37・遊ぶときは全力で
ボッシュ 姉 弟 の順
実家に着いて一息つけるかと思えば、久々の来客で舞い上がった家族の歓待を受ける羽目になった。
トモとリョータは甥のマーシャルに連れて行かれ、残った俺達はジジィと兄嫁の餌食だ。
「陛下の謁見はともかくだな、正式に婚約をさっさとした方がいいと思うんだ」
お前は何も考えなくていいから!
「あんまり可愛らしくて勿体ないですわ。あ、アガサさんもマイヤーさんもお代わりいかが?私が焼いたお菓子、このお茶にぴったりでしょう?いつも旦那様が誉めて下さるんですのよ」
「そうですね!本当においしいですわ!」
「ロデリック殿がほんまに羨ましいですぅ」
押しの強い2人が押し切られているのを初めて見た。流石ルシンダ。堅物の兄に押し掛け女房しただけのことはある。
だが勿体ないというのはどういう意味だ?
「ボッシュ、早く2人を呼んで来い。甥っ子にとられるぞ〜」
そういえば案内だけにしては遅すぎる。
2人の縋るような目線が気になるが、この場から離れる良い口実だ。生け贄は活きがいいのに限るな。
マーシャルの部屋に近付くに連れ、子供達の楽しげな声が聞こえてきた。
どうやらパイクの獣達について話しているらしい。
俺が扉を開けても、話に夢中で気付く様子はない。
床に紙を広げ、3人は頭を突き合わして絵を描いているようだ。
考えてみると、姉弟は俺よりもマーシャルに年が近いのか。
思わずため息がでた。
「あ、叔父様」
ようやく子供達が気付いたので、マーシャルを抱え上げた。2年振りの甥は、かなり重くなっていた。
じたばた抵抗しながら遊び足りないという。
「あ、そうか、ごめんなさい。夢中になってた」
珍しく無邪気な姿が見られたので、こちらとしたら儲け物だったな。
マーシャルを抱えた反対側の手でトモを撫でる。邪魔がいなけりゃ両手で抱き締めたいところなんだが。
あの2人を待たすのも可哀相だし、後が怖いような気もしてきたのでさっさと戻ろう。
抱えていたマーシャルがもぞもぞ動いて、トモに話し掛けた。
「…じゃあ、夜遊ぼうね?リョータもトモも一緒に寝よう」
にっこりと微笑む甥。こちらを向いて。いい度胸だ。絞めてやりたいくらい可愛い奴だな。どうやら父親に似ず、祖父と同類らしい。末恐ろしい。
○ ○ ○ ○
夕方、お茶をいただきながら、主にルシンダさんとマーシャル君の話を聞いていると、それまで椅子に埋もれて固まっていたマイヤーさんが立ち上がった。
「そろそろ行きますわ。ブラさんも戻った頃でしょうし」
頷くマルキンさん達に騎士の礼をして、私の頭をぐしゃぐしゃにしてから颯爽と出て行った。今日の夜もお仕事なのか。
で、ブラさんって?
「次兄のブライアンのことだ」
ボッシュさんが椅子から立ち上がって、私の髪を直しながら教えてくれた。
マイヤーさんの撫で方は、弟がロボを撫でる時みたいで激しく、頭がすごいことになっていたらしい。
なかなか戻らないのでルシンダさんが櫛を持ってきてボッシュさんが梳かしてくれた。
くすぐったい。
というか、気付いたんだけど皆の視線が生暖かい。
微妙な空気が漂った時、表で人の声がした。
「父様のお帰りです!」
マーシャル君がそう言って部屋を走り出て、ルシンダさんもおっとりとその後ろから出て行った。
髪は何とかなったらしく、ボッシュさんは櫛をテーブルに置いて、最後に髪を少し引っ張った。
たまにこの人はよく解らないことをするな。
そんなことを考えてたら、ガチャガチャと、もう聞き慣れた金属音がして、立派な騎士が現われた。
ボッシュさんと同じかちょっと高いくらいで、ラーソンパパよりは少しスリムだけど鍛え上げられた体。
バチカンの衛兵が着ている制服のような形の、赤と黒と青の縦縞の上着。更にその上からピカピカの胸部分だけの鎧と、肘から手首までの防具?を着けている。そして青色の布を襷掛けしてメダルみたいなもので留めてある。
腰には長剣。さっきの音はやっぱりこれだ。
ボッシュさんよりちょっと明るめの金髪で、マルキンさんと同じ菫色の目。40代かな?
よく似た家族だな〜。格好良い!む?かわいいマーシャル君も将来はこんなにごつくなるのか・・・?
お父さんの腕に軽がると抱き上げられて、ルシンダさんが笑顔で寄り添う。
ちょっと羨ましいかな〜。
「よく来たね。会えるのを楽しみにしていたよ。自分の家だと思って、ゆっくり寛いでくれ」
渋い声でそう言うと、着替えをしに行ってしまった。
謹厳実直とか質実剛健という言葉がぴったりだ!
