表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/50

#第三話 #良いところ #雰囲気

『——試練:お互いの良いところを三つ挙げよ! 二人の距離が近づくかも?』


 スマホが震えて、新たな試練が表示される。そのメッセージを読んだ瞬間、蒼依の表情が固まった。そしてわずかに眉間にしわが寄った。

「春樹の良いところを三つもあげるの?」

「なんで不満そうなんだよ。俺だって蒼依の良いところを三つもあげるのは大変だし」

 揃って、微妙な空気から始まってしまったが。


「可愛い、たまに優しい、すぐ怒る」

 春樹が指でカウントしながら、ゆっくりと述べていく。

「は? 最後の要らないんだけど」

「しまった。負けず嫌いだから、物事を簡単に諦めないとかにしとけば良かった」

「すぐ怒るとはぜんぜん関係ないじゃない」

「似たような意味だと思うんだけどな」

 不満そうに抗議している蒼依とは対称的に、春樹は彼女の意図をいまいち汲み取れていなかった。


「じゃあ、私から言うわよ」

「さっきのは無し?」

「当たり前でしょ。きちんと考えてから発言してよ」

「分かった。俺も蒼依の良いところをきちんと考えてみる」

 うん、と頷いてから、蒼依はすこし頬を赤くしながら、ゆっくり口を開いた。

「一つ目——記憶力が良い」

「色々なことを覚えててくれるっていうか。そういうのって、結構嬉しいから」

「色々なことを覚えてる?」

「私が話したこととか、ちゃんと覚えててくれるところ。細かいだけかもしれないけどね」

 蒼依の言葉に、春樹はすこし驚きながら頷いた。


「蒼依が何度も喋るから、忘れられないだけだと思うぞ。俺、大事なこととかでも結構忘れちゃうし」

「そういう余計なこと言わなくていい」

 蒼依はムッとした表情を見せたが、すぐに次の良いところを考えているのか、頬に手を当てていた。


「二つ目——……意外と、優しいところ?」

「意外と優しいって。俺、別に厳しくはないと思うぞ」

「意外と、が大事なのよ。普段は適当なくせに、すごーく、たまーに、ほんのちょっとだけ気を使ってるところが優しいっていうか……」

「もはや褒めてないだろ」

 春樹が呆れつつ答える。

「う、うるさい。いいから黙って聞いてなさいよ」

 照れ隠しのように声を上げた蒼依に、春樹は苦笑していた。


「三つ目……」

 蒼依はすこし目を泳がせながら続ける。

「まあ、その……喧嘩しても、なんだかんだでいつも謝ってくれるところ」

「おい、それって俺が悪い前提じゃないか」

「そういうことじゃないし。素直に受け取ればいいでしょ」

「俺の脳内で、お前が言うなが駆け巡ってるんだが」

「う、うるさい。もう二度と言わない」

 蒼依が顔を赤らめながらそっぽを向く。なんだかんだで、ちゃんと考えてはくれたみたいだった。


「じゃあ、次は俺の番だな」

 ほんのり赤い蒼依の横顔を見ながら、春樹はちょっと考える。そして、なるべく自然に口に出した。

「一つ目——勝ち気だけど、ちゃんと努力家なところ」

「……なによ、それ」

「何か始めたら最後までやりきるし、頑張るところは素直にすごいと思うよ」

 春樹が頭をかきながら続けていく。


「中学の時に、クラスリレーの代表に選ばれた時とか、放課後までずっと走りこんでたし」

「お前の負けず嫌いは、他の人たちの期待に対してもなんだって、校庭の端で走り続けてる蒼依を見ながら思ったよ」

「あれ見られてたのね。すごく恥ずかしいんだけど」

「別に悪いことじゃないだろ。クラスの奴らも普通に知ってたし、皆、応援してたぞ」

 春樹がさらっと言うと、蒼依は俯きながら、すこし黙りこんでいた。


「二つ目——さっきと同じだけど、やっぱり優しいところ」

「私と同じじゃん。ほんとにちゃんと考えたのかしら」

 蒼依が少し不満そうにつぶやく。

「蒼依の優しさって、厳しさでもあると思う。だから俺も蒼依の写真を待ち受けにしてたっていうか」

「今のままじゃダメな時って、今のままでも良いって、言ってもらっちゃいけないと思ってたんだ」

「何それ、褒めてる感じしないんだけど。は、春樹はやっぱり優しい子の方が好きなのかしら」

 春樹のことを横目で見上げながら、蒼依が小さく呟いた。

「明日から蒼依がめちゃくちゃ優しくなってくれても、それはそれで嬉しいけど……」

「や、やっぱり貶してるじゃない。もう二度と口聞かないから」

「おい、なんでだよ! まだ次のもあるって!」

 腕を組みながら、不満そうに睨む蒼依に対して、春樹はなんで怒ってんだよ、と、宥めるような仕草をしながら続けていく。


「み、三つ目——……やっぱりすごく可愛いところ」

「——っ!? な、何言ってんのよ!」

 その瞬間、蒼依の顔がボンっと真っ赤になった。誰が見ても動揺しているのが分かる。

「ちゃんと聞いてくれ。可愛いっていうのは、猫とか、そういうのと近い感覚っていうのかな……」

「愛嬌があるとも言えるんだけど、なんか蒼依のことって、怒れないっていうかさ」

「……ね、猫って何よ。私、別に愛玩動物じゃないんだけど」

 意味が分からないんだけど、といった様子で、蒼依が半目で蔑むように春樹を見る。


「これだ! この感じなんだよ!」

「素直じゃなさすぎるところも、めっちゃ可愛い」

「やっぱり褒めてない。うん、今は素直に春樹に馬鹿って伝えられる」

 呆れた様子で蒼依がつぶやいていた。


『——試練クリア! 絆が深まりましたね! 春樹の恋ごころ+20、蒼依の恋ごころ+20』

 画面には、器にキラキラした液体が注がれるアニメーションが流れている。


「あー、変な試練だった。一瞬照れちゃったのが、バカみたい……」

 蒼依が前髪をいじりながら、小さくつぶやく。その横顔は、どこか照れくさそうで、でも楽しそうでもあり——。


「……たまには、こういうやりとりも必要かもね」

「いつも喧嘩になっちゃうもんな」

「春樹が悪いんでしょ」

「蒼依がすぐムキになるからだって」

「知らない」

 何だか、いつもとすこし違う雰囲気に、互いの鼓動が早くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