#二人の物語 #クリスマス #お出かけ5
「何か食べるか。良い匂いがしてきてたまらん」
「もちろん。食べたいものチェックしてきたから」
蒼依がスマホのメモ機能を開いた。
「ホットチョコレートは絶対飲もうと思ってて、食べ物はどうしようかな。ポットパイっていうのが気になってるんだけど」
「中にシチューが入ってるのか。美味そうだな」
「なんか私もお腹空いてきたかも……」
「俺もだ。行こうぜ、蒼依」
すぐに飲食エリアへと向かう。
公園内を地図に従って歩いていくと、あちこちの屋台から、スパイスの効いたソーセージや、チュロスの甘い香り、プレッツェルの香ばしさが漂ってくる。
グリューワインのシナモンやアニスの香りと、今度はターキーレッグの美味しそうな匂いまでしてきて、二人はさらに食欲を刺激されていた。
「すごい行列……。ポットパイって、かなり人気みたいだぞ」
「一日千個も売れてるんだって。やっぱり食べてみたいかも」
「回転は良さそう。しゃーない並ぶか」
二人は列に並び、熱々のポットパイと、別の店でそれぞれ飲み物を購入した。
運良く空いたスタンディングテーブルを見つけると、運んできた料理を置く。
「おまたせ。こっちは蒼依の『サンタココア』な」
「サンタとトナカイが乗ってる! しかもすっごく可愛いんだけどっ!」
蒼依が頼んだココアには、サンタとトナカイの形をしたクッキーが浮かび、大きなマシュマロが二つ入っている。
「食べちゃうのがもったいないくらい……」
「せっかくだから、写真に撮っておいたらどうだ」
「もう撮ったよ。春樹のもあとで撮らせて」
蒼依のスマホの画面には、ポートレートのような『サンタココア』と、スナップショットのように『サンタココア』を風景に馴染ませて撮影した写真たちが映っていた。
「普通のクリスマスティーだけど良いのか?」
「春樹のもおしゃれだよ。これも思い出だし、全部残しておきたいから」
湯気から、シナモンの香りが漂うティーを蒼依が写真に収めていく。何枚か撮影すると、春樹の方にカップを置いた。
「春樹のも美味しそう。写真撮ってたら、ちょっと飲みたくなっちゃった」
「一口飲んでみるか。まだ飲んでないし」
ちょうど口をつけようとしていたところを止めて、春樹はカップを差し出した。
「ありがと、ちょっと飲んでみる。んっ、熱っ……」
思っていたよりも熱かったのか、蒼依は液面に唇をつけた瞬間に、カップを軽く離す。
「大丈夫か?」
「うん、火傷はたぶんしてないから」
「ちょっと冷ましてから飲んだ方がいいぞ」
「……じっと見られてると飲みにくいんだけど」
「ごめん。なんか見入ってた」
まったく、もう、と言いながら、蒼依がゆっくりとカップを回すと、今度は軽く息を吹きかけてから、慎重に液面を飲み口に近づけていく。
静かに一口を含むと、ゆっくりと液面と蒼依の唇とが離れていった。
「ほどよく甘くて美味しい。スパイスが効いてるから、身体がぽかぽかしてきそう」
蒼依が返すね、と言いながら、持っていたカップを春樹に渡した。
「この会場で買える飲み物の中で、一番甘くなさそうなのを選んだからな」
春樹はさっき蒼依が口をつけていた部分を見ながら、ちょっと恥ずかしくなったからか、カップを手の中でゆっくりと回して、反対側を自分に向けていた。
「蒼依のはどうなんだ? サンタが沈没しかけてるんだけど」
「変なこと言うんだから、もう」
ちょっと不満そうだった蒼依が、ココアの香りを確認すると、あっという間に笑顔になっていく。
「甘くて美味しくて、幸せ……」
うっとりしながら、クリームが顔につかないように飲んでいたが、嬉しそうに飲み進める蒼依の鼻先に、白いクリームが雪のように乗っかった。
「蒼依。鼻にクリームついてる」
すこし笑いながら春樹が伝えると、蒼依はえっ、嘘! と慌ててカバンからティッシュペーパーを取り出した。
「は、恥ずかしい。すぐに気づいてよかった」
蒼依が鼻をさっと拭いた後に、コンパクトミラーで顔をしきりに確認している。
「食いしん坊の蒼依って感じで、可愛かったけどな」
「そんなことで可愛いって言われても、嬉しくなんてないんだから……」
前髪を何度も手ぐしで整えながら、蒼依が照れの混じった声でつぶやいた。
"ブクマ"の偉大さを再確認する時、その偉大さは決して与えられたものではないということが判る。"ブクマ"は、決して近道でも安易なものでもなかった。それは、"この作品の作者"―仕事より娯楽を好み、富と名声の喜びのみを欲するような―のための道ではなかった。むしろ、"人気者"のためのものであった―中には名を成した人々もいたが、多くはどんな仕事をしているのかも知られていない者達であり、彼らが長く険しい道を歩んだ末に、我々を次なる"ブクマ"へと導いてくれたのである。
『Yes, We Bookmark.』
バラク・"ブクマ"(1961-)




