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#第十二話A #デート #プレゼント

『試練:デートを成功させよう! もっと二人の距離が近づきますよ!』


 夜、自室でくつろいでいた春樹のスマホに通知があった。


 画面では、いつもの巫女のキャラクターが『素敵な一日を二人で過ごそうね!』と微笑んでいる。


「デートって。ただの試練って感じじゃなくなってきたな」

 すぐにスマホに着信があった。通知を見ると蒼依の名前。きっと試練のことだろうと、春樹は通話のアイコンをタップした。


「試練の内容、見た?」

 スマホ越しに、蒼依の声が聞こえてくる。


「デートを成功させろ、だってな。いかにもって感じだけど」

「そうね。私も仕方なくやるだけだもん」


 そう言いつつも、蒼依の声が弾んでいる。

 わざわざ通話をしてくるあたり、素直じゃないよなと春樹は苦笑する。


「ちょっと確認してみるかな」

 アプリを開くと、デートを成立させるためのタスクがリストになっていた。


・プレゼントを渡す

・二人で特別な時間を共有する

・デートらしい一枚の写真を撮影する


「ほ、本格的ね。こんなに分かりやすくやらなくても……」

 蒼依が戸惑っている。

 デートという前置きがあると、浮き足立ってしまうというのは、春樹もさすがに分かっていた。


「でもさ、デートってこういうものだろ」

「……」

「なんで黙るんだよ」


 蒼依からの返事がない。通話画面の秒数だけが増えていく。


「春樹、なんか詳しそうだなって」

「詳しいわけないだろ」

「……そっか。じゃあ、春樹のプランに任せる」

「プランって、俺が考えるのかよ」


 なぜか他人任せの蒼依に、春樹は困惑する。


「ほら、これも試練のうちっていうか……やっぱりその方が良いと思うし」


「どうしたんだ? いつもみたいに張り合ってきて、私が春樹よりも最高のプランを考えてやるんだから、とでも言うと思ってたんだけど」


「えっ?……そ、そういうのは春樹が考えるの!」

「急にそんなの振られても困るだろ。なんか変だぞ、蒼依」

「うるさいっ! こっちだって困ってるの!」


 蒼依が言い返してくる。普段は強気だが、よく分からないところで控えめになるのは、変な癖だよなと思いつつ、春樹はスマホの画面を見ながら、首を傾げていた。


「……明日、駅前の広場に来て。時間は十一時」

「明日って。予定はないけど、急すぎないか」


「試練に期限が設定されてたんだけど、もしかして気づいてなかったの?」

「全然見てなかった。ちょっと見てみる」


 試練の画面を見てみると、確かに説明欄に『24時間以内にクリアせよ』と表示されていた。


「24時間以内って、もはや思いつきで行動するレベルだろ……」

「と、とにかく試練は絶対なの。別に期待なんかしてないけど。じゃあ、また明日ね!」


 蒼依は早口だったが、語尾が跳ねるような話し方から、電話越しにも浮かれているのが春樹でも分かった。


「まったく。試練も蒼依も一方的すぎる……」


 通話が終わると、ちょっと気が抜けたからだろうか、春樹は勢いよくベッドに倒れこんだ。


「何を浮かれてるんだか。ただ遊びに行くだけだろ」


 スプリングの反動で、上半身が何度か動いた後に、身体を反転させてから、天井を見つめる。


「いよいよデート、か。ただの試練って分かってるんだけどな」


 春樹はスマホを見つめたまま、ぼんやりと明日のことを考えていた。


「これはアプリの試練でしかない。きっと深く考える必要なんてない……はずだ」

 駅前の広場に春樹が到着すると、蒼依が既に待っていた。


「なんか、いつもと雰囲気が違うな」


 胸元に細いリボンのモチーフがあしらわれたトップスに、可愛らしいスカート。黒いバッグには、金色の飾り。


 綺麗めのローファーが、ガーリーな雰囲気に対して、上手くまとまり感を演出していた。


「ごめん、待ったか」

「別に待ってない。私が早く着いただけ」


「……前にもこんなことあったよな?」

「うるさい。今は変なこと言わなくていい」


 軽く言いながらも、蒼依はどこか緊張しているように見える。


「ここでわざわざ待ってるくらいなら、近くのコンビニで待ち合わせた方が良かったんじゃないか」

「それじゃデートにならないでしょ」


「ごめん。でも、そういうものなのか?」

 春樹は頭をかきながら、いつもと違う雰囲気の蒼依を見る。


 確かに普段と何かが違っていなければ、特別とは言えない気もするのだが。


「なによ」

「その服、似合ってるじゃん。蒼依ってたまにお洒落な格好してくるよな」


 春樹の言葉に、蒼依は一瞬固まった後、バッグのストラップをぎゅっと握った。


「……別に普通だから。この服しかなかっただけ」


 強がる蒼依の頬がほんのり赤かった。

 いつもと違う様子に、春樹もちょっと緊張してしまう。


「何だよ、もう。調子狂うな」

「とりあえず、どこに行くかを決めるか」

「えっ、考えてなかったの……?」


 蒼依が驚いたような顔で、春樹を見つめる。その後、すこし呆れたような目に変わった。


「あっ、いや、候補だけならいくつか……」

 そう言いながらも、春樹にはっきりした案はなかった。とりあえずアプリを開いてみると、『二人におすすめのデート』の表示が出てきた。


「遊園地とかは、今からだとちょっと」

