表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/50

#春樹サイド #ep7

 ある日の放課後。

 俺は藤崎と駅前のビルにあるカラオケ店に来ていた。


「ストレス発散。今日は藤崎のステージだぜ」

「藤崎って、ベーシストなのにな」

「ベースだって、ボーカル担当することはあるぞ」

 藤崎は入室してすぐ、デンモクを操作しながら曲を入れ始めた。

 俺が上着を椅子に掛けている間にも、テンポの速い曲の予約が次々に表示されていく。


「まずは、これ。一発目はHudeの曲からでしょ」

「流行ってるよな、そのバンド。Hudeの曲って配信サイトで上位独占してるし」

「だろ。あの力強いのにセクシーなボーカルと、展開の速さが堪んないんだわ」

 イントロが流れると、藤崎がぱっと立ち上がる。

 マイクの持ち方までこだわっていて、何だかステージの空気のようだった。


「いつか消えてしまう感傷も 何か求めてる感情も〜」

「しかし熱唱だな。藤崎も凝り性だから」

 でも、妙に楽しそうだから、ツッコむのが面倒になってくる。

 俺はソファにもたれながら、モニターの歌詞をぼんやり眺めていた。


「春樹、手拍子! 手拍子!」

「合いの手入れてくれても、いいんだぜ?」

 藤崎がMCのように、俺に催促してくる。

 数ヶ月前の文化祭のステージを思い出したが、客席はあまり盛り上がっていなかった。


「はいはい」

 適当に手を叩いていると、喉が乾いてきた。テーブルの上に置かれたカップは空になっている。

「ドリンク取ってくる」

「了解。俺は今、最高の歌を歌ってるから」

 藤崎は意味の分からない宣言をしながら、曲のサビへと突入していた。

 廊下に出ると、部屋のドア越しに色々な音が漏れてくる。

 笑い声や拍手、こぶしの効いた演歌。カラオケって、こういう雑な賑やかさがある。

「あっ、この曲」

 ドリンクバーへ向かう途中——不意に、聞き覚えのあるメロディが耳に引っかかる。

 この曲、どこかで——と思って、すぐに思い出した。


「蒼依が、たまに口ずさんでるやつだよな」

 曲はすぐ廊下の雑音に溶けていった。

 俺は立ち止まらず、そのまま歩いていく。

 ドリンクバーの前に着いたが、何を飲もうかなと迷っていた。コーラか、乳酸菌飲料か、アイスティーか。別にどれだっていいのに、なかなか決まらない。

「コーラにするか。炭酸でも飲もう」

 注がれているコーラを見ていると、背後から賑やかな声が近づいてきた。


「ねぇ、次、これ歌おうよ」

「それさ、絶対盛り上がるやつじゃん」

 隣町の私立校の女子生徒。

 同い年くらいの女子たちが三人、楽しそうに通り過ぎていった。

 その光景を見ながら、蒼依の姿が頭をよぎる。

 あんな風に、友達と楽しそうにカラオケに来ているのかな、と。

「きっと来るよな。本人に聞いたことはないんだけど」

 部屋に戻ると、藤崎が満足そうにしていた。

「最高の気分だな。届いたか、俺の歌声」

「飲み物取りにいってたから、何も聞いてないけど」

「残念。ほら、お前の十八番入れといたぞ」

「は? またかよ、この曲」

「お前のこれを聞かないと、やっぱり始まらないだろ」

 画面を見ると、昔好きだった少年漫画の主題歌が予約されている。やれやれと思いながら見てみると、藤崎が妙にニヤニヤしていた。


「魂のシャウト、待ってるぜ」

「ったく。任せとけ」

 藤崎とハイタッチを交わすと、すぐにイントロが流れてくる。

 身体がリズムを覚えているのか、自然とノリが合っていく。


「どうせなら。いくぜ、藤崎」

 俺は立ち上がって、マイクを持った。

 藤崎がタンバリンを握りながら、待ち遠しそうに待機している。


「オレの心はいつも燃えている! ボーイズ・ビー・アンビシャスッ!」

「相変わらずヤバい曲だが、アニキの歌声にそっくりだよな」

 藤崎が掛け声と共に、軽快にタンバリンを鳴らす。


「ゴーゴーファイト! オレはなんだってぶっ壊せるんだぜ!」

 サビに入った瞬間、俺は腹から声を出した。歌詞をなぞるんじゃなくて、押し出すみたいに歌う。


「守るべき友情と、この熱い誓いにかけて——」

「お前と、この世界を救ってやるぜッ!」

 “熱い”とか“友情”とか、今の俺に関係ないはずなのに。


 ——この曲を歌っていると、何かが滾ってしまうのだ。


「ふぅ、センキュー……」

 歌い終わって息を吐くと、藤崎がすこし遅れて、激しく拍手をしていた。

「お前さ、妙に熱いよな。引いたわ」

「うるさい」

 机の上にマイクを置く。

 こんな姿は、もちろん蒼依には見せられない。


「面白いよな、マジで。普段からそれくらい喋れよ」

「カラオケと喋るのは別だろ。こんなテンションの奴がいるかよ」

 藤崎がまだ笑っていた。

 俺はコーラを一口飲みながら、身体を冷ましていく。


「お前のパッション、確かに受け取った。ここからは、藤崎のかっこいいところを見せちゃうからな!」

「はいはい。思う存分歌ってくれ」

 マイクが三回転くらいした後に、画面が次の曲へと切り替わる。

 藤崎が勝手に盛り上がっているのを、俺はソファにもたれながら、静かに眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