12・ほどよく鍛えましょう
弟 姉 で視点変更です
午後になり、僕は訓練場へ向かいました。体育館のようなだだっ広い建物で、壁ぎわに武具が並べられ、床は土になっています。
簡単な木製の観覧席のような一角もあり、そこで順番待ちをしたり見学をするようです。
僕が着いた時にはもう姉とボッシュさんが来ており、受け身を練習していたようです。なんとなく見ているとボッシュさんはもともと体術も経験があるのか、筋がいいように思えます。
たまに居ますよね、さらっと何でもできちゃう人。
「いたいた、さぁ走ろう」
「素振りが先だろ」
いつのまにかパイクさんとレオさんに挟まれていました!
「いきなりだとどこかつりそうなんで、ちょっと体を解してからやろうかな〜」
僕は二人から少し離れて柔軟体操をします。
動物の世話を始めてからそれなりに動いてはいるんですが、元々の体力に自身無いんですよね〜。
ちょっと間を取りたかったのに、一区切りついたと見たパイクさんがいつもの笑顔で寄ってきました。
「さあ走ろう!」
タッタッタッタッ・・・
「何周、走るん、ですか」
10周くらい走ったところで恐る恐る聞いてみると、余裕の笑顔で振り向きます。
「ん〜、リョータ初めてだから50くらいにしとく?」
パイクさん・・・!ヘタレだと思ってたら結構ちゃんとしてたんですね!あと10周で僕の心臓爆発すると思いますっ!
なんとか5周走ったんですが、
過呼吸になりかけたので自主的に切り上げましたよ。
パイクさんや他の騎士さん達はこちらを気にしながらもきっちり走りきっていました。
「いきなりお前等と同じことをさせてどうする。1日で潰れるぞ」
へたりこんで呼吸を整えていると、ボッシュさんと姉が傍にやってきました。もっと言ってやって下さい。舞い上がって加減を忘れているお兄さんたちに。
「リョータは基本的な体力ないから、ね。走り込みから始めたらいいと思う」
横にしゃがんだ姉が言います。助けに入ってくれたのでしょうか。と思ったら、僕の腕を引っ張り、立ち上がらせようとしてきます。
え、なに。立てないんだけど。まだ喋るのも辛いんだけど?
なんとか解ってもらおうと姉の目を見ると、ニッと笑いました。
「技とかね、やっぱ実演見たら解りやすいでしょ」
それはつまり僕を実験台にするという・・・無理無理無理無理!昔からどれだけやられたか!
必死で首を振っても、姉はずりずりと僕を引きずって行こうとします。
重心を低くして抵抗していると、いきなり脇腹辺りをつかまれ、持ち上げられました。
「お前、軽すぎだ。まだ立てないなら持って行ってやる」
ボッシュさん??
小さい子に高い高いをする時のように、ひょいっと僕を後ろから無造作に持ち上げてすたすたと移動しやがります。
これって姉のポジションじゃないんですかね。先日といい・・周りの視線が微笑ましいものを見守るようなのもなんか嫌です。
くっそーいつか隊長みたいなムキムキになってやる。
実演は思った通りヘロヘロになりましたが、ボッシュさん以外にも興味を持った人が居て、真面目に取り組みました。
姉にべたべたしたがるのを防げたので結果的にはよかったですね。
パイクさんとレオさんも途中から参加して、元気よくじゃれあっていましたね。年齢を考えると、レオさんて子供っぽいか相当な負けず嫌いですね!パイクさんにできて自分ができないことはない!と練習してました。観察メモに新たな書き込みができました。食堂で報告しないといけません。
○ ○ ○ ○
ボッシュさんに合気道を教えることになったので、その日の午後、迎えをまっているところ。
仕事で程よく疲れて、食堂裏の大きな切り株に寄り掛かって陽なたぼっこをしてたらうとうととして目が開けられない。でも眠ってはいない、なんともいえない至福の時・・・。
葉っぱを踏む音がして隣に誰か来たかな〜、と思っていたら、その人は深いため息を吐いた。誰だ?
