今から婚約破棄直後の悪役令嬢が通ります。ご注意ください。
信じられないことだけど、私は婚約破棄された直後に、前世の記憶を取り戻した。
けれど、転生してきたらしいこの世界のことは、何も知らない。特に好きな小説でもゲームの世界だったわけでもない、何の縁もゆかりもない異世界だった。
ただ、この世界での私の役どころは『悪役令嬢』ベロニカ・シュターデ。大きな権力を持つ裕福なシュターデ公爵家に生まれ、王太子エドガルド殿下の婚約者で……いいえ。元婚約者だった貴族令嬢。
記憶を取り戻したばかりの私は、豪華なシャンデリアきらめくざわざわと騒がしい夜会会場を後にして、ひと気のない庭園へと取り急ぎ移動した。
我が身に起きたことに、あまりに驚き過ぎて、とりあえず一人になって落ち着こうと考えたからだ。
私は貴族として生まれ育ったベロニカ・シュターデとしてのこれまでの記憶も持ち合わせているものの、現代の倫理観その他諸々が邪魔をして、王太子エドガルド殿下より婚約破棄された事実に苛立って仕方ない。
何故なら、エドガルド殿下がベロニカに対し婚約破棄した理由は、まったく身に覚えのない冤罪だったからだ。私が『ベロニカ』の記憶しか持たないままだったならば、長い金髪で怒髪天を突くような嘘の罪ばかり。
おそらくは、ついこの前にハンカチを落とした彼女を追いかけ出会ったという隣国の貴族令嬢ソフィア・アルテナと結婚したいがために、文句の付けようもない婚約者ベロニカが邪魔になったのだろう。
けれど、それならば筋を通して話して、婚約解消すれば良いだけの話だと思うの。
婚約解消をするなら煩雑な事務手続きだったり、不利益を受ける側であるシュターデ公爵家との摺り合わせなど、長期間掛かることが予想される。
ベロニカを『悪役』に仕立て上げて手っ取り早く排斥すれば良いと、安易に考えたのだろう。
そんなエドガルド殿下の身勝手さがあまりにも腹立たしくて、私は綺麗な星空を見てなんとか落ち着こうとしていた。
今夜エドガルド殿下より私が婚約破棄を宣言されたことは、まぎれもない事実なのだ。
王太子より婚約破棄されてしまえば、ベロニカの貴族令嬢としての名誉は地に落ちたも同然。
しかも、まったく身に覚えもなく記憶にもないベロニカのソフィアへの虐め行為は多岐に及ぶもので、そんな虐め方もあるのかと罪状を聞きながら感心してしまったほどだ。
それはさもすべて事実ですと言わんばかりに、エドガルド殿下の隣で怯えていたソフィアの怯えた表情も思い出して、とても腹立たしくなった。絶許。
……いえ。この身の潔白が証明されたとしても、私はエドガルド殿下の婚約者に返り咲きたいとは思わないのだけど……あの二人に対しての怒りが、胸がムカムカしてまったく収まらない。
ただ、このまま城にいても、どうしようもない。
私は落ち着こうと胸に手を当てて何度か深呼吸をすると、シュターデ公爵邸へ帰ろうと歩き出した。
邸に戻ったならば、お父様といきなり婚約破棄されたことについて相談する必要があるだろう。
エドガルド殿下からの婚約破棄は甘んじて受け入れたとしても、貴族令嬢としての名誉は出来るだけ取り戻さなければ。
そして、折り悪く夜会に参加していた貴族たちが、城の廊下をぞろぞろと移動していたところへ居合わせてしまった。
通常ならば城で開かれる夜会は深夜から早朝にかけて、踊り明かすのだけど、今回は王太子殿下が婚約者へ婚約破棄を宣言とするという大変な騒ぎがあった。
途中でお開きとなってしまったのかもしれない。
そんな当事者の姿を見て、さりげなく視線を外す人、あからさまに顔を背ける人、逆に興味津々の好奇の視線を向ける人、反応は様々だったけれど、先ほど婚約破棄を宣言された公爵令嬢を見て、一様に驚いているようだ。
おそらくは、会場を出てから泣いて帰ったと思われたはず……ええ。私本人だって、そのようにさっさと帰れば良かったと後悔しております……!
