すみません、ボッシュさん。簡単な本を貸してもらえませんか」
「ああ、好きに見ていけ」
棚の前であれこれ手にとって吟味するリョータの背中に向かって声をかける。
「リョータ、トモを貰っていいか」
振り返ったリョータは無表情で、何も言わない。
「今すぐどうこうって訳じゃない。ただ…」
「僕に聞いてどうするんですか。相手はトモですよ」
唐突に口を開いたが、相変わらず表情は冷たく、口調は事務的だ。これが素か?
「俺だけが幸せになりたいんじゃない。トモもお前も幸せになって欲しい」
今だに実家と折り合いが悪いルシンダを見ていると、心からそう思う。
暫らく何かを考えていたリョータは、不意に吹き出した。
どう受け取ったらいいのかよく解らないので、落ち着くまで待ってみる。
「ぷふっ、はぁー。やばいつぼにはいった」
・・・泣くほど笑われるとは。論外ということだろうか?
「そうですね、僕はあなたならいいと思いますよ。トモの中身を知ってて嫁に欲しがる物好きはボッシュさんくらいでしょうね。
トモはあなたのことを信用してるし。この前ハハのことも聞いたんでしょう?」
一転して穏やかに問い掛けてくるので、ただ頷いた。誉められてるのか貶されてるのかよく解らんが。
「まぁ、ボッシュさんは過去も綺麗なもんだから合格かな?条件的にも末っ子で将来は安定してるし問題ないか」
「な、なんの話だ?」
ぶつぶつと己に言い聞かすように呟く姿に恐ろしいものを感じた。
リョータの笑顔に、どこかのジジィの胡散臭い笑顔が重なった。
「事前に情報収集はしていますよ?女性遍歴とか?」
――末恐ろしい。
○ ○ ○ ○
いよいよ明日の朝出発だ。
大変なこともあったけど、この家の人とお別れするのは悲しいな。
まるでホームドラマみたいな、3世代家族。
嘘みたいに大事にされて、悶絶しそうになった!
好きな人の家族だし。
血の繋がりがあっても愛されなかったのに。
血の繋がりが無い人が、命懸けで守ってくれた。
たまたま出会っただけの人なのに、まだ半年ちょっとしか経ってないのに、どんどん好きになっていく。
ボッシュさん無しでは居られなくなったらどうしようか?ヤンデレ?まぁそれはないか。
たまにベタベタするけど、基本的にはボッシュさんは傍に寄り添い、私を見てくれている。
その距離感が心地いい。
私が暴走してもついて来てくれる、そんな感じ。
この世界に来て大事なものを手に入れられた私は幸せだ。
ただの偶然でも。
不幸な子供にどこかの神がサービスしてくれたんだとしても。
『全ての事柄に満足できる理由があると思うな』と祖父が言っていた。
アメリカ人にしては珍しくどの神も信じてなかった。定年まで軍にいたらしいから何かあったのかもしれない。
ちなみに慰めの言葉として与えられた。解りにくい爺ちゃんだったな。
元気かな。
きっとラーソン隊長とは気が合うに違いない。
砦に戻って報告しなきゃ。砦より王様のいるお城の警備のほうがザルでしたよ、と。
いい具合にひねくれている姉弟と比べると、ボッシュさんは意外に素直で、真面目なキャラになってきました。
なぜだ。




