11・お稽古を始めるのは秋が涼しくていいね
弟 姉 で視点変更です
不愉快な事件からしばらくの間、居たたまれない日が続きました。
あの後、巡回から戻ったパイクさんは真っ青になって飛んでくるし、ジルさんは仕事の後に寄っておやつを持ってきてくれるし、知らない騎士に声をかけられるし、なんとラーソン隊長まで見舞いに来てくれたのです!
トモは誉められてとても嬉しそうでした。
こんなに、身近な人にストレートに心配されたり誉められたりしたことがなかったんですよ僕達。
嬉しかったのと、事件で興奮していたせいか、あの日はなかなか寝付けませんでした。
「リョータはもっと鍛えたほうがいいわね!」
ある日の昼食時、ジルさんが僕の皿にハムを追加しながら言いました。
頼んでませんけど?
手掴みで持ってきませんでしたか?
ジルさん狙いの視線が強さとか嫉妬とか色々混ざって飛んできますし!!
満腹感と緊張で苦しい中もなんとか食べます。残すのはよくないし絶対文句言われますから。
「あの、まぁ僕弱いですけど。それと肉の追加に何の関係があるんですか」
「あんたは食べなさすぎだからね〜!しゃんと食べてあたしらに混ざって訓練しろってこと!」
後ろを振り向くと、身長は僕より5センチくらい高くて、パイクさんよりはるかにゴツ…立派な鍛え上げられた体の、女性騎士のアガサさんが立っていました。
金髪の巻き毛で琥珀色の目お肌も綺麗で、パーツがそれぞれ大きいので派手な顔立ち。砦内警備の緑ジャケットがよくお似合いです。
頼りがいがあって腕もたつ皆の姐さん・年齢非公開・は、僕にとっては苦手な人です。
最近気付いたんですけど、僕が砦で最年少なんです。だから皆が構いたくなるらしいですね・・・。
「僕暴力反対ですから。できたらケラーさんの弟子になりたいな〜」
アガサさんもジルさんも立っているので自然と上目遣いになったんですが、二人は顔を赤らめながらもほだされてくれません。
「もぅそんな顔しちゃダメでしょ!また襲われちゃうわ!」
「自分を守れなきゃ一人前になれないよ!」
なんか話が不愉快な方向に行きますね。
どうやって断ろうかと思っていると、ジルさんに引き寄せられたお邪魔虫がやって来てしまいました。
「楽しそうだな、何の話」「リョータ、元気になってよかったね〜」
レオさんとパイクさんが明らかに牽制しあってジルさんに近寄ります。
「リョータを鍛える話をしていたんですよ。あんな事があったし、少し教えてあげられませんか?」
ジルさんがにこにこしながら言ってしまいました。
何という事を!!
男二人は顔を見合わせて、はっとしたように今度は僕に詰め寄ってきました。
「そんなことならお安い御用だよ!君には世話になっているし、一緒に訓練しよう!ボッシュ先輩の指導を一緒に!」
「バカ言え、お前等は外回りで忙しいだろ。訓練するなら俺等とやろうぜ。なあアガサ」
どうも青い外担当と緑の中担当の騎士はライバル関係にあるようですね。
しかもこの二人はいいところを見せようとやたら張り切っているので、とてもじゃないけどお願いしたくありません。
「何を騒いでいる」
大きな人達に囲まれて、どう逃げようかと悩んでいると、今度はボッシュさんまで追加されました。
「「リョータを鍛える話です」」
おぉ何人かハモッた。
ボッシュさんはちょっと片眉をあげて微妙な表情をしました。今度は何です?!
「ちょうどいい、トモも訓練に付き合う事になった。2人で午後から来い」
そう言うとさっさと出ていってしまいました。うぇ?いつの間に姉とそんな話をしたんですか?姉が承知したのも珍しい。
うーん。驚いたのと、人の話を聞かない人が揃っていたのでなし崩し的に決まってしまいました。
○ ○ ○ ○
食堂の仕事が一区切りして軽く掃除をしているとボッシュさんがやって来た。
私を見ると手を挙げて寄ってくる。珍しい。いつもは食堂に来たらさっさと食事を受け取って、ジルさんのハーレムがあればそこに直行するのに。ちなみにハーレムがない時は一人で食べていた。友達、いないのかな?
「よお。今日は寒いな」
紳士の会話は天候の話題から。と思ったら返事も聞かずに腕を掴まれた。
特に乱暴でもなく、握手をする時みたいだったので振り払うことも失礼かな〜と思っていると、掴んだ私の腕をゆらゆら動かす。
えー何がしたいの?
こっちは力を入れてないので動かされるままゆらゆらゆらゆら。
「ボッシュさん、人の腕で遊ばないでください」
遠慮がちに申し上げてみたら、なぜだか不満そうな顔で見られた。なんでさ。
「前のはやらないのか」
ん〜?あ、投げた時の話かな?
とりあえず掴まれた腕を離してもらう。えい。
ボッシュさんは軽く掴んでいただけだったので、いわば教本通りに外れる。ちょっと驚いていたけどよろめきもしない。
「この前のは私が掴んで、相手の勢いと力を利用して投げたんです。掴まれた時は、今みたいに振りほどくというか」
何て言ったらいいのか。私のは合気道とはいっても、どちらかというと女子供の護身術教室だったから微妙だ。
「トモ、今のような技を教えてもらいたいんだが」
ボッシュさんが真剣な顔をしている。初めて見た。いや、2回目か。この前の騒ぎの時、私に説教をした時もこんな顔だったね。
心配性なのかな。
「あのー、私は達人というわけではなくって、前回は偶々うまくいっただけなんですよ。戦い向けな技も知りませんし」
目立つの嫌だし。
ボッシュさんはまた手を伸ばしたから、今度は何かと思っていたら、ふわふわと頭を撫でられた。
撫でられるのも二回目だ。この人に撫でられるのは気持ちいいなぁ。幸せな気分だ。私はリョータを撫でるけど、私を撫でる人はいなかった。
誉めてもらえるならお手伝いしてもいいかなぁ。面倒だけど。
「ちょっとなら、いいですよ。私がわかる程度」
そう言うと、ボッシュさんはいつものニヤリじゃない笑い方をした。
「それは助かる。午後の訓練に来てくれ。・・・お前猫みたいだな」
猫?なんですと?リョータにも言われたなぁ。
思わず眉間に力が入ると、今度はニヤリと笑って食堂の中に入っていった。
私はあんなにふにゃふにゃしてないし寝るとき丸まったりしないよ!
リョータ君
お姉ちゃん取られそう?