貴族らと同じ進行方向へ進むしかない私は、ドレスの裾を両手で持って、馬車停めへと足早に急ぐことにした。
これは、お行儀が悪いと言われてしまっても仕方ないわ。私は婚約破棄された直後なのよ。異常事態なのだから、少しは無作法は許して欲しい。
私を追い掛けるように、男性の声が聞こえた。
「……お待ちください。シュターデ公爵令嬢」
待つわけがないわ。私は声を無視して、先を急ぐために歩みを速めた。
貴族たちが面白がるような好奇心を満たすため、ここでの会話を酒の肴に使われるなんて、私はまっぴらごめんなの。
「ベロニカ様。どうか、お待ちください。僕はお話ししたいことがあります」
貴族たちが散会したのは、つい先ほどだった。声を無視して私が先を急いで進めば、人も少なくなった。
王城自体がとても広いとは言っても、馬車留めは大広間からはそう離れていない。利便性を考えて作られているからだ。
誰かに追われて華麗な城を急いで駆け抜けるなんて、まるでシンデレラのような状況だけど、追って来ているのは、王子様ではない……彼が誰であるのかも、私は興味はないわ。
「お待ちください。ベロニカ様。貴女は……冤罪では?」
流石に聞き捨てならない事を聞いて、私は足をとめて彼を振り返った。
周囲には、貴族たちはいない。そして、衛兵は姿は見えるけれど、声は聞こえないだろう距離だ。
ここでならば、少し話しても良いだろう……そう思った。
「一体、何なの? あまりにも、しつこくないかしら。私の身に何があったのか、知っているでしょう?」
私は不機嫌を全開にして、そう言い放った。
これまでに見た事もないほど、整った容姿を持つ長身の騎士だ。騎士は騎士らしい服を着て、長剣を腰に佩いているから、見ればわかるのだ。
まばゆい金色の髪に、濃い青い目……茶色い髪と茶色い目を持つエドガルド殿下よりも、この人の方がまるで、王子様らしい王子様のように見えるわ。
「……何故、あの場で申し開きをされなかったのですが?」
どうしてだろう。エドガルド殿下が読み上げた私の罪状を、彼は虚偽のものだと知っているようだ。
「冤罪……だから、なんだって言うの? 公爵令嬢の立場では、王太子殿下に逆らえないわ。それが嘘で塗り固められたものだったとしても、彼の口から出るならば、それは真実になるでしょうね」
王侯貴族の身分差は、とても残酷なものだ。王族が黒を白と言えば、白なのだ。権力者には決して逆らえない。
「ああ。失礼しました。僕は王太子より高い地位にある国王陛下に仕える、忠実な『王の騎士』です。信じていただけなくても構いませんが、僕には特別な能力があり……嘘を見抜けるんです。何かの誤解ならば、すぐに解けますよ」
私はまじまじと彼を見入った。嘘が見抜ける……どういうことなの?
そして、こちらへと向かって来る人影が見えたので、私たちは手近にあった部屋へと素早く入った。
さっきまで居た暗い廊下ではそこまでとは思わなかったけれど、明るい光源の下で見た騎士は、まるで彫像のような美しい顔立ちを持っていた。
「……貴方、名前は?」
「僕はクラウス・グリムヴァルトと申します」
……やはり、聞いたことがないわ。ベロニカは王太子の婚約者で、王族に関係する者はある程度は名前を覚えているはずだけど……。
『王の騎士』と名乗っていたけれど、陛下の近くにこんな名前の騎士が居たかしら……?
