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#二人の物語 #クリスマス #聖夜の約束2

「イベントステージで、何かやってるみたいだよ」

 蒼依が背伸びをしながら、人混みの向こうを指さす。


「アイドルグループの特別イベントじゃないか?」

「すごい人だかり。あれ目当ての人もいたのかも……」

「かもな。クラスでも推してるやつ結構いるし」


 ステージ周辺は、演目のクライマックスに合わせて、最高潮の盛り上がりを見せていた。


「終わったみたいだ。ちょっと興味あったんだけど」

「やめた方がいいよ。すごい人だもん……」


 ありがとうの掛け声と共に、ステージが終了した。すぐに観客たちが一気に押し寄せてくる。


「あっ、蒼依っ!」

 さらに悪いことに、さっきのパレードの列が折り返してきて、二方向からの人の流れが交差するように、二人も巻き込まれてしまった。


「うわ、押すなっ……!」

 春樹は体勢を崩しかけ、反射的に蒼依がいた方へ手を伸ばす。


「蒼依、離れるな――」

 しかし、人波が壁のように二人の間に割りこんだ。


「春樹っ!」

 姿は見えなかったが、聞き慣れた声がした。春樹とは反対の人の流れに飲まれてしまった蒼依。


 笛吹き男の列に続く子供たちの姿を思い出しながら、二人は人の流れについていく。

 数分後。

 人が捌けるまで、流され続けた春樹は、白い息を吐きながら、周囲を見渡した。


「どうするかな。まずは蒼依に連絡を」

 スマートフォンのアンテナが、立っては消えてを繰り返している。


 とりあえず春樹は、蒼依にメッセージを送ってみたが、一向に送信完了の表示にならなかった。


「なんか最後がこれって。やっぱりやめときゃ良かったのかな……」


 何となく孤独を感じながら、春樹は周りを見る。

 幸せそうな恋人たちや家族連れが、笑顔で歩いていく。その中には、見慣れた亜麻色の髪も、白いコートも見当たらない。


 スマートフォンを取り出したが、相変わらずメッセージは送信できていなかった。


「駄目そうだな。仕方ない、約束してた場所に向かうか」


 春樹は悴んだ手で、スマホをポケットに突っこんだ。寒さが厳しくなってきて、ダウンジャケットから露出した素肌に突き刺さるようだった。


「蒼依、こういう状況苦手なんだよな」

 さっきの言葉が、何となく脳裏をよぎる。


「二度と戻れなくなる、か……」

 このまま会えなくなるんじゃないか。


 楽しい音楽に誘われて、蒼依だけがどこか遠くの世界へ——手の届かない場所へ行ってしまうかのような。


「……んなわけあるか。また会おうぜって、何度繰り返してきたと思ってんだよ」

 春樹は顔を上げる。

 夜空を背景に、クリスマスピラミッドが白く輝いていた。


 光のステージでは、童話の人形たちが舞踏会を続けている。


「助けてくれたのは、グレーテルの方だったけど」

 春樹は人波をかき分け、迷いの森を突き進んだヘンゼルのように、約束の場所を目指して走り出した。

「どこにいるんだ、蒼依」

 クリスマスピラミッドの下は、待ち合わせの人々で溢れかえっていた。


 遠くで見るよりもずっと大きかった塔の中では、キリストの生誕を祝う人形や、森の動物たちが、くるくると回っている。


「こんな風になってたんだな」

 まるで閉じた円環のよう。外に出ることも、止まることも出来ない。光に満ちた美しい牢獄のようにさえ見える。


「蒼依なら、こういう時には目立たない場所にいくんだ」


 春樹は塔の端の方を見た。

 視線を左から右へと三往復くらいさせると、塔の土台の縁。


 光が届きにくい影になった場所に、ちょこんと座りこんでいる、白いコート姿の少女を見つけた。


「やっぱりな。蒼依っていつもこうだから」

 喧騒を拒絶するように腕を抱き、ただじっと、足元の石畳を見つめている蒼依。


 その姿は、賑やかな聖夜の中で、一人だけ魔法が解けてしまったシンデレラのようにも見えた。


「蒼依。やっぱり会えたな」


 名前を呼ぶと、白いコートと亜麻色の髪が、カラフルなイルミネーションと、塔の光を背景にしながら、こちらに近づいてくる。


「当たり前でしょ。迷子になんかなってないし」

「誰もそんなこと言ってないぞ」

 蒼依がうつむきながら続ける。


「スマホも繋がらないし、周りは知らない人ばっかりだし……笛の音が聞こえるたびに、どんどん遠くに行っちゃいそうで」

「心配しすぎだろ。すぐに迎えにくるって」

「分かってるよ。ヘンゼルなら、知恵を絞って戻ってきてくれるって」

 蒼依が春樹をからかうように言った。


「ああ。魔女の家からも生還だ。グレーテルが腹を空かせて、お菓子の家にでも迷いこんでるんじゃないかと思ったが」

「そ、そんなわけないでしょ! 人を大食いみたいに言わないでよ、もう」

 春樹の軽口に、蒼依がふんっと顔を逸らす。

 すぐに笑顔に戻ると、春樹の隣に並んだ。


「帰ろうか、春樹。本当のお家に」

「だな。俺たちにはまだ新しい物語があるから」

 二人の頭上では、クリスマスピラミッドの人形たちが、終わりのない舞台を続けていた。

"ブクマ"の偉大さを再確認する時、その偉大さは決して与えられたものではないということが判る。"ブクマ"は、決して近道でも安易なものでもなかった。それは、"この作品の作者"―仕事より娯楽を好み、富と名声の喜びのみを欲するような―のための道ではなかった。むしろ、"人気者"のためのものであった―中には名を成した人々もいたが、多くはどんな仕事をしているのかも知られていない者達であり、彼らが長く険しい道を歩んだ末に、我々を次なる"ブクマ"へと導いてくれたのである。


『Yes, We Bookmark.』


バラク・"ブクマ"(1961-)

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