40・表と裏
姉 弟視点です
目を開けると、どこかの知らないベッドに寝かされていた。
ふかふかで、暖かい。
いい匂い。
はっきりしない頭を動かすと、金色の毛玉が見えた。びっくりして逃げようとしたら、左手が掴まれていて動かない。
心臓が苦しいほど速く鼓動する。
ここはどこ?
あいつらはどうなった?
また、捕まったの・・・?
声が出なくて、しゃっくりみたいな変な音が口からもれた。
「……トモっ!」
左手をぐい、と引かれて、抱き締められた。
背中をぽんぽんと優しく叩いて、大好きな声が聞こえてくる。
「よかった、目が覚めて」
ボッシュさんだ!無事だったんだ!
手を伸ばして、顔を挟んでじーっと見る。本物だ。
毛玉じゃなくてボッシュさんの頭だったんだ。
困ったような、ほっとしたような表情。
体の方に視線を移すと、白いシャツの首元から包帯が見えた。
背筋がぞっとして、シャツを引っ張って確認すると、やっぱり包帯で、肩の辺りがぐるぐる巻きになっている。
「なんで、怪我してるの」
涙が浮かんでくる。あいつは私を狙っていたのに。
私のせいでこんな怪我を。包帯から目が放せない。
「ご、ごめんなさい…」
「なんでそうなる?お前のお陰で助かったのに」
頭の上から、静かな声が降ってきた。思わず顔を見上げると、とてもとても優しい目をして私を見ていた。
はだけた胸元。細めた熱っぽい目。
なんというか、男の色気?
いきなり恥ずかしくなって服を掴んでいた手を、そっと緩めた。
「トモ?」
ぎゃわーっ!捕まった!
首を傾げて低い声で私の名前を呼ぶ。
ただそれだけなのに、顔が赤くなってく。
「トモ・エ?」
巴?
たどたどしいそれに、息を飲んでボッシュさんを見ると、目の焦点が合わないくらいの距離にきていて、唇が重なった。
熱くて、柔らかくて、優しい。ふわふわする。
お互いにぎゅーっと抱き合って、生きてる喜びを噛み締めた。
○ ○ ○ ○
王様のお茶会に行って、気付いたらベッドの上で、約2日眠りこけていました。
僕の意識が飛んだ後、ハウィットの父親が手下を引き連れて襲撃にきて、それをボッシュさんが1人で傷つきながらも撃退したそうです。
王様が去った後とはいえ、城の中で薬盛って剣で襲撃だなんてことがどうして実現しちゃうんですかね?
危機管理がなってないんじゃないですかね。
「申し訳なかったね」
「襲われたのが僕達で、しかも無事だったから良かったようなものの、外国の使節とかだったら国際問題ですよね。戦争もんですよ」
「それはちょっと話が飛躍しすぎかな〜」
ロデリックさん他近衛騎士を連れてわざわざ見舞いに来て下さった王様は、僕の怒りを受け流すように穏やかに微笑んでいます。
じっとりとその顔を見ていると、引っ掛かっていたことの答えが浮かんできました。
「その逆の可能性もありましたよね」
僕達が無害であるという確証はなかった。
誰が、『変な森』から出てきた人間を信じる?
