43・弁解は罪悪と知りたまえ
姉 ボッシュ視点です
ボッシュさんの汗を拭いたり、冷やしたり、水を飲ませたり。
しっかり看病してるよ!
外が真っ暗になる頃には、かなり楽になったようだ。苦しそうだった寝息が落ち着いてきていた。
私が幸せに浸りながら寝顔を見ていると、ドアが静かにノックされてロデリックさんが入って来た。
ゆったりしたシャツとパンツに暖かそうなガウン?に着替えているから、今日は早めに帰ってきたみたい。ボッシュさんが心配だったのかな?
「どんな具合だね」
「昼間よりは随分熱も下がったし、よく眠ってます」
私がそう言うと、ちょっと寝顔を覗き込んで頷いた。それから無言で見つめている。よっぽど心配だったのかな?
でも、それなら。
「…どうしてあの時、ボッシュさん達から剣を取り上げたんですか」
「陛下の謁見には近衛騎士以外帯剣は認められない」
「こっちに武器が無いのにどうして周りに誰もいなくなったんですか。来る時には見かけましたけど」
私達はお互いに顔も見ず、ボッシュさんを見ながら話している。
無言。無言。無言。
弁解をしない、説明を拒む沈黙が潔い。
「まぁ、どうでもいいですけど。偉い人の考えは解らないし解りたくもない」
「私からは何も言うことはない。…ただ、弟に関しては礼を言わせてくれ」
そう言ってロデリックさんは跪いて頭を下げるから、びっくりして私は椅子から立ち上がった。
「礼だなんて、何で…」
ガウンのポケットから、布に包まれたものを取り出して、私に差し出している。受け取ると、硬くて重みがある。あ、これは私のナイフか。
「こっそり持ってたの怒らないんですか」
金属探知機無いからいいかな〜って思ったんだよね。
「護身用だろう?」
ロデリックさんが立ち上がらないので、私は床に座った。ベッドの一角だけ厚い絨毯が敷いてあるし、なぜか石の床もたいして冷たくない。床暖房?
「護身用じゃなくて、ただいつも持ってるだけです。父上…実の父に、貰ったものなので。父は人を傷つけることを嫌ってました。森に入る時に枝を落とすのに使えと」
「こんな最上級の小剣なのに…。だが、お優しい、善い方なのだな」
お兄さんは驚いたようだった。まぁ、騎士なんて対局だよね。職業が戦うことだもんね。
でも私は父上ほど優しくもないし善良でもない。
「私は、コレを使わないけど、家族を傷つけるのは許さないです。弟が危なかったら迷わず戦うし。…大事なのはずっと弟だけだったけど、今は…ボッシュさんも大事です。砦の人は私にとって家族なんです」
「リョータもそんな事を言っていたな。羨ましいくらいに仲が良いのだな」
お兄さんは顔をくしゃっと歪めて笑った。
「私も、君と同じような事を思っていた。年の離れた兄弟だから、特にね。弟にはよくできた妻を探してやろうと」
あまりに話題が飛んだので一瞬何の話かついていけなかった。
つま? ツマ? 妻って?
「どうやら自分で見つけたようだね。たいそう強くて可愛らしい奥さんを」
私はもうお兄さんの顔が見てられなくて、俯いた。きっと真っ赤になってるだろうね、耳まで!
「私は包帯を替えて傷を見るから、食事に行ってきなさい」
なんで真顔でああいう事言えるんだろ。
恥ずかしすぎる。
嫌われるより、良かったかな?うん。
○ ○ ○ ○
ふと、肩に違和感を覚えたので目を開けると、兄が包帯を手に思案げな顔で立っていた。
なんだ。
だが眠っている間は気分が楽で、安らげた。いい夢をみていたようだ。
「肩は動くのか?指に支障はないか」
傷口を改めながら兄が言うが、引っ張るのは止めて欲しい。
「問題ない。熱も下がったから」
「ふむ。ではトモに礼を言うのだな。帰ってからずっと看ていたらしい」
薬を塗り付けた布をあて、包帯で巻き付けながら言ったので、反応して思わず顔を見てしまう。
首の動きで肩の皮が引きつり、出かけた声を歯を食い縛ることで耐えた。
夢じゃなかったのか?
変な事言わなかっただろうか。なにか、言ったような気がする。
考えていると、頭の上にばさばさと着替えを落とされた。
「まさか着替えまで頼む訳にもいかんだろう。自分で着られるか」
至極、真面目な顔をして言ってくるので、ため息がでた。着替えられないと言ったらどうする気なんだ?
