#二人の物語 #クリスマス #お出かけ4
「あった! あそこのお店!」
雑貨エリアの一角。木工製品やガラス細工を売る店が並ぶ中で、ヒュッテの一つがキャラクター仕様になっている。
『かめとうさぎ。コラボショップ』
周りの店が本場を売りにしている中で、そこだけが明らかに『ゆるい』。
「メルヘンには馴染んでないよな」
「だって『かめとうさぎ。』だし、劇画みたいな演出もけっこうあるから……」
蒼依が人差し指を顎に当てながら、何かを考えている。すぐにパッと明るい表情になった。
「あっ、劇画演出といえば、第四話『ハードボイルド』! ちょっとした喧嘩から『100m走』で勝負することになったかめとうさぎが、走る前に、どっちがスターターピストルを撃つかで揉めるんだけど、それを『100m走』で決着つけようとして、またトラブルになって、今度はどっちが撃てるかで、また喧嘩するんだけど、かめもうさぎも銃を握るたびに怒ってる変な演出があって、絵がばーんってなんか劇画になってて、可愛いんだけど、なんか面白くて、笑っちゃうの!」
亜麻色の髪を揺らしながら、春樹に迫っていく。おいおいと思いながらも、コーラルのリップや、ハーフアップの髪型が、いつもと違う雰囲気で、春樹は密かに見入っていた。
「とにかく、あの回も尊いの。春樹も今すぐ見て!」
ひと段落したのか、蒼依がスマホで動画配信サイトを検索している。順番待ちで一緒に見るつもりなのかなと思いつつ、白く細い指が、画面を素早くスライドしていくのを、春樹はぼんやりと眺めていた。
「蒼依。動画見られるほど並ばないかも」
「大丈夫だよ、倍速で見よ? 私、内容もセリフも全部覚えてるから!」
「俺が分からないって。今度ゆっくり見とくよ」
「今度じゃなくて、帰ったらすぐね。通話しながら一緒に見てもいいし!」
どこまで元気なんだと春樹は思いながら、ヒュッテの方を指さした。
「買えそうだぞ、マグカップ」
「うん! たぶん買えるよね!」
優先入場の甲斐もあって、在庫には余裕がありそうだった。
「しかもほとんど並んでないっていう。会場限定品は他にもあるからな」
「見て、春樹。ぼーっとしてると、売り切れちゃう」
店員からの案内があってから、蒼依が駆け寄るように店先に向かう。並べられたマグカップを手に取りながら、目を輝かせていた。
「めちゃ可愛い……! このふてぶてしい『かめ』の顔!」
「よく分かんないけど。好きならいいんじゃね」
「当たり前じゃん。『好き』にはお金を使えって、ママも言ってたし!」
「……そうか」
だったらその格好はどうなんだよと、さすがの春樹も思っていたが、何度もマグカップを愛おしそうに眺めている姿を見ると、こんな野暮なことは聞けないよなと、言おうとした言葉を引っこめる。
「最高、来てよかった。私、一生忘れない」
「ただのマグカップだぞ。そこまでのものじゃ……」
蒼依は大事そうにマグカップの箱を抱えると、会計を済ませた。春樹もつられて、自分の分を購入する。
「春樹も買うの?」
「ああ。蒼依が割った時用にな」
「割らないし! 不吉なこと言わないでよ、もうっ!」
蒼依が頬を軽く膨らませながら、抗議のまなざしを向ける。
それを見ながら、"ある来客"専用のマグカップとして、使うのも良いかなと春樹は考えたが、とりあえずは取っておこうと思ったのだった。
「でも、まあ良かったな。とりあえず、今日のノルマは達成だ」
「うん! もう、ほんと嬉しい。春樹のおかげだね」
「そうか? 俺、あんまり関係なかったような……」
満面の笑みを浮かべている蒼依を見ていると、春樹も悪い気はしてこない。
周りの客たちが、不思議なくるみ割り人形や綺麗なスノードーム、木製のツリーやサンタの雑貨を買い求めている中で、自分たちはこの『かめとうさぎ。』のマグカップを持っている。
その場違い感と、蒼依の推しに向ける情熱を見ているうちに、春樹は何だか笑顔になってしまうのであった。
"ブクマ"の偉大さを再確認する時、その偉大さは決して与えられたものではないということが判る。"ブクマ"は、決して近道でも安易なものでもなかった。それは、"この作品の作者"―仕事より娯楽を好み、富と名声の喜びのみを欲するような―のための道ではなかった。むしろ、"人気者"のためのものであった―中には名を成した人々もいたが、多くはどんな仕事をしているのかも知られていない者達であり、彼らが長く険しい道を歩んだ末に、我々を次なる"ブクマ"へと導いてくれたのである。
『Yes, We Bookmark.』
バラク・"ブクマ"(1961-)




