#春樹サイド #ep3
放課後。
校舎の階段を下りながら、春樹はスマホをポケットにしまう。
さっきの試練が終わったあとから、なんだか落ち着かない。
普段どおりのつもりだったのに、蒼依の照れた顔を思い出すたび、なんとなく笑ってしまう。
別に深い意味なんてない。……はずだった。
「お前さ、最近桜庭と仲良いよな」
昇降口に差し掛かったとき、不意に声をかけられる。
振り向くと、クラスメイトの藤崎友也がにやにやしながらこっちを見ていた。
軽音部に所属している藤崎とは、そこそこ仲が良い。
……が、こういう時にはあまり出会いたくなかったというか。
「昔から知ってるしな。ただの幼なじみだから」
「前は普通に仲良い友達って感じだったけど、最近のお前らって、雰囲気が違うっていうか」
「普通にイチャついてるよな」
「そ、そんなわけないだろ!」
思わず声が上ずる。
そんな俺の反応が面白かったのか、藤崎はさらに質問を続けてきた。
「いやいや、桜庭があんな風に誰かと仲良く絡んでるの、見たことねえし」
「いや、それはただ……」
「ただ?」
言葉に詰まる。
小さい頃は、もっと仲が良かった。
けれど、高校に入ってからは、会えば喧嘩のようなやり取りを繰り返している。
アプリを使ってからというもの、毎日のように、顔を合わせて、言い合って、からかって、照れて……。
(……いや、何考えてんだ、俺)
「お前さ、まさか気づいてないのか?」
「何がだよ」
「桜庭って、お前のこと好きだろ」
「……は?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
でも、頭の中にさっきの試練の光景がフラッシュバックする。
「すごく可愛いところ」
「——っ!? な、何言ってんのよ!」
あの時、蒼依の真っ赤になった顔。
視線をそらした仕草。
照れながらも、どこか嬉しそうな様子。
(まさか、な……)
「お前が、桜庭のことを好きなのは知ってるけど」
藤崎が、何かを知っているかのような口調でつぶやいた。
「は?」
「授業中とかにさ、たまにぼーっと見てんじゃん」
「いや別に、そんなつもりじゃ」
「へぇ、"そんなつもり"じゃねぇんだ」
藤崎のにやにやした顔が、妙に腹立たしかった。
「こんなの普通、っていうか」
「普通じゃねえよ。少なくとも、俺はそんなことしないけど」
普通じゃない。
いや、そんなはずはない。
俺は、ただの幼なじみとして——
……ただの幼なじみとして、なんだ?
(……違う、のか?)
無意識に、ポケットの中のスマホを握りしめた。
"恋むすび"の試練。
蒼依とのやり取り。
そして、俺があいつを「可愛い」と思った瞬間。
でも、もし……もし、それがゲームじゃなくなったら?
「二人とも、さっさと素直になった方がいいんじゃねぇのか」
藤崎の言葉が、まるで残響のように。
素直になった方がいい——俺は一体、何を求めて、この勝負をしているのだろうか。