「お兄さん、格好良いね」
傍に立ってたボッシュさんに言うと、微妙な顔をされた。兄弟誉められて嬉しくない?年が離れてるから微妙なのかな。
ボッシュさんは何も言わずにまた髪を引っ張ってため息をついて、見えない角度でアガサさんとマルキンさんが内緒話をして笑いを堪えていた。
謎だ。
○ ○ ○ ○
お茶とお菓子を戴いてるとマイヤーさんがまた出かけて行きました。今日はちゃんとご飯食べると良いんですが。
出掛けに姉の頭をぐっしゃぐしゃにして行ったら、ボッシュさんがせっせと直していました。
僕達の周りには、人の頭を撫でるのが好きな人が多いです。
姉の頭が整った頃、この家の長男ロデリックさんが帰ってきました。
とても立派な人で、バチカンのスイス衛兵並みに派手な格好に負けていません。マイヤーさん情報で、近衛騎士団の副団長と聞きましたが、エリート中のエリートらしいです。
揃ったところで、皆で夕食を戴きました。
お菓子も食べたんですけど夕食もあっさり目で、苦しいくらい食べました。
ルシンダさんは貴族出身なのに珍しく、色んなことを自分でやるので使用人は最低限しかいないということです。
僕の感覚からするといるだけですごいんですけど。セレブ。
ちょっと面白いのは、姉がマルキンさんやロデリックさんに懐いたのが気に食わないボッシュさんが、拗ねてるようなのです!
そもそもあなたに似てるから2人にすぐ打ち解けたんですよ?
言いたいけど、面白いからこのままで!
マーシャル君の相手もしなくてはいけません。
「僕達がいる砦はこんな形で、たくさん騎士さんがいるんだ」
「パイク様は前に遊びに来ました」
「ふふ、パイクさんてボッシュさんが大好きなんだよね」
「トモは?トモも叔父様好き?」
話していると、マーシャル君が真剣な顔をして言いました。この幼稚園児くらいって、よく誰が好き〜とか先生と結婚する〜とか言いだす年ですよね。
「ボッシュさん好きだよ」
そんな子供に、姉は真面目に答えてから真っ赤になって、クッションに顔を埋めました。あ〜あ。マーシャル君ふくれちゃった。
それからご機嫌をとるために、画を描いたり漢字を教えたりしている内に、ふかふか絨毯の上で眠ってしまいました。
どうしようか、と姉に声をかけようとしたらそっちも熟睡中です!眠ったら雷でも起きないというのに。
一緒に寝ようね、ていうのが実現してしまった。
誰か呼びに行きたいのに、微妙に僕の服を掴んでいて動きません。姉ならともかく余所のお子さんを無理矢理引き剥がすのはちょっとためらいますね。泣いたら怖いですし。
おとなしく、マーシャル君の絵本を見ながら待つとしましょう。この程度なら読めるようになりました。
「…真剣に絵本を見ているんだな」
小さな声に気付くと、ボッシュさんとロデリックさんが部屋にいました。
気付かなかった・・・こんなでかい人が2人も来たのに。ちょっと顔が赤くなるのを感じながら、そ知らぬ振りです。
「すまなかったな、疲れているのにマーシャルの相手をさせてしまって」
申し訳なさそうにお兄さんが言うので、急いで首を振りました。
貴重な年下との接触ですから!
「すみません、トモは多分朝まで起きません」
明日は王様に会いに行くから、話とかあったかもしれないのに。
ロデリックさんは優しく笑って、マーシャル君を抱き上げてベッドに寝かせました。いつの間にか手が外れてた!
どんだけ絵本に集中していたんでしょ、僕は。
ボッシュさんは姉の傍にしゃがんで、また頭を撫でていました。
むむ。無断で寝顔を見るのは感心しないですよ?
とか思っていたら、ロデリックさんがボッシュさんの後頭部をはたきました。
はたいたというか、首が前にグキッてしたように見えたんですけど。
ボッシュさんは何も言わずに叩かれた辺りをさすってから姉をそっと抱き上げました。
今のやり取りスルーなんですか?男兄弟ってこんなもんなんでしょうか。
ニヤニヤしているアガサさんのいる部屋に姉を運んでから、僕も案内してくれました。
「マイヤーさんは?」
「心配するな、兄のところだ。騎士団の宿舎もあるからな、どうにでもなる。今日はよく休めよ」
何事もなかったように言って、ボッシュさんは自分の部屋に行きました。
解り易いようで、謎な人です。表情があまり変わらないからですね。
変なカップルですよ。
マエケンANDエーシン
おめでとう
そんなわけで、この国(まだ名前がない)のカラーは赤なんですよ。




