22・少年の誓い
弟視点
砦は夜中になってもざわついていました。
ボッシュさんに夜はきちんと眠るようにと言われたけど、とてもじゃないけど寝られません。
この世界に来てからトモと決めた、二人のルール。
生きること。
忘れること。
嘘をつかないこと。
順応すること。
政治・宗教について言及しないこと。
一人で砦から出ないこと。
でも もし トモが自分の意志で居なくなったんだとしたら?
母さんみたいに。
もう僕の面倒見るのが嫌になったんだとしたら?
暗い部屋の空っぽのベッドは、忘れていたはずの記憶とダブって目眩がするようでした。
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「…お母さん?どこ?」
トモの声で目が覚める僕。まだ外は真っ暗やみで、何の音もしない。
「お母さん!」
さっきよりも強い声に驚いて、二段ベッドから飛び降りて部屋をでた。
トモはパジャマ姿で居間にいる。手には白い紙を握り締めて。
パパは仕事で、日本に帰るのはあと二週間先。だから居間とキッチンの間の和室には母さんが一人で寝てるはずだった。
「大きい声だすと、母さんに怒られるよ」
トモはもう中学一年生なのに、寝呆けたのかな?そう思ってると、怖い顔になって僕を見た。
「お母さんがいなくなったの」
僕には意味が解らない。母さんは寝る前までテレビをみていた。おやすみと言ったら無言でいつものように手を振って。
「コンビニにお菓子買いに行ったとか。散歩とか」
僕が言うと、トモは手に持った紙を居間のテーブルに叩きつけるようにして置いた。そこにはいろんな紙が置いてあって、僕が見に行こうとしたらトモが通せんぼして、見せてくれなかった。
「明日寝坊するよ、もう寝よう」
トモはそう言って僕を引っ張って部屋に戻った。
朝になっても母さんは戻ってなくて、次の日もその次の日も、何日経っても帰って来なかった。
僕達は二人きりでご飯を作って学校に行って、いつもと変わりなく暮らした。
トモは母さんのことを何も言わなかったし、僕も聞かなかった。けど、僕は何となく、トモははっきり悟っていた。
僕達は母さんに捨てられたんだと。
母さんは離婚に必要な書類だけを残して、さよならも言わずに置き手紙もなしにどこかへ行ってしまった。
それから何日かして、パパが帰ってきた。僕達にお土産をくれたその手にトモが書類を渡すと、真っ青になってパパは和室へ行ってしまった。
しばらくして出てきたパパは泣きながら僕達をハグして、日本語と英語でずっと謝っていた。どちらかと言うと厳しくて気難しいパパのそんな姿を見たのは初めてで、母さんの不在よりも有り得ないと思ってしまった。
それから二年くらい日本で暮らしたけど、パパは仕事をやめて三人でアメリカに引っ越した。
休暇には初めて祖父に会えて嬉しかったけど、それは母さんが居なくなったから実現したことだから、それを思うと複雑な気持ちになった。
あれ以来トモは他人と距離を置くようになった。
僕は一人になるのが怖くなった。
考えると辛いので、忘れることにした。
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気が付くと僕は床にぼんやり座り込んでいて、顔は涙でびしょびしょでした。
あ、それは涙だけじゃなくてロボが舐めてくれてたんですけど。
モップは足の上に乗っていて、鳥のピルルはせわしなく小さく体を震わせていました。
まるで皆して僕を慰めるように。
多分、今もっとも苦しんでいるのはパパに違いないです。妻も子も、何も言わずに消えたんですから。
僕はもう何もできない子供じゃないし、ただ待つつもりはありません。
パパのかわりにトモを守って、お嫁にいくのを見送る義務があります。
例えトモが自分の意志で出ていったんだとしても。
無理矢理攫われたんなら尚のこと。
「トモを捜して」
だからロボに頼みます。
僕達と同じように異世界から来た生きもの。
異世界補正で言葉はきっと通じている。
ロボはまた僕の涙をべろりと舐めて、何となく返事が聞こえたような気がしました。
元服に因んで、私の地元では少年式というのがありました。
リョータは過去をただ忘れるのではなく、受け入れてから昇華しようとしています。難しいことですが。
ちょっと前にはこの世界初の獣医を目指す決意をしましたし、荒波にもまれて劇立派に成長してくれそうですね!
結局のところ本格的なシスコン宣言ですが!