いえ。私だって王族に近い騎士の名前を、すべて覚えていられるわけではないのだから……それに、未来の王族たらんと必死で頑張ったり、そんな努力などは何の意味も成さなくなるのだわ。
……これまでだって、ずっとそうだった。
「貴方は私が冤罪を申し開きしなかった理由を、やけに聞きたがっていたわね。教えてあげるわ……他の女性と結婚したいのであれば、周囲を納得させれば良いだけよ。それを、冤罪で婚約破棄を仕掛けるなんて……あんな人と結婚したくないわ。父上は違う考えかもしれないけれど……これは、私本人の意見よ」
シュターデ公爵である父は、私が王妃になれなかった事をきっと怒るだろう。
けれど、私が婚約破棄を申し出たわけではないのだし、抗議するのならばエドガルド殿下にして欲しいわ……王族には逆らえないけれど。
「左様ですが……それでは、僕と結婚しませんか?」
私はその時、クラウスが何を言ったのか、すぐに理解出来なかった。
貴族令嬢が男性側から婚約破棄されるということは、貴族社会ではかなり悪い印象が付いてしまうものだ。
理由などが明かされずとも、どうしても女性側が悪いところがあったのだろうという判断になりやすい。
しかも、私の場合は理由はつらつらと並べ立てられて、とんでもない性格の悪役令嬢となっている。誰しもそんな女性とは、結婚したくないものだと思うわ。
ええ。もし、私が男性ならばベロニカの容姿が美しくても、そんな女性は結婚相手に選ばないでしょうね。
「なんですって……? 私を揶揄っているの? ……お断りするわ。ついさっき、男性に対して絶望したところだもの。何があったかを知っているでしょう」
私は眉を寄せて、そう言った。
いきなり結婚を申し込んだクラウスが何をしたいのかわからないけれど、婚約破棄されたばかりの貴族令嬢にこんなことをする男性は珍しいでしょうね。
しかも……私たち二人は、初対面よ。驚くしかないわ。
「それはいけませんね……ですが、無理もないことと思います。僕も気が急いてしまって、ベロニカ様へお気持ちをお伝えすることを急ぎ過ぎました。どうかお許しください」
クラウスは騎士らしく胸に手を当てて、私へと微笑んだ。
私はそんな彼の表情を見て、ますます疑わしくなった。まるでこういう方向へ会話が進むように誘導したように思えたもの。
……彼は何者なのかしら。もしかして、エドガルド殿下の手の者かもしれない。
「クラウス。私への用は、それだけかしら……失礼するわ。とにかく、今は邸へと帰りたいの。そういった気持ちは、今夜何があったかを知っている貴方なら、きっとわかってくださると思うけど」
ここまで言ったなら、引き留められはしないだろう。私の言葉に軽く頷き、クラウスは微笑んだ。
「それでは、後日にもう一度僕のお話を聞いていただく代わりに、僕に何かできることはありますか」
私はここで、彼には絶対に不可能なことを言えば良いのだわと考えた。
王太子に婚約破棄されたばかりの私にわざわざ話し掛けて来て、ましてや結婚したいだなんて、怪しい人物過ぎるわ。出来ればこの先、あまり関わりたいとは思えない。
クラウスが珍しいくらいの美男だとしても、それはより一層、怪しさを増すだけの材料だもの。
「……あの偉そうな王太子を懲らしめてくれるならば、クラウスの話をまた聞いても構わないわ」
私の無茶な注文を聞いたクラウスは、黙ったままで胸に手を当てて頭を下げた。
もし、彼がエドモンドやソフィアの命を受けて私を騙すつもりで来ているのなら、これは絶対に実行出来ない。
……いいえ。王太子を懲らしめるなんて、国王陛下や王妃陛下くらいしか無理なのではないかしら。エドガルドや彼の周囲が私がとんでもない悪女だったと証言すれば、それを誰が庇ってくれるだろうか。
それ以上何も言わなかったクラウスは我が家の馬車まで、紳士らしく送ってくれた。正直に言えば助かった。こんな時に一人で貴族の集団に突っ込むなんて、肉食獣の群れに入るくらいに、なかなかに勇気のいる行動だったから。
