#二人の物語 #クリスマス #きっかけ2
休憩所へと向かう春樹の背中を見つめながら、誰にも聞こえない声で、蒼依が続けていく。
「好きになったら、きっと負けちゃう。関係が続けられなくなるようなことを、私はこの先も言えないんだろうな……」
後ろ姿からじゃ、春樹がどんな顔をしているのかは分からない。そのおかげで、自分がどんな顔をしているかも知られていないのが、蒼依にとってはせめてもの救いだった。
「そんなの絶対に嫌だよ。だったらいつもみたいに、春樹が知ってる私で居続けなきゃ……」
「平気でバカとか言って、素直じゃなくて」
蒼依は『ハルキ』の入った紙袋を、手放したくないとぎゅっと抱きしめた。
「うるさくて可愛げもない私かもだけど、今くらいは……」
過去も未来も今も全部。ここからは何も失いたくないし、絶対に負けたくなかったから。
今すぐにでも手を伸ばして、春樹に想いを伝えてしまいたかった。
「でも、まだちょっと無理かもしれないな」
胸と一緒に、蒼依の右足の踵が痛んだ。
馴染んでいない新品のブーツは、優しさに馴染めていない自分と同じ。
この痛みを我慢しながら、一歩を踏み出してしまえば、きっと春樹との関係は変わってしまう。
「……足、ちょっと楽になったかも」
だから蒼依は、痛みを隠すように、いつもの強気なふりをして微笑んだ。
今を守るための、せめてもの抵抗だった。
「嘘つけ。どうせいつもの強がりだろ」
「べ、別にそんなことない! 鈍感な春樹に、私のことなんて分かるわけないし」
蒼依の胸がきゅっと締め付けられていく。素直になれず、強がるたびに、本心からは遠ざかってしまう。
それは、まるで割れた硝子の破片のように。蒼依自身へと、突き刺さっていく言葉たちの痛みが、胸の痛みに折り重なる。
「まったく。負けず嫌いの蒼依だから、自分の痛みさえも無視してまで、何でもそうやって強がるんだから」
「違うよ。私は平気だから」
「良いよ、無理しなくて。とりあえず休もう」
「……うん」
春樹が先導するように歩き出す。
ずっと見てきた、春樹の後ろ姿。
黒いダウンジャケットの背中を見ながら、蒼依は関係が変わることを誰よりも望みながらも、変わらないことを誰よりも望んでしまう。
「ねぇ、未来の私。頑張ってね」
好きになったら負け。
その言葉は、この関係を守るのと同時に、踏み出そうとした足を止めるための、これ以上ない『ルール』にもなった。
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