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理の拡張 / 親殺しのパラドックスの回  作者: ぶう
第1節 迷創断裂 
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迷創断裂 : 02 ミサキ


「ミサキはんはどうなの?」


一瞬、言葉に詰まったが、迷いながらも答えを口にした。


「創作活動には、人もAIもどちらも大切だと思います。これもいい機会なので、両立してやっていこうかと」


私は唇を噛む。


ありきたりな考え。ありきたりな答え。ありきたりな反応。


彼女は目を見開き、少し驚いたような顔をしたが、すぐに感心したように優しく微笑んだ。


「ミサキはんはそんなんや。意外やな。一番考え込んでいたのに」


「涼さんは同人…いえ、漫画家として続けていくんですか?」


私の言葉に、涼さんは少し困った表情で答えた。



「うちはーーーやめるよ」

そう言って、苦笑いを浮かべる。



「時間もかけて自分の好きなもんをかけるのはええけど、なんや、AIに頼んで出力して、ものの数分でうちらよりもええもん作る連中と肩並べて、作るなんて耐えられんからな。そんな連中に限って偉そうやし、うちらみたいなのを馬鹿にしてくる。みんながみんな、そんなんちゃうのはわかってるけどな。頼んでもおらんのに、ある日突然、なんでもできる機械渡されて、これからはこいつを使って、ものづくりなりなんなりせぇって言われたら、腹立つやろ。こんなやり方、うちが信じた漫画や小説のあり方やないって。そう思えば思うほど、作れんくなるし、このまま続けても、心も濁っていくだけだし」



このまま順調に進めば、AIは人類に恩寵をもたらすのだろう。

頭のいい人達が目指してるのは、最大多数の最大幸福。

だが、全人類の幸福ではない。



涼さんはその中にカウントされない思考をもった前時代の異物なのだろう。

そして私やツバキも……。



「でも、今思えば、AIクリエイターって言われる連中が正しかったんかもしれん。実際、AIの普及で昔よりも仕事環境もよくなったし、制作時間を気にせず、休みも取れる。収入も倍になるわ、両立して、別の仕事しながら創作活動できる子も増えたしな」


言ってることはポジティブな内容なのに、涼さんはどこか哀しげな顔をしていた。


「うちが間違っとったんかな?」


 その時、私はロクな返事ができなかったことを覚えている。便利になるのはいいし、他者が幸せになるのはいい。それで、今まで作品づくりができなかった人間ができるようになるのは、知ったことじゃないし、どうでもいい。


ただ、私たちは、それと引き換えに便利さで得られるものなんか、少なくとも求めていなかった。何か言葉では、言い表せない大切なものを失ってしまったように感じた。



時代とか、人類の発展という正しさとか、合理的とか、誰もが、言い返すことを躊躇われる耳心地のいい言葉で、誰かの生きがいを壊すことを正当化しているだけではないのか。


他者から承認されないと、生きた心地がしない人たちの言い訳のように感じた。だが、こんなことを考えても、不毛だし、頭のいい人たちのマーケティングと遊びの材料になるだけだろうと思い、ため息をついた。



『ここで、速報です』



喫茶店内に設置されたモニターから、ニュースが流れる。




『ーー6月中旬を予定されてーー年前ーー月に発生しーー事件のー追悼式典が、急遽、ーー月ーーーにーーが決まーー』



古いモニターなのか途切れ途切れに音が切れる。

それに気づいた店員がモニターを叩く。



原始的でガサツなやり方だが、モニターは正常に戻った。



『ーーー追悼式典は、6月に発表される最新AI『エピテリシー』の完成記念式典と同日程となることを避けるため、当初予定されていた日付から前倒しされることになりました。式典には、日本政府も協賛し、情報省など関係各省庁も参加する見通しで、海外の企業や研究者だけでなく、世界中の一般層からも熱い視線が注がれています』



画面が切り替わると、日本政府とAI企業が連携して進めるプロジェクトロゴと、スーツ姿のお偉いさんたちが握手を交わしている。



遺族の感情を軽視しているとの批判も、ニュースキャスターの『双方に配慮した不可欠な調整』という言葉に打ち消されていく。



『なお、政府は、少子高齢化と国際競争の激化を背景に、2032年からAI技術とAIを活用したコンテンツ産業を国家生存戦略の柱として推進してきました。エピテリシープロジェクトには、アメリカの研究機関も連携しており、今回の日程調整にはその配慮もあったと-ー』



「ミ・サ・キ!ミサキってば!」


ニュースを見てたことにツバキはご立腹のようだった。

むくれた顔でこっちをみている。


「あっごめん」


私はツバキに謝る。



注文したトーストを一欠けらちぎって、紅茶に浸して、口に運んだ。

ハーブの香りが鼻と口全体を包む。

AIが台頭してない時代にいたら、今よりも創作を楽しめていたのだろうか?



ズキンッーー!



「ウソッ…また」



割れるような痛みが頭に走った。


正面に座っているツバキの顔がムンクの叫びのようにくにゃくにゃと曲がっている。


マズい!


