終<子>を裁くモノ:02 兎河うさぎ
そもそもの発端は、3日前に遡る。
「なんですか?コレ?」
差し出された古びた本を見て言った。
「知り合いが持ってたのを借りたのさ」
そう言うと、彼女はキセルをくわえ、煙を吐いた。
赤い髪に赤い瞳、赤いチャイナドレスの上に赤いコートを着ている。赤一色で全身を包んでいる。
妖艶な雰囲気を醸し出しており、近寄りづらい印象をもつだろうが、姉のように気軽に喋れるので変に緊張はしない。人見知りのオレでも話せる数少ない人である。
ちなみに彼女が吸っているのはタバコではなく、レロレロキャンディーとのこと。すごーく、レロレロしてるから煙が出るらしい。
「また、WSO(世界維持機関)からくすねてきたんですね。怒られますよ」
俺はそう注意するが、アタイさんは話を続ける。
「高森ミサキの終わり<死>のマガン能力を知れる資料だ。ついでに読んどくといい」
「今時、紙の本ですか?」
「終わりの一族は秘密主義でね。しかも、その一族はとうの昔に死に絶えてて、生き残りは、ミサキとその母だけ。保管されてた情報源もこの本しか残ってないわけさ」
時代から取り残された表紙の手触りを味わいつつ、その本を受け取った。
「それで?はじまりとおわりは循環していて、表裏一体っていう話が途中だったと思うんですけど」
「あーそうだった」
アタイさんは思い出したのか、キセルの煙を吐き出すと、話を戻した。
「話を戻すと、おわりは、はじまりを脅威と感じる。その逆も然り、と言いたいところだが、それはあっているようであってはいない」
「どういうことです?」
「万物のお姫様であるメイは例外ということさ。円環のしくみ。循環しているはじまりではない」
「それってーー」
「はじまりとおわりの循環にメイは含まれないということさ」
「俺の場合、その円環に含まれる、と」
「同じといえど、君のはじまりは彼女の複製物でしかないからね」
「話は変わるが、生者と死者、単純にどちらが多く自分の意志で現実世界に干渉し、結果としてモノを生み出すことができる?」
恐る恐るだが、オレは答えた。
「生者」
「正解。簡単すぎたかな?」
アタイさんがキセルの煙を吹かせて言う。
「現実世界での影響が強いのは生きてるモノだと?」
「その認識で構わない。はじまりとおわりもこれに該当する。生と死を表す言葉でもある。とりあえず、はじまりが現実世界に与える影響が大きく、おわりの影響は小さいという認識で構わない」
キセルを吹かせつつ、微笑を浮かべる。
「循環があってもなかろうとメイには関係ない。『循環』の外側にいる原初のはじまり、文字通りすべての理<システム>のはじまりがメイというわけさ。原初のはじまりを閉じれるのも原初のはじまり。メイは循環の外側の原初のおわりともいえる。そのことは、メイと君が一番わかってるだろうけどね」
何かとんでもなく、スケールの大きい話をしていることは分かった。それだけの存在がそばにいる。メイ自身や俺の存在が消えかけてるのにも関係している。
「そこで、頼みたいのが今回の高森ミサキの依頼だよ」
はい?と俺は反応した。てっきりアタイさんの手伝いで呼ばれたと思ったのだ。俺への依頼となると嫌な予感がする。
「言ったろ?メイはもちろん、君自身にも関係がないともいえないだろ?」
「高森ミサキは終わりの魔眼を持つ人間だ。この世でただ1人のね。希少価値としては高いが、おわりという能力なら、力という面ではないに等しい。はじまりそのもののメイと、その複製をもつ君の場合は例外だがね」
はじまりを持つのがメイだというなら、言葉の意味的に対局に位置するのが、おわりを持つ高森ミサキだ。厄介なことに巻き込まれる可能性が高い。
今回の依頼、断りたいのが本音だ。
「アタイさん、俺は・・・」
「おわりはとっくに滅んでいたと思っていたけど、まだ存在していたとはね。メイを狙う連中、特にWSOからしたら、メイ同様、脅威でしかないだろうね」
そういうアタイさんに疑問が浮かぶ。
「今の話から、高森ミサキのおわりって、脅威ってほどでもないように思えるんですけど」
「そうじゃない。メイと違って、脅威というよりも都合が悪いのさ」
「どういうことです?」
「メイが理<システム>の外側にいるイレギュラーな存在なら、ミサキは、しくみ内部に終わりをもたらす可能性のある存在だからさ」
アタイさんは煙をふかしつつ話を続ける。
「WSOは世界のしくみの維持と発展を目的としている。いわば両立思考の考えにもとづいたシステム」
「彼らからしたら、おわりは、システムの内部にいる以上、メイに比べれば対処は容易さ。ただ、今の高森ミサキは別だ」
眉をひそめて言う。
「通常の終わりのマガンなら、別に問題ない。罪と罰に関係したものでなければ力を行使できない。終わりのマガンも世界の仕組みの一部だ。メイの『起源』じゃあるまいし、理のルールからは抗えない。WSOもそうであるようにね」
「今は違うのか?」
「ああ。今のミサキが所有しているマガンは、原因は不明だが本人でも制御不能だ。しかも、罪と罰のルールを無視してる。世界の仕組みにあたりかまわず干渉し、おわりをふりまきつつある始末だ。このままだと、理のシステムに悪影響をもたらすわけだ。WSOにとって、人類の発展の邪魔ってわけさ」
「WSOは、とっくに動いているだろうな」
「そうだろうね」と、笑みを浮かべてアタイさんがこう続けた。
「今の高森ミサキは、世界の理<システム>を揺るがすバグそのもの。人類の反逆者。WSOの抹消対象ってわけ」
また、きな臭い話に関わることになりそうだな。
「ということで、君には、高森ミサキの警護と能力を消す依頼を引き受けてもらうよ」
アタイさんは笑顔でそう言った。
「警護はわかるけど、能力を消すって何?」
俺の疑問を彼女ははぐらかす。
「まずは、メイと高森ミサキに会ってくれ。詳しい話は彼女から聴くといいだろう。アタイもなるべく早く君たちと合流するよ。時間もずらせないし、頼む!君たちのことは、アタイから知らせておくから」
アタイさんは、俺の前で両手を合わせて申し訳なさそうにいったが、わざとらしかった。微妙に口元がニヤついてる。
「夜中に呼び出された挙句、そんな急な話、俺が特にメイが、『はい、やります!』っていうと思います?」
「もちろん、報酬は出すよ」
その言葉にハッと耳が反応する。
そして、アタイさんが手元のデバイスを操作し、報酬を表示する。俺は提示された報酬を見て答えた。1つは金銭、もう1つは・・・伏せておく。
「あっえっとーまあ……はい、わかっいや、わかりました」
「しくよろ〜」
アタイさんはキセルを吹かすと、満面の笑みで言った。
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