「じゃあ、ここにするか。大型ショッピングモール」

「うん、そうする。バスもちょうど来るよ」


 蒼依がアプリのリンクから、時刻表のページを開いて、ショッピングモール行きのバスの出発時間を春樹に見せる。


「なんか変だな」

 普段よりも大人しい蒼依に、春樹の調子が狂う。しおらしいとでもいうのだろうか。


「こういう日に変なこと言わないでよ」

「ごめん、ちょっと待ってって」

「知らない。どうせ試練だし!」


 先に歩いていってしまった蒼依を追いかけながら、ショッピングモール行きの路線バスの停留所へと向かった。


「さっきはどうなるかと思ったよ」

 若干、不機嫌だった蒼依を宥めつつ、ショッピングモールまで、あと三つくらいバスの停留所を残した頃には、お互いにいつもの調子を取り戻していた。


「春樹、見て。大きなかぼちゃ」

「ちょうどハロウィンだもんな。本物で作ってるんだな」


 入り口に展示されていた、ハロウィンの飾り。春樹は昔、町内のイベントで、蒼依と仮装しながら商店街を歩いたことを思い出していた。


「魔法少女アオイ……」

「——なっ!? その話したら、二度と口きかない」

「ノリノリだったじゃん。ハロウィンといえば、あれを思い出すんだけど」

「トリック・オア・トリート。お菓子くれなきゃ、アオイが魔法をかけちゃうんだから——」


 魔法少女に仮装した蒼依が、杖を突きつけながら、決めポーズを取る。

 その姿を思い出しながら、春樹が小さく吹き出した。


「……聞こえてるわよ、春樹」

 作ったような笑顔で真正面を向く蒼依の様子を見て、春樹は慌てて止めた。このままだと本気で怒られかねない。


「ご、ごめん。でも可愛かったけど」

「う、うるさい! もう二度とあんなことしない!」

 先を歩いていた蒼依との距離が、すこし縮まった。


「蒼依、コスプレ好きそうじゃん。今でもきっと似合うぞ」

「あっ、それ良いかもね。魔法使いになって、春樹を使い魔にして、二度と変なことが言えなくなるように魔法でもかけようかなー」

「……なんで、かぼちゃ見てるんだよ」

「ジャック・オー・ランタンって、悪霊を追い払ってくれるんだって」


 蒼依が立ち止まって、ハロウィンの展示を眺めている。男性のマネキンがドラキュラ、女性のマネキンが魔法使い、子供のマネキンが妖精の格好をしていて、足元にはジャック・オー・ランタンや幽霊の飾りが置かれている。


「……俺は悪霊じゃないぞ」

「ほんと、どこもハロウィンって感じだね。あっ、見て春樹」


 しばらく歩いてから、蒼依が女子向けのアパレルの前で立ち止まる。色々と物色していたが、春樹には何だかよく分からなかった。


「あのニット可愛いかも。そろそろ冬物欲しいな」

「結構するんだな。セールじゃないからか」

「うん。バイトしてないから、ちょっと買えないけど」


 蒼依が名残惜しそうに、店舗前のディスプレイを見ていた。


「蒼依。これ、どうだ」

 通りがかったスポーツ用品店の中にあったボクシンググローブを春樹が手に取る。


「どういう意味。まさか面白いとでも思ってるの?」

「……いや、ごめん。調子に乗った」


 スポーツ用品店から出た後、しばらく無言で蒼依が先導していたが、落ち着いた雰囲気の雑貨店の一角にある、アクセサリーが並んでいるコーナーで立ち止まった。


「うわっ、どれも可愛い。ここでプレゼント買いたい」

「じゃあ、そうするか」

「蒼依。これ、どうかな」

 春樹が選んだのは、何かの花をモチーフにした耳飾り。


「私はこれ。猫がすごーく可愛いでしょ?」

 蒼依が選んだのは、猫をモチーフにしたネックレスだった。


「猫って。そんな可愛いものつけられないぞ」

「大丈夫。可愛いものは、誰がつけても可愛いんだから」

「だったら蒼依がつけた方が。俺はもっとカッコいい方が好みなんだけど……」

「いいの。これに決めたんだから」


 そんなやりとりをしながら、ふと一つのアクセサリーが目に留まった。


「こっちの方が蒼依に似合うかもな」

 リボンをモチーフにしたバレッタ。安直に手に取ってしまった気もしたが、蒼依の雰囲気に合いそうだな、と思ったのだ。


「……もしかして、春樹の好みだった?」

「いや、俺、女子の好みなんて分からないぞ。何となく蒼依に似合うかなって思ったんだけど」

 前に似たような髪飾りをつけていたことがあったような。亜麻色の髪に揺れるリボンの髪飾りが春樹の印象に残っている。


「じゃあ、それが良い。なんか春樹が選んだって感じがするし」

「もし不満があるなら、欲しいやつを言ってくれれば、好みに合わせて選ぶけど」

「……だから、それが良いの。とっとと察しなさいよ、ばか」


 目も合わせずに、くるりと身を翻して、さっさと会計に向かおうとする蒼依。

 春樹は、その姿を慌てて追いかける。


「本当にそれでいいのかよ」

「……春樹が選んでくれたものなら、何だって嬉しいから」


 聞き取れないほどの小さな声だったが、いつもより優しい蒼依の雰囲気が、春樹の胸を高鳴らせた。


「お前、そういうのは卑怯だろ……」

「ほら、春樹も早く会計しなさいよ。ぼーっと立ってたら、他のお客さんに迷惑でしょ」


 口元を緩めながら、財布からお金を取り出す蒼依の姿を見ながら、春樹も何だか落ち着かないのであった。

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