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理の拡張 / 親殺しのパラドックスの回  作者: ぶう
第1節 迷創断裂 
3/5

迷創断裂 : 01 ミサキ

毎度22時更新となります。


2章終わりまで毎日更新していくのでよろしくです


誰かが私を殺している。


殺し続けている。


AIに苦悩しているのは私ぐらいだろうか?


クリエイターなら、いや、この時代に生きる誰もが頭で抱える悩みといっていい。

自分の手書きにこだわる者なら特にだ。

損得感情や科学的視点をふまえて、効率と生産性を重視する人間が多い。


AIに依存している人間は特にだ。

作品作りの過程や道具などどうでもいいといった感じだ。

自分の頭の中で考えたテーマやメッセージにこだわりを持つ作家も3年前に比べて随分と減ったように感じた。


自分の手で表現することを放棄した機械人間たちには反吐が出る。AIが呈示する答えを求めて何が楽しいのだろうか。


「ミサキ、顔色悪いよ」


「うん、大丈夫。平気」


友人の入江ツバキは心配そうにこちらを見ていた。

震える手を押さえ、机の下に引っ込ませる。

そして、片手で誤魔化すように、机の上に置かれたマグカップのカフェラテを口元に運ぶ。富山市内の某喫茶店。漫画と小説の執筆作業の息抜きとして、たわいのない会話を楽しんでいた。


「AIねぇ」

ツバキはため息をついた。


「これだよね」

私はニュース記事を共有するため、空間上に表示する。



『手描き部門とAI部門との統合!AIと人の区別がついに消滅か!』


『超知能!最新AIエピテリシー(ASI)ついに正式導入!ーー』



どれもAIニュースで埋め尽くされている。


先日、1年に2度、東京で開催されるイベントで手描きとAI部門の統合が発表された。大騒ぎする話でもないが、ネットではかなり荒れていた。


誰かの書き込みを発端にAI派と反AI派、中立側で議論が展開されてた。



『AIだと人らしさ、魂や思想が感じられないから嫌い』

『売れてるのはAI作品だぜ。現実見ろよボケ!』

『手書き=人間は時代遅れなんだよ!』

『人とAIどちらも大切!面白ければどちらでもいいと思う』

『AIはあくまでツールだって・・・人間の感性がなきゃ何も生まれない煽りすぎ』

『でたwツール中立信者~すべてわかってますよ感だすのやめろw』



これ以上みるのは毒でしかない。


「目が腐りそう」

「同感」


同じ穴の狢だろう。ダニ同士醜い争いをしている。



画面をスクロールさせると、他にもAI作家の最新作の映像が公開されている。

『AI禁止の世界で成り上がる!!これはあなたの物語――』 というキャッチコピーの下に、ベストセラーランキング1位を示す数字が輝いている。



ほとんどがAI作品で埋め尽くされている。それ以前に手書きとAIの区別もつかない。才能や技術がなくても、漫画や小説、アニメ、映画をAIで作れる時代になった。今では、手書きにこだわるのは、私たちみたいなモノ好きか自分の筋を通したい頑固者くらいだ。



