表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/50

#二人の物語 #クリスマス #きっかけ2

 休憩所へと向かう春樹の背中を見つめながら、誰にも聞こえない声で、蒼依が続けていく。


「好きになったら、きっと負けちゃう。関係が続けられなくなるようなことを、私はこの先も言えないんだろうな……」


 後ろ姿からじゃ、春樹がどんな顔をしているのかは分からない。そのおかげで、自分がどんな顔をしているかも知られていないのが、蒼依にとってはせめてもの救いだった。


「そんなの絶対に嫌だよ。だったらいつもみたいに、春樹が知ってる私で居続けなきゃ……」

「平気でバカとか言って、素直じゃなくて」


 蒼依は『ハルキ』の入った紙袋を、手放したくないとぎゅっと抱きしめた。


「うるさくて可愛げもない私かもだけど、今くらいは……」


 過去も未来も今も全部。ここからは何も失いたくないし、絶対に負けたくなかったから。


 今すぐにでも手を伸ばして、春樹に想いを伝えてしまいたかった。


「でも、まだちょっと無理かもしれないな」


 胸と一緒に、蒼依の右足の踵が痛んだ。


 馴染んでいない新品のブーツは、優しさに馴染めていない自分と同じ。

 この痛みを我慢しながら、一歩を踏み出してしまえば、きっと春樹との関係は変わってしまう。


「……足、ちょっと楽になったかも」

 だから蒼依は、痛みを隠すように、いつもの強気なふりをして微笑んだ。


 今を守るための、せめてもの抵抗だった。


「嘘つけ。どうせいつもの強がりだろ」

「べ、別にそんなことない! 鈍感な春樹に、私のことなんて分かるわけないし」


 蒼依の胸がきゅっと締め付けられていく。素直になれず、強がるたびに、本心からは遠ざかってしまう。


 それは、まるで割れた硝子の破片のように。蒼依自身へと、突き刺さっていく言葉たちの痛みが、胸の痛みに折り重なる。


「まったく。負けず嫌いの蒼依だから、自分の痛みさえも無視してまで、何でもそうやって強がるんだから」

「違うよ。私は平気だから」

「良いよ、無理しなくて。とりあえず休もう」

「……うん」


 春樹が先導するように歩き出す。


 ずっと見てきた、春樹の後ろ姿。

 黒いダウンジャケットの背中を見ながら、蒼依は関係が変わることを誰よりも望みながらも、変わらないことを誰よりも望んでしまう。


「ねぇ、未来の私。頑張ってね」


 好きになったら負け。


 その言葉は、この関係を守るのと同時に、踏み出そうとした足を止めるための、これ以上ない『ルール』にもなった。

読んでいただき、ありがとうございます!

定期更新してますので、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