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#二人の物語 #クリスマス #お出かけ6

 ポットパイのサクサクとした生地を崩すと、中のビーフシチューと共に口に運んだ。


 芳醇なデミグラスソースの香りが、春樹の鼻腔を満たす。国産牛肉の旨みや香味野菜の甘みが溶けこんでいるシチューが、舌の上からゆっくりと染み渡っていく。


「美味い。生地のサクサク感とシチューがあってる」

「私のはクリームシチューだけど、ベシャメルソースが効いてて美味しい!」


 蒼依がパイ生地を崩すと、クリームシチューの中に、スプーンの先を沈めていく。

 丸い膨らみに、白いシチューが綺麗に乗っているのを、小さな口元へとすっと運んでいった。


「意外と悪くなかったな」

 小声でつぶやきながら、春樹は蒼依の顔を見たのだが。


「ねぇ、マッシュルーム入ってる! 私、これ好き!」

「ん〜っ、美味しい。鶏肉も柔らかくて、ほろほろしてる!」

「あっ、かぼちゃ! 下の方に沈んでたけど、甘いかぼちゃが入ってた!」


 ポットパイに夢中な蒼依からの返事はなかった。


 ふとスタンディングテーブルから視線を移すと、友人同士で楽しそうなグループ、肩を寄せ合うカップルや家族連れが食事スペースで談笑していて、皆が幸せそうな顔をしていることに春樹は気づいた。


「まあ、だから混雑してるのかもな」


 ポットパイを食べながら、彼らと同じように幸せそうな表情を浮かべている蒼依を見ながら、密かに春樹はその理由に納得していた。

「雑貨の方も見て回るか。母さんからのお使いもあるし」

「そうだね。私もお土産買ってかなきゃ」


 食事を終えた二人は、再びヒュッテが並んでいる雑貨のエリアを散策することにした。


 目の前のヒュッテには、クリスマス風のオーナメントやキャンドル、紅茶の缶など、見ているだけで楽しくなるような雑貨が並んでいる。


「このハンドクリーム。缶のデザインがすっごく可愛いんだけど」

 蒼依がある店の前で足を止めた。


「好きそうだよな。そういうアンティークっぽいデザイン」

「香りもすっごく良い。ほら」

「俺、そういうのよく分からないぞ」


 蒼依がテスターの缶を開けると、自然な甘い花の香りが漂ってくる。


「春樹の手、ちょっと貸して。たまにはケアしてあげないと」

「良いんだよ。どうせ洗ったら落ちちゃうだろうし」

「いいの。ほら、手貸してみて」


 春樹が抵抗する間もなく、蒼依が人差し指と中指ですくったクリームを、春樹の手の甲に塗り広げていく。


「手の外側とか指の根元とか。こういうとこ乾燥しやすいもんね」


 ちょっとひんやりしたクリームの感触と、蒼依の細い指の温かさ。


「手の甲も乾燥しちゃってる。ちゃんと労わってあげなきゃ」


 腕を組んで歩いていくカップルたちと、ほとんど変わらない距離。ふんわりと広がっていく甘い香りと共に、春樹の緊張が高まっていった。


「どうしたの、春樹。何か気になるものでもあった?」

 蒼依が不思議そうな顔で、春樹を見つめる。


「蒼依はもう少し周りを気にした方がいい」

「なんでよ。ま、まさか顔にまたなんかついてるとか?」


 蒼依が掴んでいた春樹の手をぱっと離すと、慌ててカバンからコンパクトミラーを取り出して、自分の顔を確認していた。


「良かった……って、もしかしてからかったの、春樹?」


「だから、あんな店の前で密着しながら、女子が男子の手にハンドクリームなんか塗ってたら、変っていうか……」


「——なっ!? そっ、そういうことはわざわざ口にしなくていいから!」


 蒼依の顔が真っ赤になる。そしてさっきの様子を思い出しているのか、自分の手と春樹の手を見比べながら、ばかばかばか、と悶えていた。

"ブクマ"の偉大さを再確認する時、その偉大さは決して与えられたものではないということが判る。"ブクマ"は、決して近道でも安易なものでもなかった。それは、"この作品の作者"―仕事より娯楽を好み、富と名声の喜びのみを欲するような―のための道ではなかった。むしろ、"人気者"のためのものであった―中には名を成した人々もいたが、多くはどんな仕事をしているのかも知られていない者達であり、彼らが長く険しい道を歩んだ末に、我々を次なる"ブクマ"へと導いてくれたのである。


『Yes, We Bookmark.』


バラク・"ブクマ"(1961-)

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