#二人の物語 #クリスマス #聖夜の約束2
「イベントステージで、何かやってるみたいだよ」
蒼依が背伸びをしながら、人混みの向こうを指さす。
「アイドルグループの特別イベントじゃないか?」
「すごい人だかり。あれ目当ての人もいたのかも……」
「かもな。クラスでも推してるやつ結構いるし」
ステージ周辺は、演目のクライマックスに合わせて、最高潮の盛り上がりを見せていた。
「終わったみたいだ。ちょっと興味あったんだけど」
「やめた方がいいよ。すごい人だもん……」
ありがとうの掛け声と共に、ステージが終了した。すぐに観客たちが一気に押し寄せてくる。
「あっ、蒼依っ!」
さらに悪いことに、さっきのパレードの列が折り返してきて、二方向からの人の流れが交差するように、二人も巻き込まれてしまった。
「うわ、押すなっ……!」
春樹は体勢を崩しかけ、反射的に蒼依がいた方へ手を伸ばす。
「蒼依、離れるな――」
しかし、人波が壁のように二人の間に割りこんだ。
「春樹っ!」
姿は見えなかったが、聞き慣れた声がした。春樹とは反対の人の流れに飲まれてしまった蒼依。
笛吹き男の列に続く子供たちの姿を思い出しながら、二人は人の流れについていく。
◇
数分後。
人が捌けるまで、流され続けた春樹は、白い息を吐きながら、周囲を見渡した。
「どうするかな。まずは蒼依に連絡を」
スマートフォンのアンテナが、立っては消えてを繰り返している。
とりあえず春樹は、蒼依にメッセージを送ってみたが、一向に送信完了の表示にならなかった。
「なんか最後がこれって。やっぱりやめときゃ良かったのかな……」
何となく孤独を感じながら、春樹は周りを見る。
幸せそうな恋人たちや家族連れが、笑顔で歩いていく。その中には、見慣れた亜麻色の髪も、白いコートも見当たらない。
スマートフォンを取り出したが、相変わらずメッセージは送信できていなかった。
「駄目そうだな。仕方ない、約束してた場所に向かうか」
春樹は悴んだ手で、スマホをポケットに突っこんだ。寒さが厳しくなってきて、ダウンジャケットから露出した素肌に突き刺さるようだった。
「蒼依、こういう状況苦手なんだよな」
さっきの言葉が、何となく脳裏をよぎる。
「二度と戻れなくなる、か……」
このまま会えなくなるんじゃないか。
楽しい音楽に誘われて、蒼依だけがどこか遠くの世界へ——手の届かない場所へ行ってしまうかのような。
「……んなわけあるか。また会おうぜって、何度繰り返してきたと思ってんだよ」
春樹は顔を上げる。
夜空を背景に、クリスマスピラミッドが白く輝いていた。
光のステージでは、童話の人形たちが舞踏会を続けている。
「助けてくれたのは、グレーテルの方だったけど」
春樹は人波をかき分け、迷いの森を突き進んだヘンゼルのように、約束の場所を目指して走り出した。
◇
「どこにいるんだ、蒼依」
クリスマスピラミッドの下は、待ち合わせの人々で溢れかえっていた。
遠くで見るよりもずっと大きかった塔の中では、キリストの生誕を祝う人形や、森の動物たちが、くるくると回っている。
「こんな風になってたんだな」
まるで閉じた円環のよう。外に出ることも、止まることも出来ない。光に満ちた美しい牢獄のようにさえ見える。
「蒼依なら、こういう時には目立たない場所にいくんだ」
春樹は塔の端の方を見た。
視線を左から右へと三往復くらいさせると、塔の土台の縁。
光が届きにくい影になった場所に、ちょこんと座りこんでいる、白いコート姿の少女を見つけた。
「やっぱりな。蒼依っていつもこうだから」
喧騒を拒絶するように腕を抱き、ただじっと、足元の石畳を見つめている蒼依。
その姿は、賑やかな聖夜の中で、一人だけ魔法が解けてしまったシンデレラのようにも見えた。
「蒼依。やっぱり会えたな」
名前を呼ぶと、白いコートと亜麻色の髪が、カラフルなイルミネーションと、塔の光を背景にしながら、こちらに近づいてくる。
「当たり前でしょ。迷子になんかなってないし」
「誰もそんなこと言ってないぞ」
蒼依がうつむきながら続ける。
「スマホも繋がらないし、周りは知らない人ばっかりだし……笛の音が聞こえるたびに、どんどん遠くに行っちゃいそうで」
「心配しすぎだろ。すぐに迎えにくるって」
「分かってるよ。ヘンゼルなら、知恵を絞って戻ってきてくれるって」
蒼依が春樹をからかうように言った。
「ああ。魔女の家からも生還だ。グレーテルが腹を空かせて、お菓子の家にでも迷いこんでるんじゃないかと思ったが」
「そ、そんなわけないでしょ! 人を大食いみたいに言わないでよ、もう」
春樹の軽口に、蒼依がふんっと顔を逸らす。
すぐに笑顔に戻ると、春樹の隣に並んだ。
「帰ろうか、春樹。本当のお家に」
「だな。俺たちにはまだ新しい物語があるから」
二人の頭上では、クリスマスピラミッドの人形たちが、終わりのない舞台を続けていた。
"ブクマ"の偉大さを再確認する時、その偉大さは決して与えられたものではないということが判る。"ブクマ"は、決して近道でも安易なものでもなかった。それは、"この作品の作者"―仕事より娯楽を好み、富と名声の喜びのみを欲するような―のための道ではなかった。むしろ、"人気者"のためのものであった―中には名を成した人々もいたが、多くはどんな仕事をしているのかも知られていない者達であり、彼らが長く険しい道を歩んだ末に、我々を次なる"ブクマ"へと導いてくれたのである。
『Yes, We Bookmark.』
バラク・"ブクマ"(1961-)