「お疲れですか・・・」
半目くらいでぼんやり見ながら一応声をかけてみる。その人は私の横で、こちらに向いて座った。
あ、青ジャケットだ。あ、ボッシュさんだった。
陽が当たっているのでいつもより髪の色がキラキラして見える。キラキラだなんてパイクさんみたいだ。ちょっと笑える。
「こんな所で寝るな。お前は危機感が足りない。ここは雄ばっかりなんだぞ」
雄って。そういえば圧倒的に男ばっかりだな〜。騎士以外はコックに鍛冶屋、馬の飼育係、医者、農夫、なんかの職人…ムサイな。
女性はジルさんみたいに食堂や医務室の助手、女性騎士、文官…と10数人かな。
ふむふむと半分寝ながら考えていると、ボッシュさんが私のデコに手を当てた。あ〜忘れてたわ。せっかく迎えに来てくれたのに。
ごそごそと立ち上がろうとすると、手を添えて立たせてくれた。今のすごく騎士っぽい!『お手をどうぞ』とか言わないのがボッシュさんらしいけど。
「疲れているならまたにするが?」
「気持ち良かったのでうとうとしちゃっただけです、すいませんでした」
ボッシュさんはそうか、とだけ言って訓練所に向かった。
訓練は体育の時間と違って来た人が一人で筋トレみたいなことをしたり、パートナーと連れ立って手合せしたりと、自主的にやっていた。合同でやる時は揃って走ってから勝ち抜き戦のパターンが多いらしい。
たまに隊長も来てるとか。見たいな〜。
とりあえず柔軟をやりつつどう進めるか考える。
私は初めに受け身を教わったな。きちんと受け身ができれば投げられても怪我しない。うん。まあ、私の腕は微妙だけど。
「ボッシュさん、まずは倒れ方です。倒れた時に怪我をしないように衝撃を分散させるんです」
「ふむ。道理だな」
どうやら生徒は素直なようです。
土のうえではちょっと嫌だけど、思い切りが肝心。ボッシュさんは私がやるのを見たらすぐに真似して実践する。普段はやる気なさそうだけど、こういう時はすごく真剣なんだね。
「リョータが死にかけているぞ」
ふと場内の片隅を見ていたボッシュさんが呟いた。視線を辿ったその先には、燃え尽きて真っ白になった人みたいなリョータがいる。あらら。
パイクさん達にしごかれているんだろうか?
「リョータもこっちがいいんじゃないか?剣をやるわけでもないんだろう」
そういえばそうだ。
いいこと思いついた。足腰ぐだぐだの今のリョータなら投げもかけやすい。
「じゃあボッシュさん、リョータを保護しに行きましょう。そんで、どういう時にどう受け身をとるかを実演でみてもらいます」
そしてリョータを引っ張ってきて練習してたら、どんどん人が増えてとても盛り上がった。暑苦しいノリは苦手だけど、こういうのもたまにはいいのかもしれない。自己紹介とかして。けっこうイケメンが多い。
ボッシュさんは人が増えるとまたもとのかったるい感じに戻っていた。ちょっと不機嫌?自分だけ技を覚えたかったんだろうか。
男の人はやっぱり一番強くありたいとかそういうのかな?でもきっと最強は隊長だよね〜。
その夜はお風呂(なんと温泉)に入らせてもらって寝た。リョータはぶつぶつ足が痛いとか言ってて、ちょっと反省。いきなり初日でやりすぎたな〜と。私も明日筋肉痛だわ。
モップ(黄色い毛トカゲ)とロボ(灰色たれ耳狼?弟命名)をベッドにあげてぬくぬくしながら寝てたんで反省はすぐやめたけど。
毛がつくから洗濯係に怒られるのに。
おやすみなさい。
今更ですが合気道のことは全然知りません…
やせてて体力のない女子がちょっとかじった護身術という設定上、無理がないのが合気道でした。護身と健康のため親が慣わせたという隠れた設定が!
初心者向けの解説を参考にぼかして書いてあるので、経験者の皆様はそっと見逃してください。