兄貴なりの罪滅ぼしなんだろうが・・・俺もいい年なんだけどな。
「…いいよ」
「では、よく休め」
「兄貴は俺の誇りだから」
部屋を出る兄の背中に声をかけると、一瞬止まって、振り向かずに出て行った。
俺はいつもあの人の背中を見ていた。
追い付けずに道を逸れた訳だが。
リョータとトモには、あの人を嫌って欲しく無いと思うのは、ただの我儘なんだろうな。
着替えてからまた寝台に横になっていると、控えめに扉が叩かれ、盆を持ったトモが入って来た。思わず起きて受け取ろうとするが、目で制された。
よたよたと運んできて、机の上に乗せる。
「起きたんだね、気分はどう?お腹すいてる?お腹に優しいものを作ってきたんだけど。まだ熱あるね」
食い入るようにこちらを見つめて、手を伸ばして顔に触れられた。
小さな指先はとても冷たかった。
この感触には覚えがある。
阿呆な事を言ってなかったか確かめたいが、気恥ずかしい。
「腹は、減ってる気がするな」
トモは頷くと、盆の上からいい匂いのする皿と匙を手に取り、中身をすくってこちらに差し出した。
「トモ特製シチューです。あ〜んして?」
トモは頬を赤く染め、目が輝いている。どちらかというとトモを食べたい。
いや、そうじゃなくて。
結局、根負けして全部食べさせられた。
誰かに見られなくてよかった。特に、ジジィ。トモの料理は、野菜と肉が柔らかく煮込まれて、煮汁と共に食べるものだった。食べ易いし、暖まった。
そう言えば。
「トモ、こっち来い」
手を取ると、相変わらず両手が冷たい。包み込んでこすってやった。こっちが熱いので丁度良いだろう。
「こんなに冷えて…大丈夫なのか?」
「う〜ん。体質かな。足も冷たいの」
首を傾げて、指先を見ながら言う。やはり痩せているせいだろうか。
それに、足まで冷たいと。
「トモ、忘れていた。足と言えば、人前であんなに足を出すんじゃない!」
あんな腐った野郎共に見られてしまった。
「ん?緊急時だったし。ここはミニスカート穿かないんだ?マイクロはどうかと思うけど、ドレスなんかより楽なのに」
不思議そうに言うが、こっちも解らん。
「ミニ?てなんだ?民族衣裳か?」
俺が聞くと、トモは両手をするりと抜いて、服の裾を摘んだ。
何となく予想が付いたので止めようとしたが、遅かった。
「こんなの」
あっさりと裾を引き上げ、膝より上で止めた。
細く白い両足が目の前に惜し気もなく晒され、釘づけになる。
「マイクロはもっと短いのね。それはどうかと思うよね」
どうかと思うのはこちらなんだが、トモは目が合うとにっこりと微笑んだ。
わざとか?わざとなのか?
何となく怒りさえ覚えて、トモを捕獲した。
そのまま寝台に抱き上げ、上掛けの中に引き込むと、トモの体は全体的にひんやりしていた。
「な、な何を?腕、怪我してるのに動かしちゃ駄目でしょ!」
「トモは軽いからなんともない」
それに、抱き締めていると段々暖かくなってきた。
「か、可愛くない!さっきは、あんなに可愛かったのにぃ!」
聞き捨てならないことを聞いた。
可愛い?
「トモー?どういう意味?俺昼間何を言った?」
布団の中で回転して上になって見ると、トモは耳まで赤くなって目を逸らした。
俺は一体何を言ったんだ?
涙目になってきたので、目蓋に口付けして、そっと舐め取った。
「また涙舐めた」
「トモに泣かれると嫌だ」
マイヤーなんかは泣かすのが好きらしいが。
暫らく見つめ合ってから、唇を吸った。
そのまま顎を越えて、喉にそっと吸い付くと、案の定バタバタ暴れだす。
面白いが、肩がそろそろ限界だった。本気になる前に止めておこう。
「お仕置きはここまで。足はちゃんと隠すように」
トモはもぞもぞと這い出て行き、赤くなった顔を手で隠して呻いた。
「トモ、夜は冷え込むからちゃんと部屋に戻って寝てくれ。心配でこっちが寝られなくなる」
トモは赤い顔のままで暫らく逡巡していたが、やがて頷いた。
こちらへ屈んで、一瞬掠めるような口付けをしてから盆を持って出て行った。
肩が無事なら多分逃がさなかったろう。
ラーソン隊長とリョータの許しを得なくてはならないことを思うと、ため息が出る。
求婚できるのはまだまだ遠い先になる気がする。
副題は とあるアニメの台詞から。もふもふ大量でした。
言い訳せずに批判も甘んじて受ける人は格好いいですね。




