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44・ある寒い日

姉 弟です


早起きして家事のお手伝いとボッシュさんのお見舞いでもしようかな、と思った朝。


居間の長椅子に、仰向けで寝ているマイヤーさんを発見した。

寒くないのか?


謎の床暖房は効いているけど、それは床が冷たくないレベル。はっきり言って室内でもひんやりしている。



「あ〜おはよう、トモちゃん」



声をかけようか、それとも毛布でも持ってこようかと思っていたら、先を越された。顔も上げずに!足音で解ったとか?



「おはようございます」


「窓に映っとったの」


ふぇ?なんで疑問に思ったことが解るんだ。


「私の表情、解りにくいって言われますけど」


「人生経験?」


なぜ疑問形か。

やっぱこの人変だな。


今まで仕事だったのかな。でも聞いていいことなのかな?そう考えて首を傾げると、マイヤーさんが跳ね起きて椅子の背もたれ部分に顎を乗せた。



「ちょっと聞いてな、城でも大変やったとは聞いたけどな、もぅ俺独りでこき使われて、便所臭いおっさん触らないかんかったし、瓦礫の撤去させられたし、働かされ続けたの!」



凄い早口。全部は聞き取れなかった・・・。けど。



「お疲れさん」



労ろうとしたら、また先を越された!今度は誰さ?



「ボッシュさん!何やってんですか、寝てないと」



「治った」



治るかー!

でも私が近付いて見ると、顔色も普通に戻っている。



「トモのお陰だな」



そんな、真顔でそんな事言われると舞い上がっちゃうよ?



「――なぁボッシュ殴ってもえぇ?いや、むしろ殴らせろ」



いつの間にやら背後にどんよりしたマイヤーさんが立って、半目でこっちを見ていた。コワっ!



「その顔が…憎いねん」



恐ろしいことを呟くね。

よく解らないのでボッシュさんを見ると、やっぱり解らない、という顔をしていた。

過労でおかしくなったんだろうか。



「あの人と同じ顔やん、代わりに殴らせて!」


「ブライアンの事か?でもおとなしくて皆から好かれてるし、いい奴だろ?」



それを聞いたマイヤーさんは目と口を開いて一瞬固まった後、うなだれて長椅子に戻って行った。


もう1人のお兄さんのことだよね。何があったんだろう?




それから私は台所に行ってお手伝いをした。

この家は朝ご飯が軽いものだからお皿出すとかかわいいもんだけどねっ。


平たい丸パンと薄いハム?ピクルスにお茶、ミルク。

ミルクは山羊っぽい動物ので、ちょっと癖があるけどお茶によくあう。


たまに和食が食べたくなるんだけど、そもそも出汁が作れないので諦めた。

乳製品と肉の加工食品は充実してるんだけどね。



朝ご飯を食べる時間には、マイヤーさんの機嫌も直っていた。良かった。

ボッシュさんに詰め寄る姿はかなり本気っぽかった。

食事中にマルキンさんやロデリックさんに、ブライアンさんの性格について聞いて、やっぱりさっきみたいな顔で固まってたのが気になるけど。


話をまとめると、ブライアンさんは1番小柄で、兄弟と比べてそんなに剣が好きじゃないけどそこそこの腕で、人当たりがよくて、地元の人に愛されてて、家族を大事にしているらしい。

いい人だよね?

他の2人より社交的っぽいんだ。

ん?社交的なボッシュさんだったらきっともてるだろうなぁ。



「なんで俺だけ…」



やさぐれたマイヤーさんは午前中それしか言わなかった。

なにがあったんだろ?



○ ○ ○ ○





城から戻ってから、マーシャル君の部屋で絵本を読みながら、字の勉強をしました。

本を渡して、音読させて、字を目で追うという方法です。文法が日本語と似ているようです。

子供の相手ができて僕も助かるという、実に合理的な方法です。


難点は意味が解っても発音が解らないことです。

耳からは翻訳されて聞こえるし。不思議なことに固有名詞は近いものに自動で変換されます。無かったらお互いそのままですけど。ポンプやサンドイッチが、この国の共通語になるかもです。

僕の言葉は基本的に英語でも日本語でも通じていますが。

俗語や省略語、和製英語は意味が通じないですね。




「リョータ達…帰るんですか?」



暫らく楽しそうにしていたマーシャル君が、小さな声で呟きました。



「うん。ボッシュさんの傷が良くなったら、だと思うけど」


「ずっと居たらいいのに。この家の子になったら?楽しいよ、きっと!」



マーシャル君は大きな目をきらきらさせて言います。



「でもね、僕達帰らなきゃいけない。待ってくれてる人がいるし。家族になってくれた人がいるんだよ」


「家族…」


「お父さんになってくれたんだ。マーシャル君のお父さんみたいに強くて格好良いんだよ」



マーシャル君はちょっと考えてから、にへらっと笑いました。



「じゃあ帰らないと、とっても心配しますね!」


うーむ、マーシャル君。とても幼児とは思えない、聞き分けの良さですね。



「トモだけ残って、僕のお嫁さんになったらどう?」


「ハハ、どうかな〜」



叔父さんに容赦なく絞められると思いますよ!



その後、夕飯を頂いて、覚えた単語をメモする作業に没頭しました。


ボッシュさんを看病していたトモは、夜には部屋に戻ったようです。何事もけじめは必要ですからね。



それにしてもマイヤーさんはどんな任務に就いてるんでしょう?

ここにはちゃんと防衛騎士とか近衛騎士とかうじゃうじゃいるのに。

わざわざよそ者のマイヤーさんが出張してまで。

聞いたら教えてくれるでしょうかね。


それと、ちゃんとご飯食べてるのかなぁ?





翌朝の朝食時には、マイヤーさんは帰っていました。かなり疲れているから、きっと大変な仕事だったんでしょう。

何故だかこの家の次男さんについてしつこく聞いていました。仕事中喧嘩でもしたんでしょうか?



「アンタが居てくれたらよかったのにさぁ。危なかったんだよ。アタシもまだまだ修業が足りないわ」



この前から沈んだままのアガサさんも加わって、淀んだ空気を製造し始めます。



「いや、あれは仕方がなかった」


「アンタに言われると余計に…」



フォローに入ったボッシュさんを見て、余計凹んだようでした。


マイヤーさんは長椅子に寝転がって、クッションに顔を埋めて呻いているし。


他人の家なのに、よくここまでできますねぇ。フリーダム。



「情けないぞ、お前達!子供の前で弱さを見せるでないわ!」



嘆く2人と困るボッシュさんと傍観している僕と姉の中に、雷が落ちたような一喝。



居間の入り口に、マルキンさんが立っていました。


心臓止まるかと思った!


姉も驚きで硬直していたので、過保護な人が、でかい声をだすな、とマルキンさんに文句を言っています。



「ちっと若いのと混じって訓練していくか?」



いつもの楽しげな雰囲気に戻って言うと、マイヤーさんは苦笑して、アガサさんは背筋を伸ばして返事をしました。



「「遠慮します!」」




「ふん、だったらさっさと帰るがいい。そろそろ雪が降り始める」




そう言われて、皆なんとなく外を眺めました。

晴れているけど薄暗い、そんな天気でした。



ブライアンさんは家ではいい子です。お兄さんが厳しいので、ボッシュを結構甘やかしてました。



なぜだか昔からマイヤーさんイジリが楽しい、ブラさんとハリーさん(砦の副隊長)。ラーソン隊長は知ってるけど、無口だから誰にも広まらない。

マイヤーさん日頃の行いが悪いから…。



番外編で若い頃の話書くかも。

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