16・いっぽうそのころ
弟 ジル 視点です
今朝はパイクさんがお休みなので、朝食後に僕達の部屋へ来てくれました。
取り敢えず、もふもふ達のデータを報告です!
「モップは体長に変化なしです。見つかった時からずっとですね。やっぱりこれで成体なんですね〜」
「うん。食事量も一定だ。ロボはいつも寒くなると食事が増えるんだ」
もしかして元は冬眠してたんでしょうか?
ロボがあくびをした隙に舌や歯をチェックするパイクさん。慣れてますね。獣医さんみたい。この世界には獣医はいないらしいけど。騎士とか農耕に家畜を使うんだから、いて当然だと思ったんですけどね。
「どうしてパイクさんは騎士になったんですか?」
「うーん、兄がいるから家を継がなくてよかったからね、好きなことしたかったんだけど。家の体面を保つ必要もあってね。なんとか騎士団に入って、それからこの砦に配属されるように頑張ったんだ」
にこにこと教えてくれました。そこまで細かく言わなくたって・・・やはり根が正直者なんだなぁ。
この人なら、宮廷で陰険な人たちに囲まれて過ごすより、多少弱くても騎士として真面目に働くのが似合ってますね〜体力は人並み以上あるとわかったし。周りに子供がいたらきっと人気者でしょう。
話していると、いつのまにかトモがいなくなっていました。あれ?
「トモ知りません?」
「さっき、散歩に行くって出ていったよ」
ちょっと首を傾げてパイクさんが言いました。気付かなかった。恥ずかしい。もふもふに夢中でしたよ。
「そう言えば…あの、トモが、ボッシュさんのこと好きらしいんですよね」
恐る恐る聞いてみます。一番あの人と仲がいい?のはパイクさんなんですよね。
「あっ!そーやっぱり、ちょっと噂になってたんだ」
パイクさんはちょっと赤くなって頷きました。誰もいないのに声のトーンもさがっています。
「ちょっと前から、先輩がすごくトモのことを気に掛けてて、見守ってる感じなんだよね」
「でも、ボッシュさんてジルさん狙ってて、レオさんとかといつも一緒でしたよね?」
そこがやっぱり気になるんですよ。
パイクさんは『狙ってるって生々しい…』と呟いて苦笑しながら、首を横に振りました。
「何ていったらいいんだろう。確かにいつも僕達と一緒になってたけどね。今思うと、ジルさんに対する態度と僕達への態度は同じだったんだ」
ん〜?どういうことでしょうか?
首を傾げた僕に、パイクさんはまたにこにこして言いました。
「先輩はいつも人から一歩引いて接してたんだ。ジルさん相手でも。最近トモには踏み込んでるんだよ」
それはやっぱり本気ってことでしょうか?うわぁー。
何だか赤面してしまいました。同級生と放課後に噂話をしてたノリです!パイクさんも赤いし!
「じゃ、じゃあパイクさん恋敵が減ってよかったですね!」
僕としてはケラーさんにも頑張ってほしいんですけどね。
ちょっと茶化そうと思って言ったのに、パイクさんは悲しそうにため息をつきました。
「全然相手にされてないんだよね。ちょっと調べさせたら、昔好きだった人を今も想ってるとか…」
調べさせたって何ですか?スパイでもいるの?!
「そ、そんなの解らないじゃないですか!まだまだこれからですよ!」
ロボのお腹に顔をぐりぐりして嘆くパイクさんを慰めるのに、結構な時間がかかりました。
○ ○ ○ ○
あぁぁ〜どうしましょう?トモに嫌われちゃった?!男の人を弄ぶひどい女だと思われちゃったんじゃない私?!
あの年頃は難しいし、トモはすごく純粋だし。かわいくて思わずからかっちゃったし。
うわあ。
でもそうね。嫌われてもしょうがないよね。
大事にされて想われてるのが気持ち良くて、態度を決めかねて。
昔、憧れたあの人に想いを告げる前に振られてしまってから、段々臆病になっていってしまった。
奥さんいるって知らなかったし。愛妻家で目の前で惚気られて死にたくなった。あ、でも今はもう平気ね。冷静に思い出せる。
もう何年も経ったから。私もいい年よね。子供の一人や二人いてもおかしくない年齢だわ。
・・・これはまずいわね。気が付いたら周りから誰も居なくなってたら洒落にならないわ。
トモの言う様に真面目に本気で考えたほうがいいんじゃない、私?
あぁトモ。ありがとう。やっぱりあなたは素晴らしい子だわ。明日謝らなきゃ。
ジルは覚醒した!
男を見る目がかわった
色気が増えた
狩人にジョブチェンジした