#二人の物語 #クリスマス #帰り道
クリスマス・イブの喧騒を忘れさせるほど、住宅街は静まり返っている。二人は駅からの通い慣れた道を、肩を並べて歩いていく。
「今日は疲れたな。蒼依は?」
「私は平気。道が暗いのも、全然気にしてないから」
「はいはい、怖がりだもんな」
「別にそんなことないし! 変なこと言わないでよ、もう」
強がってはいるが、蒼依の歩く速度が、いつもより遅くなっていた。
春樹は何も言わず、その歩幅に合わせてゆっくりと歩いていく。
「はー、寒いな。こんな日にサンタはお仕事か」
「大変だよね。夜、暖房付けておいてあげたほうがいいかな?」
真面目な蒼依の様子に、春樹は笑いを堪えながら、空を見上げる。
「いるわけないだろ、サンタなんて」
街灯に照らされた白い息が、つぶやきと共に星空へと消えていく。
マーケットの鮮やかな光も、賑やかな音楽も、もうここにはない。あるのは、見慣れた電信柱と、カーブミラー、そして隣を歩く、いつもとはちょっと雰囲気の違う幼なじみだけだった。
「やっと着いた。春樹も気をつけてね」
蒼依の家の前。門柱の常夜灯と、玄関前の暖色のブラケットライトが、ぼんやりと辺りを照らしている。
「気をつけるほどの距離じゃないだろ」
「でも暗いし、怖いし。何かあると困るよ」
「大袈裟だな。足、ちゃんとケアしとけよ」
「分かった。別に痛くなんてないのに」
春樹が視線を足元に向けると、蒼依は何かを紛らわすかのように笑いながら、ブーツのつま先を二、三回だけ地面に当てた。
「今日は楽しかったか」
「……春樹は、どうなの。私が先に言うのは、なんか負けたみたいで嫌だし」
「疲れたけど、楽しかったぞ。蒼依とはいつもこんな感じだよなって、あらためて思った」
春樹は寒いなと思いながら、ダウンジャケットのポケットに両手を突っこんだ。
「私は楽しかったっていうか、多分、一生忘れられないかも」
蒼依は『ハルキ』の入った紙袋を、愛おしそうに胸に抱き直す。
「なら、出かけた甲斐があったな」
「うん。おばさんにありがとうって伝えてね」
蒼依が黒い門扉に手をかける。
カチャンと、アルミニウムの金属音がした。
「は、春樹っ!」
呼び止められて振り返ると、門の内側に立った蒼依が、真っ直ぐに春樹の方を見ていた。
「……今日は、ありがと。マグカップも、この『ハルキ』も。全部、大事にするから」
「ああ、俺も楽しかった」
「それと……」
蒼依が言葉を濁す。視線がすこしだけ泳いで、また春樹の方に戻ってきた。
「またいつかこうやって、二人で出かけられたらって、思ってるから」
「だな。また美味しいものでも食いに行こうぜ」
「もう、またそうやって人を食い意地張ってるみたいに……」
春樹が軽く手を挙げると、蒼依はやれやれといった様子で、すこし呆れ気味の笑顔を浮かべながら、じゃあね、とだけ告げて、温白色のこぼれる玄関ドアの中へとゆっくり消えていった。
"ブクマ"の偉大さを再確認する時、その偉大さは決して与えられたものではないということが判る。"ブクマ"は、決して近道でも安易なものでもなかった。それは、"この作品の作者"―仕事より娯楽を好み、富と名声の喜びのみを欲するような―のための道ではなかった。むしろ、"人気者"のためのものであった―中には名を成した人々もいたが、多くはどんな仕事をしているのかも知られていない者達であり、彼らが長く険しい道を歩んだ末に、我々を次なる"ブクマ"へと導いてくれたのである。
『Yes, We Bookmark.』
バラク・"ブクマ"(1961-)