静かに記事を閉じる。



『便利さ』と『効率』を求めれば、誰もが幸せになると、本気で思っている。

全員がそう思っているわけではない。

迷惑な話だ。ボタン一つで、なんでもできる世界に何一つ魅力を感じない。

私には地獄そのものだ。



データやエビデンス、数字を理由に『正しさ』をおしつけないでいただきたい。

だが、もし時代が求めているのなら、何も言えない。

能力がなくても、チャンスがもらえる世界。

AIを使うことは普通であり、自由であり、幸福である。



私は、自分の手で作品を形にすることに生きがいを感じる。私の幸福を奪うものはいらない。奪われるくらいなら、老害として生きた方がよっぽどマシだ。

AIを作った人間たちには嫌悪感を抱く。

彼らは好奇心を優先させて、それにより、犠牲になるモノのことなど考えもしない。



一掃されてしまえばいい。

心の中で思うには自由だ。唯一、保証されたユートピア。

だが、それも、侵食されつつある。いや……既に形は違えど、そうなってはいる。


「ミサキ、これみて!」


ツバキは話題を変えて、ノートをみせてきた。

そこに描かれていたのは、裸姿の少女であった。


首元に接続端子が埋め込まれ、そこから網目状に無数のケーブル線が延びている。

一つ一つの線が絡まりあい、螺旋のようにからまっている。


それは、人間のDNAの構造を思わせた。少女は、こちらに手をかざして悲壮な表情をしていた。その上から『AIと人』というキャッチコピーが乱雑に書かれている。

ひと目みた瞬間から、その少女は無言で私に何かを訴えかけてきているようで、他人のようには見えなかった。


「新しい作品のアイデア?」


メモ帳にツバキのアイデアスケッチをみて、思いついたことを書き込む。


「テーマは人間とAIによる創作の共存。今の私たちがモデルってのもありかも」


ツバキの絵を見て、よりそのアイデアを深堀したテーマを提案した。


「そう!人の創作の終わりみたいな話!こういうネガティブな部分から話を生み出せるのが人であるクリエイターの専売特許よ!」


ツバキはグッドサインをみせるが、すぐに浮かない表情に戻った。



「・・・」


「急にどうしたの?」



すると、デバイスで今書いた作品と似た絵をみせる。


「これが、私が書いたもの、でっ、こっちがその5分後にアップされたもの」


ツバキと似た絵のタッチであり、今描いた作品とその絵のテーマに似た内容の小説、漫画、アニメといった形式で返信ホームに表示されていた。


「悪気があるってわけじゃないんだよね・・・みんな」


私はツバキのデバイスをみて感じたことだった。


流行以外のコンテンツをネットに投稿しても、無反応なのが普通だ。

反応があっても、AIのBOTだったっていうパターンがざらだ。ツバキの場合は、人間のファンが大勢いる。無反応よりもまだ救いはある。


コメント欄では、ユーザー同士が言い争いというより、フレンドリーに会話したり、応援コメントと悪口もあるが、嘆くような内容でもない。だけど、私やおそらくツバキにとって、嫌な気はしないが、胸の奥に何かどす黒い感情が煙のように沸いてでた。


「アタシが投稿したものより、AIが描いたもののほうが反応がいい」

悲しげに言った。


 人類は、新しい時代に突入している。だが、私は古い時代に生きている。

そして、淘汰の波が押し寄せてきた。自分の手で作るという人間は不要。人類にとって、経済的に貢献できるものにしか価値はない。



便利で資本を生むもの、他者貢献にしか価値はないのか?

新しいものにしか価値はないのか?

AIが生み出したものにしか価値はないのか?

価値に縛られているのは私なのでは?



何もいえないし、何もできないし、したいのにできない。今日に至るまで、世界中でいろんな種類の空気が人を支配してきたことは、歴史から読み取れる。人が守りたいのは、いつの時代も法律や平和、家族、友人、人類の発展といった耳心地のいい言葉ではない。



結局、この世界でたった一つ守りたいものとは、その時代の当人たちにとっての都合なのだ。AIを使うことは正しい。しかし、それは、作品を世に生み出したい、表現したい、伝えたい、表現手段にこだわる私にとって、正しさという名の呪いだ。



ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ。



現在、人類は『真理』という名の幸せの絶頂である。

人類の発展、お金のために働かなくていい世界、理想のユートピアに近づきつつある。



が、その先はどうなるのだ?



「ミサキは、どう思う?」



科学的に考える者たち(イノベータとアリーアダプター)、自分で思考しない豚ども(ラガード)、どっちも最悪だ。私は、該当する者たちのゴミの分別を始めた。そして、そのゴミを頭の外のゴミ箱に投げ捨てた。



「ミサキ、聞いてる?AIと手描きクリエイター部門の統合の話」



私は深呼吸し、静かに言った。



「ゴミ箱」

「何が?」



私は以前、作品出展で一緒になったとある先輩のことを思い出した。



毎度22時更新となります。

2章終わりまで毎日更新していくのでよろしくです

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