私は慌てて手に触れていたメモ帳とデバイスを手放すとともに視界から外そうとしたが、すでに遅かった。



「ミサキ!?」



すると、手元にメモ帳の紙がこげ茶色に変色していく。原型が残らなくなるくらい粉々になった。そして、デバイスで描いていたアイデア絵やストーリーが消えていくとともに、画面にひびが入り、黒茶色にさび付く。その部分だけ数百年もの年月が過ぎたかのように。私は舌打ちをした。



能力の抑えが効かなくなってる!ーー



『早くアタシを使っーIー消してーーmーedーi』

幻聴だろうか?耳元で声がした。



『イザナミーーメイをーー』



誰なの?あなたは?




「大丈夫?きつかったらいって。なんなら、いますぐ、ミサキのお母さんに連絡してーー」



「大丈夫だから」と何でもないそぶりをした。



『それだけはやめて』と言いたかった。



私は両手で両肩を優しく撫でて、深呼吸して心を落ち着かせる。

ツバキはホッとした顔になった。




「ツバキや周りの人達に迷惑をかけちゃう」



「別に迷惑だなんて思ってないよ。本人でもどうにもならなくなることってあるじゃん。責めてもどうにもならないってね。」



「ありがとう。ツバキ」

私はツバキに礼を言うと、それに関係した悩みを口にした。



「今のが関係してるかわからないけど…最近、変な夢を見るの」



そこでハッと息を呑み、周囲を見渡した。不気味な気配が肌を撫でるように這っていた。それは、ツバキの背後の喫茶店の入り口付近からだった。誰かにみられているような気がする。



「どうしたの?」



「ううん。なんでもない」

気を取り直して話を続ける。



「私が刀を持った綺麗な人に斬り殺される夢」



そう言うと、ツバキは心配そうに尋ねた。



「ただの夢とかじゃないの?」


「違うと思う」



私はきっぱりと言った。



AIに続いて、マガンの暴走。大きな問題が積み重なって頭が痛い。



「予知夢ってヤツ?」


「前にも言ったけど、予知夢とは違うの。見たくない何かの『終わり』のイメージが見えちゃうだけ」


それは、今まで形は違えど実現することが多かった。



「それが、日に日に多くなってる気がするの」


今回、初めて自分が死ぬ光景をビジョンで見た。


私を襲った人は、女とも男とも言えない人形のような顔立ちで、同じ人間とは思えないほど綺麗だった。殺される恐怖よりも、その人に会ってみたいという好奇心の方が勝っている。



「その綺麗な人って、女?それとも男?」



「男か女かは分からないけど、ただーー」



ただ、悪い人には見えなかった。だけど、いい人ともいえない。



「その人の存在そのものが何か……こう、空虚で儚いというかーー」

まるで、死人のようにも見えた。



「ズバリ!ミサキの予知夢にでてきたってことは、つまり、現実にいるってことね!」


ツバキの目にメラメラと炎が灯っていた。



「話のネタになりそう!こう、ビビッとくる感じ?わかる?」



わからん。私は呆れつつも少し笑った。



「ミサキも気になってるんでしょ?その人のこと」



「・・・まあ、一応」



頬が紅潮した。なぜだろう?

ツバキに気取られるとめんどい。コーヒを飲んで私の顔が見えないように取り繕ったが、ツバキはニヤニヤしている。ごまかしても無駄のようだった。




「ミサキが照れるくらいだから、すごい美人ってことだよねえ〜うわああ!!妄想が膨らむぅー早く会ってみたい!」




「会えたとしても、私、殺されるかもしれないんだけど」


「案外、近いうち会えたりして」


「それ、死亡フラグだから」


私とツバキは思わず笑ってしまった。



自分の命が危険に晒されるかもしれないのに。

私もツバキも悪い意味で慣れてしまったのだろう。

すると、急にツバキのデバイスが軽く振動する。



デバイスを開くと、

「ごめん、ミサキ。もう時間みたいだから、アタシ、帰らせてもらうね」

申し訳なさそうに言った。


「悪いし、ミサキの分もアタシが払っておくわ」


彼女は机の上にあるデバイスで会計処理を済ませようとする。


「えっ?いや、いいよ」


私が慌てて言うと、

「日頃のお礼だから」

と笑って支払いを終えた。


「それじゃ、何かあったら連絡して。飛んで駆けつけるから!」


「じゃあね!」



荷物をまとめると、彼女はそそくさと喫茶店を後にした。


「私も帰ろうかな」と、独り言を漏らす。


だが、そうもいかない。


今日はここにツバキと談笑しにきたわけではないのだ。



「いらっしゃいませー」



店員の声が聞こえた。


なんとなく受付の方に視線を向けると、一人……いや、二人いる。

一人と視線があうと、こちらへ歩いてきた。

その人物には見覚えがあった。


目の前の光景に、思わず自分を疑った。




「みつけた」




私の前に立ったその人物はそう言った。




「あなたは…」



思わず息を呑む。



「ん?」




白のショートヘアに、透き通るような白い肌。その瞳は水のように澄み、鮮明な光を宿している。生きた人間というより、精巧につくられた人形のようだ。この世界に舞い降りた天女の前で、私はいつの間にか息を止めてしまっていた。




「あっ…まずは自己紹介からだったな」




めんどくさそうに頭をかきながら、和服美人はこちらを見て言った。





「イザナミメイ。よろしく」





夢で見た私を殺そうとする人だった。


2章まで毎度22時更新なんでよろしくお願いします

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