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17・知らないおじさんについて行ってはいけません

姉 ボッシュ 視点です

最低な日だった一昨日は、最終的になぜかボッシュさんに慰めてもらって部屋に帰って、ご飯抜きで爆睡した。


変な時間に起きたら、獣共に取られないところに、弟が作ったなサンドイッチが置いてあったので有り難くいただいた。野菜たっぷりにチーズっぽいのを挟んだやつ。おいしかったな〜。

ちなみにサンドイッチは通常メニューとして正式採用されているよ。


ここ2、3日はなんとなく話し掛けにくくて、しかも忙しくてジルさんはちっともじっとしていなかった。

よくみたらハーレム人口増えてない?



「よぉ。今日は元気か」



ボッシュさん。・・・ハーレム増えて倍率上がって大変ですね、とか言おうと思ったけど。


すぐにあっちに行って欲しくなくて、頭をフル回転させて話題を話題を話題を〜


考え込んでたら、眉間をびし!と指で突かれた。秘孔か?!すんごい痛いんだけど!

思わず涙目でボッシュさんを見上げると、片手で口を押さえて顔を逸らせた。

笑ってやがるのか?!顔赤くなってるし!



「何すんですかあなたは」


「・・・すまん」



その一言で、出てきた食事のプレートを持ってテーブルへ行ってしまった。なんだったのさ。



「今、何話してたの!」

「ボッシュさんて意外にかわいくねぇ?」

「おでこツーン☆だってギャハハハハ」



次に並んでた若い騎士3人組が、内緒話をするみたいにこっち向いて屈みこんできた。無駄にテンション高い。さっきとの差がすごいわ〜。ボッシュさんは意外にまったりなんだよね。思わずため息ついちゃった。



「あんまりお話できなかったし」



つい思考が口をついて出てきてしまった。そんな私を見て、3人組は気持ち悪く悶えながら『かわいいー』とか『羨ましい』とか叫んだ。いい男はこういう時はさり気なく聞かなかったフリとかするんだよっ!


不本意ながらジルさんとはお話できなかったけど、元気そうだったし、いつもより真剣にパイクさん達と話すのが見えて、もしかしたら私の言ったことを考えてくれたのかも、て思う。


パイクさんにはジルさんみたいなしっかりした姉さん女房がぴったりだと思うんだよね〜。きっと子供はすっごくかわいいよ!



仕事帰りに楽しい想像を巡らせていると、視界にでかい箱型の何かが入ってきた――あれは馬車か。テレビでみたキラキラで可愛いやつじゃなくて、頑丈そうな雨風どんと来い、みたいなやつだ。

ガチャリと勢い良くドアが開いて、中からは杖をついたお爺さんが降りてきた。映画なんかでは、踏み台とか執事がお手をどうぞ、というところだけど、馬車には一人で乗ってたみたいだし、御者の人は誰かと話している。

おっと!



「大丈夫ですか?」



見てると予想通りよろけたので駆け寄って、自由な方の手と背中を支えた。て、かなりごっついお爺さんだわ。



「お、気が利くなぁ、嬢ちゃん」



ごついお爺さんは笑って杖で地面をゴン、と突く。すごい響いたんだけど何か仕込んでる?

ライオンのたてがみみたいな白髪、ん・教科書のベートーヴェンぽいかも。顔や手に古傷があるから若い時は騎士だったのかな〜。目は綺麗な菫色。口元には笑い皺があって、すごくかっこいいお爺さんだな。