窓から見送るクラウスを見ながら、彼はあれを実行することは無理だろうと思った。
もし、クラウスが『王の騎士』の一人だったとしても、王太子に対して、何かが出来るわけでもないだろう。
クラウスが悪いわけではない。貴族社会とは身分差とは、得てしえてそういうものなのだ。私は肩を竦めてまだ動かない彼から視線を外した。
◇◆◇
「おい! ベロニカは、邸の中にいるんだろう! 会わせてくれ。一刻も早く」
「殿下……とにかく、お帰りください。お嬢様は、話したくないと……」
「聞こえるのか……ベロニカ! お願いだから、俺を許すと言ってくれ!」
高い悲鳴のような耳障りな叫びが聞こえて、ため息をついた私は窓のカーテンを閉めた。より大きく騒ぐ声が聞こえ、やがて遠ざかったので、門の外へと出されたのだろう。
私へ虚偽の罪で婚約破棄したことを謝罪に来た王太子エドガルド殿下を、父であるシュターデ公爵は、『お前の好きにしても良い』と見て見ぬ振りだ。国王陛下の命を受けたのだろう。
王族だからと気にすることもない。私は当分、許す気はないと伝えた。
邸に仕える使用人たちは、私の意に従って、王太子殿下を追い出したようだ。
「……いかがですが。ベロニカ様お気に召しましたか。約束通り、王太子をこらしめて差し上げましたが」
応接室のソファに長い足を組んで、優雅にお茶を飲む騎士クラウス・グリムヴァルト。
信じられないけれど、私からの注文『王太子を懲らしめること』を彼は見事に実行してのけた。
私もそんなクラウスとの約束を守り、話の続きをしているというわけ……これで、エドガルド殿下側であるという疑念は完全に晴れたわけだから。
「本当に驚いたわ。私の言葉をまさか、実行してくれるなんて」
クラウスから聞くところによると虚偽の罪で婚約者へ婚約破棄を宣言し私の名誉を著しく傷つけたと、国王陛下は王太子エドガルド殿下に激怒したらしい。
私が『許した』と言うまでは、城にも帰れないしソフィア・アルテナにも会えないらしい。というかソフィア・アルテナは、政治的な情報を流すスパイの疑いがあるとして隣国へ強制送還された。
確かに、ソフィアは女性たちが集まるお茶会でも、やけに政治的な話題を出していたわね……まるで、そういう情報を集めようとしているように、私にも思えたのだ。
二人には大変申し訳ないけれど、良い気味だわ。どうか心の底から反省して欲しい。
「ええ。それだけ、本気なんですよ。ベロニカ嬢。どうか、僕と結婚してください」
気が付けば、私の傍にいて跪いて愛を乞う騎士クラウス。『王の騎士』だとしても、王太子をあんな風な目に遭わせるなんて……彼は一体、何者なのかしら。
「ねえ……どうして、私が良いの? 理解が出来ないわ。私は夜会の最中に婚約破棄をされて、名誉は地に落ちたのよ。国王陛下は名誉回復を約束してくれたけれど、過去されたことは消えない。私と結婚して、貴方には得なことなんて……」
いわば、私は地に落とされた硝子の器なのだ。一度、大きく割れているけれど上手く補修してそれなりには見える。
けれど、割れた過去は消えずに、元通りに戻ることは決してない。
「ああ……お忘れかもしれませんが、王太子と婚約できるという事は、ベロニカ様にはそれだけの魅力があるということですよ。貴族令嬢としても女性としても、それを無碍に扱った馬鹿は、あのように懲らしめました……他に何か必要ですか?」
立ち上がったクラウスは近づいたので、私は一歩後ずさった。
「もう一度聞きます。僕と結婚してくれませんか」
「……いいえ。私は婚約破棄されたばかり。貴方にはもっと良い方が……」
「もしかしたら、お忘れかも知れないのですが、僕は嘘をついたことがわかるんですよ。ベロニカ様。本当は僕と結婚したいんですね?」
そう言って微笑んだクラウスは、一歩近づいた。私はその場に留まった。
嘘がわかる……そんなことが、本当に可能なの?
