34話・お腹が満たされると心も満たされる気がする
ずっと弟視点
前話で酒場に残ってこんな話をしていました。
エロいお姉さんを助けた後に、姉の様子がおかしくなりました。
あの人はちょっと雰囲気が母さんに似てる様で、そのせいだと思います。
僕のことは無関心だったけど、どちらかというと姉には厳しかった…ような。
助けておいてさっさとどっか行ってもらうわけにもいかず、しかもこれから行く店の人だというじゃないですか。店員がこれって…キャバクラの類でしょうか?
姉の様子がおかしいのにボッシュさんは頭ごなしに叱ろうとするし、マイヤーさんは笑ってるし。
このオジサン達、女の子への接し方の教育が必要ですね。
お店に着いたら、やっぱり何となくガラが悪いです。隅のテーブルをアガサさんが確保してくれてましたがむさいオジサン集団とか酔っ払いとか、酒や料理を運びながらそれにベタベタするキャバ嬢?など。
料理は薄味に香草を利かせていて食べやすかったですけど、パンは堅いです。もそもそして、向こうでのドイツ風ですね。
相変わらず姉は白い顔で食も進んでなくて、ボッシュさんは気にしながらも声をかけることなくて。
たまにさっきのお姉さんと話したりして!いい加減にしろっての。
思春期のカップルですかあんたら。
僕が声をかけると、さっさと姉を連れて行きました。遠慮してたのでしょうか。
「トモは具合悪いのかい」
アガサさんがとても心配そうな顔をしていました。さっきのことも知らないからいきなり体調を崩したように見えたんですね。
「トモのあれは…精神的なものです。原因から離れたので大丈夫です」
思わず他人行儀な言い方になってしまって、アガサさんの表情が曇ってしまいました。しまったな。心配してくれているのに。
「お前等、酒場が嫌いなんやね。まぁ子供だし?好きでも困るかぁ」
凍った空気を溶かすようにマイヤーさんがゆったりと取り成してくれました。
案外、いいところあるんですね!
「あぁ、そうか。ボッシュが一緒だし、心配ないね。じゃあ、リョータ、しっかり肉食べなさいよ?ジルから頼まれてるんでね」
この人達は肉肉って――。
「でも、ボッシュが一緒だと別の意味で危ないわな?リョータ君。2人にするとは思わんかったよ」
喉の奥でククッ、と笑いながらマイヤーさんが言いました。やっぱ性格悪いですねっ!お酒をラッパのみしてるのに顔色変わってないし。
服によったら学生にも見えるんじゃないかな。
「僕は姉にとっての最善を選んでるだけです」
ぶすっとしてるだろうな、という自覚はありますよ。
「難儀やな。でも羨ましいわ。兄弟いないから」
マイヤーさんはちょっとだけ、真面目にそう言いました。
「ボッシュには年の離れた兄さんが2人いて、2番目がそっくりなんや!兄弟揃って、あの親父さんの血筋と思えんくらい真面目で朴念仁でな〜トモちゃん苦労するで」
お酒呑むと、訛りが強くなるんですね。やっぱり関西風にしか聞こえないけど。アガサさんも深く頷いてるので、からかってるだけではないんですね。
まぁ、まだ嫁にやるとは決めてませんけどね。
「マイヤーさんもアガサさんも、ボッシュさんと付き合い長いんですよね?もっと若い時はどんな様子だったんですか?」
何事もまず情報収集から、です。
元カノだの婚約者だのがひょっこり出て来られたら面倒ですからね。お腹が満たされてアルコールが入れば、口が滑りやすくなるってのは万国共通ですよね。