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#第二話 #隠し事 #前髪

『——試練:隠していたことを話してみよう! 絆が深まるきっかけになりますよ!』

 スマホが同時に震え、画面には新しいメッセージが浮かび上がる。それを見た蒼依の表情が一瞬だけ固まる。


「そんなの絶対言える訳ないじゃん……」

 蒼依は戸惑いながら、画面をじっと見つめていた。いつも強気で勝ち気な彼女が、すこし動揺しているのが分かる。


「さっそく試練に負けちゃったみたいだな——」

 春樹の口元が緩んだのを見ると、蒼依はムッとした様子で。

「別に負けてないし。こんなの簡単だもん」

「春樹こそ、人に言えない秘密とかあるんじゃないの?」

「そんなの特に無いよ」

「す、スマホに入ってる変な画像とか……」

 蒼依の声が途中から小さくなった。

「入ってない! 変なこと言うなよ!」

「だって、結衣がそう言ってたし——検索履歴には必ず"癖"が現れるって」

「現れねえよ! そんなの見るなよ、絶対に!」

「なんで隠すのよ。もしかして本当にそうだったのかしら」

 蒼依が呆れのこもった眼差しを、春樹に向けていた。


「試練だよ、ほら」

 春樹は迷っていた。隠していたことを話すと言っても、蒼依はほとんど知っている。

 今、隠していることを話すとなると——実は好きな人がいるなんて、絶対に言える訳がない。


「じゃあ、私からいこうかな。こういうのは先に言った方が勝ちだし」

「変なルールを増やすなよ」

「別に増やしてない。でも、ちょっと恥ずかしくなってきたかも……」

 蒼依は視線を下に落として、ためらうように唇を軽く噛む——そして意を決したように顔を上げた。


「中ニのときの話でも、いい?——多分これ、春樹は知らないから」

「一回、喧嘩した後に、全然会わなかったことがあったでしょ?」

「なんとなく覚えてる。あの時は、本気で嫌われたと思ってた」

 春樹にとっては、あまり思い出したくない過去だったが、蒼依が小さな声でつぶやいていく。

「嫌ってなんかないよ。気が強くて、可愛げがないって言葉には、結構ムカついたけど」

「そんなこと言ったっけ。よく覚えてないな」

(覚えてたのかよ。でもあれだって、蒼依が俺より英語のテストの点数が、二点だけ良かったことを、延々と勝ち誇ったように続けたからで……)


「でも、それも今じゃ思い出。ほんとはね——」

 そう言いながら、蒼依が自分の前髪を撫でた。

「せっかく前髪作ってもらったんだけど、なんか似合わない気がして、ちょっと切ってみたの」

「前髪? そんな話、初耳なんだけど」

「……そしたら、次の日、友達には『姫みたいで可愛い』って言われた」

 蒼依が苦笑いしながら続けていく。

「最初は気にしてなかったんだけど、皆が姫みたいで可愛いとか、二組のお姫様とか言うから、なんか恥ずかしくなってきちゃって——」

「だから、絶対春樹にだけは、見られたくなかったの。あの、ぱっつんの前髪」

 居心地の良い沈黙の中で、蒼依が手で顔を仰ぐような仕草をしながら、窓際の壁に寄りかかっていた。


「何だよ、もう。こっちは三キロも痩せたっていうのに」

「だって、あんな姿見せるの……負けた気がして嫌だったし……」

 蒼依がごめんね、と小さく付け足した。

「だから前髪伸びるまで、ずっと避けてた。喧嘩のせいだって、勘違いさせたまま——」

「……別にいいけどさ。俺も見たかったな、その前髪」

「っ、もうこの話は終わり。次は春樹の番だから」

 驚いたような様子の後に、そっぽを向きながら、蒼依が早くしなさいよ、催促する。


「実は俺、納豆は千回かき混ぜる派なんだ——」

「豆の粒感が苦手でさ、クリームになるくらいまでかき混ぜたく……」

「は? 隠してたの、それ」

 それは違うだろと、不機嫌になってしまった蒼依を前にしながら、春樹は黙りこむ。


「……高校受験でキツかった時、蒼依と写ってる写真を待ち受けにしてた」

「えっ? そ、それってどういう意味なの——」

 蒼依が驚いたような顔を見せてから、すぐに取り繕うように窓の外を見つめていた。

「喧嘩して、ちょっと不機嫌そうな顔で写ってる写真なんだけど、俺が折れそうな時に、バカ、何負けそうになってんのよ! って言ってくれるような気がして……」

「もう。私をそんな風に使わないでよ」

「ち、直接言ってくれたら、すこしは優しくしてあげたかもしれないのに……」

 ——腕を組みながら、蒼依が吐息混じりに呟いた。落ちてきた日差しのせいか、なんだか横顔が綺麗で、耳の先が夕日よりも赤く染まっている。


「……変な空気にしないでよ、バカ春樹」

「蒼依の方こそ、前髪なんか気にするなんてらしくないぞ」

「う、うるさい! この鈍感納豆千回男!」

 蒼依が髪をいじりながら、不機嫌そうに呟いたが、いつもより口角が緩んでいることを、春樹は見逃さなかった。

 まるで沈黙を検知したかのように、スマホが振動する。画面には新しい通知が表示されていた。


『絆が深まりましたね。春樹の恋ごころ+10 蒼依の恋ごころ+15』

 恋むすびのエフェクト。春樹の器の方が、液体が少なかったが、蒼依の器よりもすでに注がれている量が多い。


「なっ、なんで私の方がポイント多いのよ」

「知るかよ。あー、めっちゃ恥ずかしかった」

「私だって、めーっちゃ恥ずかしかったし」

 蒼依が画面を消してから、自分のスマホを机の上に静かに置いた。

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