「どちらにご用ですか?誰か呼んで来ましょうか?」



私がそう聞くと、お爺さんは杖で砦を指した。



「隊長に会うだけだからなぁ。嬢ちゃんが構わんならこのまま手を引いてくれんかね」



お爺さんはそう言ってウィンクした。

ふわ!私でよければ喜んでお供します!お爺さんのために平らな道を選んで砦に入る。

ここに来たのは初めてらしく、時々立ち止まっては楽しそうに見ていた。

よく考えたらこの人知らないなぁ。今更だけど。悪い人じゃなさそうだからいいかな。隊長強いもんね。

こんな時に限って知ってる人に会わないんだから。


ちょっとどきどきしてる間に着いてしまった。



「あっ!先生!」



扉の前のレオさんが素で驚いた。慌てて扉を叩いて中に入って隊長になにか言ってる声がした。よかった。知ってる人だったんだ。ほっとしたよ。



「助かったよありがとな」



お爺さんはそう言って私の頭をガシガシ撫で回した。強いけど優しい。誰かと重なった。



「先生どうぞお入りください。トモ、ご苦労だった」


中から隊長が出迎えて、二人は入っていった。誉められちゃった〜フフ。


部屋に戻ってしばらく休んで、今日は訓練場に行く。知ってる人来てるかなぁ〜と覗くと、隊長とさっきのお爺さんがいる!

先生って、剣術のだったのかな?



「こんにちはさっきは…」



話し掛けたら満面の笑顔で両肩を掴まれた。



「おぉ、嬢ちゃん!お前さんが『トモ』だったか!」



なにゆえ私の名前を?隊長に『説明を求む』視線を送っても無言で撃墜された。



「こんなに美人で親切な娘だったとはのぅ。弟の方もいい子なんだろうなぁ。誰かさんがぜーんぜん会わせてくれんから、老体に鞭打って来たんだよ」



そう言いながら、ちらりと隊長を見る。隊長はお爺さんの視線も撃墜。



「あ、お褒めいただいて恐縮です。長旅は、大変でしたでしょうね?」



よく事情は解らないけどこの体での旅はきつかっただろうなぁ、と思って答えると、お爺さんにぐわばっ!とハグされた。くるしぃ。やっぱ力強いし!



「離せクソジジィ」



お下品な声がしたと思ったら、急にお腹を圧迫されて後ろに引っ張られた。

誰かの腕がお腹に回されて私の足は宙に浮いてる。びっくりして体がガチガチに強ばってるけど、勇気を出して顔を後ろに向けた。

いつもより近く、目線がほぼ同じ高さに彼の顔が見えた。無理にひねったので体が仰け反りそうになり、咄嗟に肩にすがった。


私が掴んで驚いたのか、こっちを向いたので正面から目が合った。黒い目に私の顔が映っている。案外睫毛長いんだ。というか近い近い近い!!!


固まったままの私を抱えてボッシュさんは隊長に一礼して、訓練場を大股で出ていく。何も言わない。何も言えない。


しばらく歩いて、お気に入りの切り株のところへ私をそっと下ろしてくれた。それから前にしゃがんでため息のようなうなり声?みたいな声を出す。どうしちゃったのかな?聞きたいけど私はまだ声が出ない。

家族以外であんなにくっついて抱っこされたのは初めてだったから。


私の心臓と、ボッシュさんの心臓の音が共鳴したような気がした。あのままずっとくっついてたら、ずっと揃って鼓動してたのかな。






○ ○ ○ ○




午後の訓練の前、嫌な名前が聞こえてきた。



「マルキン先生がいらっしゃったそうですよ!」



パイクの嬉しげな声。あんな爺さんが来てなぜ嬉しがる。泣くほどしごかれたくせに。



「爺さんは何しに来たのか知ってるか」



「ん〜多分ですけど、トモとリョータを見に来たんじゃないでしょうか。あちらでも話題になったようですし」


「人が出てきたのは隠してるんじゃなかったのか」


思わず強い口調になっていたのか、パイクが青ざめて首を振った。



「基本的にはそうなんですけど、宮廷の一部、上層部には報告が…予算のこともあるわけですし」



しどろもどろのパイクに、ため息をつく。そう言えば昔、ため息が多いとからかわれた事があった。


そんな事を考えながら訓練場に着くと、珍しく隊長がいた。これはついている。実のある訓練ができそうじゃないか――?!

