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21・親の顔が見たい

姉 ボッシュ視点です


喉が痛くて、夜明け前に目が覚めた。だるいので熱が高いのかもしれない。


でも、動けないわけじゃない。


ブーツを履き直して、紐をぎゅっと絞める。


窓を開けて外をみると、そこはバルコニーになっていた。下は柔らかそうな草の生えた地面。うん、コンクリなわけないよ。

綺麗に整えられた庭が見えて、とくに敷地は塀で囲ったりしていない。

問題はどっちから来たか、なんだけど…逃げてから考えようかな。熱の所為で思考がばらけていく。


バルコニーを乗り越えて、飛び降りる。あいきゃんふらーい。地面に着いたら前回り受け身。

勢い良すぎて2回転してしまったよぅ。うぇ。



ちょっとしばらくじっとして、誰も出てこないのを確認。とりあえず、この屋敷から離れよう。大きな道を探して、馬車でも馬でもヒッチハイクして帰ろう。

帰る先は砦だって解ってるから、手段さえあれば簡単なことよ。


それにしても、だるくて走れない。そう言えば食べてないし。



「ぐえっ?!」



またしても首に衝撃!

突然誰かに襟首掴まれて、ふわっとぞわっと体が持ち上げられた。

これはあれか、絶体絶命?



「若がお呼びだ」



ここは普通、逃がさん、とか手間かけさせやがって、とか、悪の手下っぽく言わないかな。

今の状態スルーして、用件のみをお伝えしてます?

使用人の鏡だね。

変な台詞が次々浮かぶ。

ちょっと私やばいかも。



使用人の中の使用人、今日も朝から黒づくめの彼はもう何も言わずに私を運んで行く。あんまり遠くに来てなかったのか。残念。あ、あと、肩に担がれるのはとても辛いということが解ったよ。

部屋に放り込まれて、今度は中に人がいた。


清楚な白いカラーとカフスの黒ワンピースは、喉元手首まできっちり覆い、スカート丈は足首より少し上。ワンピースの上には白いエプロン。 


生メイド!


くらくらする頭をゆっくり起こして観察すれば、メイドは3人。背筋を伸ばしてこっちを見ている。平均年齢は40歳くらい?馬鹿様はベテランを私にあてがったようだ。


泥だらけで髪に葉っぱなんかが付いてる私を見て、真ん中のメイドその1は片眉をぴくりと動かした。

ゆっくり近づいて来て、私に手を差し伸べるので思わずその手に掴まる。だってなんか眼力が。逆らえる気がしない!この屋敷は怖い人ばっかりか。


そして私はされるがまま、風呂に入れられごしごし洗われたのだった。風邪が悪化するような気がする。

触れば発熱してると解ってるはずなんだけどな〜。


洗われたあとはお着替え。異世界トリップお約束が今ここに!

この国のドレスはゆったりしていて、胸の下で切り替えがあって楽なタイプだった。マリー・アントワネットみたいなんじゃなくて良かった。体に凹凸が少ないからな。長めの袖口は先が広がって、下に着た白い薄いドレスのレースが見え隠れする。こんな服じゃ家事はできないね。あ、メイドがやるのか。

深緑で、ベルベットみたいな触り心地の生地。服だけ貰って帰っていいかな?



着替えが終わるとメイドその2が食事を持ってきた。スープだけ飲んで終了。

朝の運動とお風呂と着せ替えで、もう力尽きそう。




「や、着替えたね!」



能天気な笑顔で馬鹿様が入って来た。例の人は影のようにするりと彼の後から入って来る。私は返事する元気もないので長椅子?のクッションにもたれて、ぼんやり二人を見ていた。



「ふぅん、きちんと装えばなかなかだね。都へ行けばすぐに求婚者が集まるだろう」



近寄ってきて私を覗き込みながら彼は言う。

働いたことなんて無さげな白くて細い手をのばして、私の首をそっと撫でた。


ぞわっとした。


無言で睨むと、嬉しそうに微笑んで、懐から何かを取り出した。じゃらり、きらり。宝石のはまったチョーカーを私に付ける。



「君はどうやらとても活発なようだから、繋いでおこうと思ってね」



トンでもない事を言う顔を霞む目で見つめると、本気で嬉しそうなうっとりした目とぶつかった。

チョーカーには細くて長い鎖がついていて、いつのまにかその端はベッドの支柱に繋がれていた。メイドその3の手によって。



「昨日みたいに暴れないでね?傷がついたら価値が下がるし、痛いの嫌でしょ?僕としては部屋の中でのんびりして欲しいんだけど」



本格的に監禁された。



「なんの権利があってこんなことするの」



苦しいけど言わずには…。



「素晴らしい家の跡取りたる僕には、全て一級品が相応しいとは思わないかい?だから僕はね、いいものを手に入れるのに、努力は惜しまないよ」



得意げに!言いやがった!努力するとこ違うから!