この世界には魔法の概念はないけれど、知られていないだけで、特殊な能力を持っている人はどこかにいるかもしれない……それは、前世の世界でも同じことだけど。
もし、クラウスに私が嘘をついたことがわかるのなら、本当は彼と一緒になりたいと思っていることを誤魔化すことなんて……無理だと気がついたからだ。
「僕は嘘がわかるんですよ。本当は結婚したいですよね?」
ここで『いいえ』と言ったり『もう少し時間を置きたい』と言っても、それが嘘ならば彼にはわかってしまうのよね。
もし……私が目の前のクラウスと結婚したいと、そういう気持ちがあるのなら。
◇◆◇
「……ベロニカは僕との婚約を、了承してくださいました」
「そうか。血筋家柄教養など、すべて必要とする王妃は、彼女でなければいけない……エドモンドは、本当に馬鹿なことをした。廃太子を急いだ方が良いだろう……」
僕の父たる国王陛下は、頭を押さえてそう言った。実際頭が痛いのだろう。
「あれだけの醜態を演じれば、反対する者もいないでしょう」
エドモンドに期待し過ぎたというならば、僕だって同じことだった。
まさか、あんなにもあからさまで簡単な甘い罠に嵌まってしまうなんて。
僕は王太子エドモンドのすぐ下の腹違いの弟で『遠い国へ留学していることになっている』第二王子クラウスだ。
シュターデ公爵令嬢ベロニカには、一度も会ったこともないので、僕の存在は彼女は知らないだろう。僕がただ一方的に彼女を見て知るだけだ。
貴族であっても第二王子である僕の存在は、あまり知らされてはいない。産まれた時にあまりに病弱だったので、すぐに空気の良い母の祖国へと移動した。
あのまま儚くなるだろうと、皆が思っていたそうだ。気候や水が合っていたらしく奇跡的に健康になった僕は、十六の年齢まで遠い国で過ごした。
不思議な伝統がある国で、僕が嘘を見抜ける特殊能力を身に付けられたのも、幼い頃をあの場所で過ごしたからだった。
まさか、そんな病弱な第二王子が極秘に戻り『王の騎士』として宮廷に仕えているとは、殆どの貴族が知らない。
「そもそも、ベロニカは僕の婚約者であるはずでした。エドガルドは妾腹で、僕は正妃の息子なのですから、継承権が元に戻っただけです」
「……そうだな。クラウス、あれだけ王位を継ぎたくないと言っていたのに、どういう心変わりだ?」
確かに、このまま『王の騎士』の一人として、生きていった方が楽なのだろうと思っていた。
国王は常に国民の命という重圧を背負い、何かを生かせば何かを切り捨てるような政治を行う必要がある。
王位などは欲しいと思ったこともなく、半分血の繋がった兄エドガルドがもう少しまともな男であれば、すべて任せて楽に生きたかったのが本音なのだ。
だが、エドガルドが王となる未来はもうない。
ベロニカを王妃とするならば、エドガルドは早々に臣籍降下させることになるだろうし、僕と彼女が中心となる貴族社会の中で、どれほど肩身の狭い思いをすることになるのだろうか。
なにもかも、すべて自業自得なのだが。
「そうですね。公爵令嬢ベロニカと結婚するために一騎士ではいけないと言うのなら、そうするだけです……屈託のない笑顔が曇り始めて、もう二年も経ちましたから」
エドガルドは王太子の婚約者であろうと必死に努力しているベロニカを、つまらない女だとあざ笑うような酷い発言も多かった。
国王を支える王妃が楽しみばかりを追うわけにもいかないという簡単な道理すら理解出来ない。
「お前が王位を継ぐ気になってくれたのなら、儂はもう何も言わぬ……クラウスが立太子した時に、彼女は驚くだろうな」
「ええ。父上。そうなれば、すべて元通りですからね。王太子に婚約破棄を宣言されたところで……ベロニカは王太子の婚約者のままです。彼女は何も失っていません」
出来の悪い長男を諦めざるをえず難しい表情を浮かべた父へ、クラウスは肩を竦めると微笑んだ。
Fin
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
もし良かったら、評価を頂けましたら嬉しいです。
それでは、また別の作品でもお会いできたら幸いです。
待鳥園子