隊長の影に奴がいた。

杖をつくほど足が悪いなら老人らしく家でじっとしてればいいものを。

隊長に挨拶しない訳にはいかないので、そちらへ向かうと、爺さんがいきなり何かを抱き締めた。トモ?見えてなかった。じゃなくて



「離せクソジジィ」



奴が血迷わない内にトモを取り返しておく。ちょっと気に入ったら後添えに、と言いだすので始末に終えない。

不意に両肩に力がかかったので横を向くと、目の前にトモの顔があった。

小さな顔は今までで一番近くにあり、赤みを帯びた美しい茶色の目がこちらをじっと見ていた。


一瞬頭が真っ白になった。

隊長に目礼して、取り敢えずこの場を去る。ジジィの始末は後回しだ。



トモがよく座っている切り株の上へ、彼女をそっと座らせた。突然抱き上げたので恐ろしかったのか、子猫のようにさっきから黙って固まったままだった。

恐がらせるつもりはなかったんだが。思わずしゃがみこんで、またまたため息がでた。頭の中に、腐れ縁のおかしな旅人の声がしたような気がする。



「すまなかった。あの爺さんは俺の身内でな。やたら女好きなどうしようもないジジィだ。今度触られたら投げ飛ばして構わない」



膝立ちでトモと視線が合うように言うと、ようやく表情が緩んだ。



「なんだ、ボッシュさんの身内の方ですか。うん、道理で。頭撫でてくれたんです。血が繋がってると、やること似るのかな」



あのジジィ。


無性に、自分以外がこの子を撫でたかと思うと腹が立つ。自分以外に撫でられて喜んでいるトモにも。


両手をのばして、小さな顔を包むようにして挟んでやった。柔らかくて、恐ろしく肌理の細かい気持ちのいい手触り。頬の辺りに親指をすべらすと、トモの肩がはねた。



「さっきのは訂正する。ジジィ以外でも男は全員触られるの禁止。投げ飛ばせ」



真剣に言っているのに、トモは何度か瞬きをしてから吹き出した。 



「真面目な顔して、言ってることすごいよボッシュさん!メチャクチャだぁ」



〜このガキは。なんでわからないんだ?のんきに野外で昼寝したり、男ばかりいる場所を薄着でふらふら歩いたり。

俺がどれだけ心配しているか。


不意に、顔を挟んでいる手にトモの冷たい手が触れたので息を呑んだ。

また、さっきのように顔が近い。震える長い睫毛。薄い唇。薄紅色の唇が、ゆるゆると言葉を紡いだ。



「さっき、私の心臓とボッシュさんの心臓の音がね、一緒になって聞こえたの。別々の人なのにね。すごいドキドキした。ボッシュさんも…」



真っ赤な顔でゴニョゴニョと恥ずかしいことをトモが言うので、顔に触れた手を伝ってこっちまで顔に血が集中するような気がして、トモの口を塞いだ。

両手が使えないので、口を使って。


柔らかい唇に重ねるだけの口付け。自分に嘘はつけない。嫌がらないのを確認して、もう一度口付けた。



「な〜んだトモはお前さんのもんだったか!じゃあ早く可愛い孫寄越せよ!」



後ろから突然馬鹿みたいな声がして、俺とトモは固まった。



「ボッシュさん・・・?」



トモの小さい声がする。俺はトモにほほ笑みかけて可愛い頭に手を伸ばして撫で回す。



「ボッシュさんその笑顔怖いよ?」


「部屋に送っていくから、ちょっと待ってろ」



ジジィを埋めるから。やはり先に始末しておくべきだった。これと血が繋がっているなど悪夢だ。他の兄弟もまともなのに。



立ち上がってジジィのにやけた顔と向き直った。子供のように目を輝かせているのを見て、またしても、ため息がでた。




ボッシュは

ふ っ き れ た




ボッシュが言う腐れ縁の旅人は、私のもう一つのお話「世界の目」の主人公のことです。あっちは話の進行が遅いので、お暇なとき、気が向いたら御覧になってください。

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