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23・SEARCH AND DESTROY

ボッシュ 弟

夜中には流石に何の報告も上がらなかった。

街道からは旅人の姿は失せ朝の早い農民はとっくに寝静まっている。


それでも報告を受けられるように待ち続けた。


俺も他の奴にしても、この所惚けていたのかもしれない。だから自分達の庭から大事なものをまんまと奪われてしまった。

そんな自責の念があるのだろう、誰からも異論はでなかった。まぁ聞く気もないが。


翌日、昼頃になって戻った騎士からようやく手がかりらしきものを掴んだ。



「東への街道添いの、宿にいた旅人の、話なんですけどっ、紋章なしの、箱馬車で、走りっぱなしのを、見たってことです。ハァ、中は、締め切ってて見えなかった、そうですが。しばらく並走したけど、宿も、通り過ぎたと」



そいつは自分も馬を休まず走らせ戻ってきたので肩で息をしながら報告に来た。

普段は仲のいいのと二人して、訓練をどうやってさぼろうかということに知恵を絞っているような奴なのに――見直した。



「ご苦労、よく休めよ」



そう声をかけて机の上の地図に印をつけた。方角と時間から、目撃された馬車がトモを乗せたやつだろう。

午前中にここを出て、宿もとらずに馬車を走らせたということは、殆ど休憩もしなかったということだ。乗っている者にかなりの負担をかけたことだろう。

トモは乗馬は経験があるといっていたが、馬車はどうだっただろう?

か細く体力のない少女に馬車での旅は耐えられただろうか?


そもそも、無傷でいるのだろうか?


こんなにも不安を覚えたことはない。自分の命が危険だった時よりも、はるかに恐ろしい。


集まってくる情報は微々たるものだったが、それでも地図には着実に印が増えていく。



「あの…」



声をかけてきたのはリョータだった。ろくに眠れなかったんだろう、ひどい顔色で目は真っ赤だった。傍らには灰色の獣が静かに控えている。尾でリョータを巻くようにしているところを見ると、一人前に守っているつもりなのか?



「その辺に座ってろ」



声をかけると近寄ってきて地図を見下ろした。

印を目で追うが、無言のまま椅子に座る。



「どこの誰か、目処はたってるんですか」



地図に目を向けたまま、リョータは呟く。



「街道を東へ進むと、ここで分岐する。こちらがルーヴ家の領で、こちらがレヴァイン家の領になる。

まだ決め手はないので両方に監視をつけている。家ぐるみでやってるってことはまずないからな…」



「どっちかの家の誰かということですね」



地図を見るリョータの目はその誰かを睨み殺せそうなほど強かった。




その日は結局それ以上のことは解らなかった。





○ ○ ○ ○ ○




三日も経ってしまった。三日も!


行方不明者の生存率は時間が経つにつれて格段に低くなるっていうのに。


今回は命を狙われた訳じゃないから、悲観するなとボッシュさんはいいますが。

誘拐された人がそのまま元気でぴんぴんしてるなんて考えられないし、トモは女の子だから、貞操の危機とか・・・不安は尽きないわけですよ。

ご飯が喉を通りません。



鬱々として、ロボとこっそり探しに行こうかと思っていた時、報告に来た騎士がやたら興奮しているのに出会いました。

ちょっと年食ったおじさん騎士です。



すぐに僕も呼ばれてボッシュさんの部屋に行くと、机の上を指差しました。


そこにはトモのサバイバルナイフ。片刃で波打って、グリップは、人の手が握りやすいように形作られている。チタンとステンレスの輝き。

まがまがしく見えるそれは日本なら銃刀法違反で捕まる代物だけど、実際は枝を切ったり紐を切ったりするのにパパが買ったプレゼントなんです。



「これ、トモのです!どこにあったんですかっ」



思わず詰め寄ってしまう僕の耳に、ボッシュさんの

『こんなもん持ってたのかよ』という呟きが聞こえたけどスルーですよ。



「街道の…この辺りの、道から少し外れた場所の木に刺さっていたのです」



おじさん騎士が地図を見て指し示し、ボッシュさんがそこに印をつけました。それから、

懐から折り畳んだ紙を出して机に広げます。



「ん?」



線のような、謎の落書きが書かれています。おじさんの顔に視線が集中すると、困ったように言いました。



「刺さっていた木に、新しい彫り傷のようなものがありまして、写してきたのです。この小剣が見慣れぬ物でしたので、何か意味があるのかと」



おじさんの声を聞きながら僕は手を伸ばして紙を取りそれを見つめました。

角度を変えつつ見たそれ。



「巴…レヴィン」



「それはっ、トモのことなのか?レヴィンは…レヴァインか!」



ボッシュさんの目が怖いくらいギラついて、僕の肩を掴んだ手も乱暴で、骨が折れるんじゃないかと思うほどでした。



「はやく、行きましょう!犯人が判ったじゃないですか!」



ボッシュさんはぎらぎらした目のまま、笑いました。獰猛な、肉食獣の笑い。

ロボがぶるっと震えたのが伝わります。

この人が、猟犬だなんて。そんな生易しいものじゃないでしょう!


あれ、なんか、見つかってもトモが危ないのに変わりはないような気がしてきました。



「ルーヴに回したやつを呼び戻せ。すぐ出られるやつ20名ついて来い。それ以外は待機。リョータはアガサの馬を使え」



歩きながら、次々と指示を出して行くボッシュさん。



「レヴァインに置いた斥候の報告では当主は不在、恐らく都に。当主の夫人と長男、長女、次女が在宅中」


「腕の立つ私兵を飼ってると聞きますねぇ。ガラの悪いのも多いとか〜」



厩舎に向かうにつれ、騎士が集まって来ました。

いつもより空気が重く、ピリピリしてて、皆の雰囲気が全然違っています。



「リョータ!こいつが私の馬!頭のいい子だからね、掴まってりゃ勝手に他のについてくから。それからこれ、一応、トモの着替えと外套。薬。まったく、男どもは気が利かないからね」



走ってきたアガサさんが荷物を馬に括り付けてくれました。流石、皆の姐さん。




ボッシュさんは集まって来た馬上の騎士を見渡していました。 



「明るいうちに着くようにできるだけ飛ばすぞ。それから――敵を見つけて、ぶっ潰す」



騎士達は大地と砦に響くような雄叫びをあげ、馬の腹を蹴りました。


置いていかれそうな僕の横にはロボが悠々と駆けています。


トモ、待っててね。こんなにも皆が必死で救けようとしてくれているから。

タイトルは曲名から。 

レッチリのカバーバージョンを聴きました。


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