どういう教育受けてんの?


ショックで意識が飛びそうな私の耳に、変態金髪男のくすくす笑いが聞こえて、誰かのでっかい手でベッドに運ばれたところでまた真っ暗になった。






○ ○ ○ ○




トモが居ないという。


この砦しか知らない彼女がどこにも行く筈がないし、そもそも可愛がっている弟を置いて行くわけがない。

朝は普段通りの姿を何度か目撃されており、消えたのは朝食後から昼食までの間――俺が巡回に出ていた時間。


パイクの読み通りならば、『森』から出た姉弟に興味を持った宮廷の連中の仕業だろう。引退寸前のジジィの耳に入ったということは多くに知られていたということだ。


リョータはひどい顔色で、さっきの剣幕が幻だったように黙り込んでいる。

哀しげなその顔は、トモによく似ていた。




「失礼します」



隊長室に着くと、レオが無言で扉を開いた。目を合わせてから中に入る。

机の前で腕を組んで立っている隊長と、その横で椅子に腰掛けたジジィがいた。



「報告は上がっているようですが、改めて。外へトモの捜索に出る許可を頂きたい」


「トモを拉致したとしたら馬車を使ったはず、我々が巡回した西側では徒歩の者と地元民の荷車のみ確認しています。東側に絞って我が家の領地外を捜索するのなら、あまり目立たないかと」



こういう時はパイクが役に立つ。事態を冷静に判断している。


隊長は腕を伸ばして、俯いたリョータの頭にのせた。



「手の空いている青騎士は全て使って構わん。私の砦から私の娘を攫ったのだ、何としてでも取り戻すように」



重々しく響くその言葉に顔をあげたリョータに隊長は言った。



「馬に乗れるならお前の同行も許可する」



無言で頷くリョータを目を細めて眺めながら、ジジィが口を挟んだ。 



「ガルニエの末っ子はワシと来るがいい。一応体裁は整えねば宮廷がやかましいからな。リョータや、不肖の息子はいつになく本気だから、安心おし。一流の猟犬だからな」



ジジィはいつものように子供じみた顔でそう言うと、杖で床を突いて立ち上がった。



「はい、先生ありがとうございます。では」



パイクは一礼してからリョータの背中を軽く叩いて、ジジィと共に出ていった。あの二人が貴族連中相手に緩衝材となるならば、こっちは好きにやっていいということか。



「一応、領内東側の民家、街道周辺の建物は全てあたります。その後は他領地への巡検となりますが」



俺の問い掛けに、隊長は机の上にある地図を指す。



「砦からの道が繋ぐのは三家だが…東は二つだな。どちらもガルニエ家より格上だが、ふん。金を積んで来そうな奴らではあるが」



リョータに配慮して隊長は言葉を濁したが、両家の悪い噂は耳に入っている。

金を積んで部下の妻を買っただの、領民への暴力的な仕打ちだの――考えるだけで虫酸が走る。



「トモの保護を最優先にせよ」



あの少女がどんな目に合わされているかと思うと、今までにない怒りを感じる。



「リョータ、行くぞ」



まずは斥候を出して両家を監視するとしよう。その間街道沿いをしらみ潰しに捜索する。人や馬車が通れば必ず痕跡を残す。跡を消せば消した跡が残る。


俺は昔から捜し物ばかりさせられている。そのせいで不本意な『猟犬』などというあだ名すらあるが、今回は別格だ。


自分から追い求めている。失うことに恐怖すら感じるほどに。たった数ヵ月前に出会ったというのに、あの子が居なくてはひどい喪失感を覚えている。

取り返して、この手の中で笑う顔を見たい。



強い光を宿した目で、リョータが言う。



「ロボも、連れて行っていいですか。匂いをたどれるし、戦力にもなります」



本物の猟犬も参戦だ。


待っていろ。

馬鹿様逃げて!

怖い人が来るよ

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