しかも、既に地方の領主と問題を起こしていたのに。
「ボッシュさん達がいたとは言え、単なる付き添いで剣を取り上げたのに、中庭の近衛騎士が全員いなくなっておかしいな、って思ったんですよ」
「気付いていたんだ」
王様は、一瞬驚いたように目を丸くして、それから悲しそうな顔になりました。
「僕達をまとめて置いといたら、レヴァインが動くと解ってたんですよね。かなり恨まれてるのは皆知ってたわけだし。僕達を襲って共倒れになれば一石二鳥ですもんね」
傍に控える近衛騎士が何か言おうとするのを、ロデリックさんが制するのを見ながら、王様はため息をついて、でも何も言いませんでした。
弁解しないのは潔くていいですけどね。
「為政者としてはこの上なく正しいですよ。最小の犠牲で最大の効果。僕達は得体が知れないし、争いの種になるからいない方が楽だし、あの家の人達は好き勝手やって評判悪いわ、無駄に権力あるわでこの機会に潰しといたら安泰ですよねぇ」
「これは陛下のお考えではない、宰相の策だっ」
堪り兼ねたように、ロデリックさんの制止を振り切って、若い近衛騎士が叫びました。
「そんなこと問題じゃないです。最終的な決定は王様でしょう?あ、あと別に言い訳とか謝罪もいりませんよ。僕達を生かしてもらってるだけで有り難いと、本気で思ってますから」
例えばアメリカだったら。病院に入れられるか、スパイかテロリストかと思われて連行されてたかもしれませんね?解剖は――人型だったらされないかな。
そしてメディアの餌食か。
王様が、可哀相なものを見る目で僕を見ているのは、ちょっとむかつきます。
「姉はまた怖い思いをしたし、ボッシュさんが怪我してしまったからすごく傷つくと思います。だから、姉には悟らせないで下さい」
後が怖いから。
僕は王様の目を見ました。深い緑の色。
「僕らの、ハハの国に伝わる言葉があるんですけど。『人の恋路の邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ』とかっていうんです」
王様はちょっと固まってから、吹き出しました。
軽く爆笑してるので、近衛の皆さんがぎょっとした顔をしています。
「ハァ、それは至言だね。そうだね、うん。じゃあ尚更申し訳なかったね」
笑った後、なぜだか肩を落として王様は言いました。
「だから、王様は謝っちゃいけないんですよ。ふんぞり返って、『褒美をとらすぞ』くらいの勢いが最適なんです」
「そう?君は宰相と同じようなことを言う。それじゃあ何かご希望の褒美はあるのかな」
キタ―――!!
僕は内心小踊りです。
「レヴァイン父の処遇なんですけど。どうせ始末に困ってますよね。幽閉くらいじゃ不安要素が残るし、貴族はよっぽどのことじゃないと処刑できないんでしょう?」
王様の眉間に皺が寄りました。僕はしれっとした顔のままで続けます。
「だから、ガルニエに連れて行って、あの『森』にぶっ込んどいて下さい」
僕達の世界に行けば、生き長らえることが可能かもしれない。上手く行けば僕達の消息が伝わるでしょう。
運がなければ、ロボやモップのいた未知の世界へご案内。大冒険が待ってる筈。
王様は無表情になって、何も言わずに部屋から出て行きました。近衛の皆さんも後を追い、ようやく僕はベッドに横になれます。
やれやれです。
ちょっとウトウトしていると、ノックなしにドアが開かれて、跳ね起きました。
「リョータっ」
走ってきた姉が、そのままの勢いでベッドに飛び乗ってきて、僕の肩を掴んでガクガク揺さ振りました。
うぇ。脳みそシェイクはきつい。
「大丈夫?副作用はない?痛かったり痒かったりしない?」
「やめてよ〜今死にそうだよ」
なんとか手を外して訴えると、姉はため息をついて目元をごしごし擦りました。
「トモも飲んだんでしょ。平気なの?あ、ボッシュさん達に会えた?」
「俺もいるぞ」
僕が聞くと、開いたまだった扉を閉めながら、ボッシュさんが言いました。
顔色は悪いけど、あんまり普段と変わらないですね。
さっきまで王様が座ってた椅子にふんぞり返って足を組みました。体が歪みますよ。
「さっきまで、王様がお見舞いに来てくれてたんですよ。ロデリックさんと、この前の若い人と」
「あ、そうなんだ。律儀だね。私のとこには来なかったけど」
「うん。優しいよね。入れ違いになったか、ずっと誰かさんが張りついてたから気を利かせたのかもね」
2人は顔を見合わせて、首を傾げました。その様子じゃまだ清く正しい交際のようですね!
それに、ボッシュさんは知らなかったみたいです。
変に思っても、わざわざ調べたりはしなさそうだし。
ロデリックさんは言わないでしょう。
なんか嫌。ボッシュさんは許すかもしれませんが。
「はやく、帰りたい。それでロボを思いっきりぐしゃぐしゃしてごろごろして力一杯遊びたいぃー!」
心の叫びです。
癒しが足りないです!
悶える僕を、姉とボッシュさんが2人で撫でてくれましたが。
なんだか逆に、ねぇ?
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