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#二人の物語 #クリスマス #約束4

 その日の夜。

 春樹はリビングで、洗い物をしている母親に事の顛末を報告していた。


「……って感じで、あのマグカップが欲しいらしいんだけど、まず無理ってことになった」

「やっぱりあのマグカップよね〜。もっと大事なことにも気づいてなさそうだけど」

 春樹の母親が手を動かしながら、ふふんと鼻歌交じりに答える。


「とりあえず諦めさせて正解だったろ。行っても買えないんじゃ意味ないし」

「意味はあると思うけど、蒼依ちゃんが乗り気じゃないなら、無理強いはしちゃダメよね」

「あっ、それは聞いてない。コラボグッズ欲しいかどうかで、やめるかってことになった」

「それが春樹の結論なのね。じゃあ、ちょっと待ってて」

 春樹の母親が手を拭きながら答えると、机の上に置かれていたスマートフォンを取りに来る。


 ソファでくつろぎながら、それを遠目に見ていた春樹は、よく分からないなと思いながら、テレビを地上波放送から、ストリーミング配信のVODへと切り替えた。


「だから、行っても買えないんだって。別に行きたくないって訳じゃなかったんだけど」

「そこを何とかするのが親の力よ。……ほら」


 春樹の母親が得意げに画面を見せる。そこに表示されていたのは、『購入完了』の文字と、QRコードだった。


「先行入場用のペアチケット。これがあれば、一般列に並ばずに、優先的にグッズ売り場に行けるでしょ」

「いつの間に。さすが元フェス勢だな……」


 春樹は自分の母親が、あまりにもチケットに慣れすぎていることを、何とも言えないな、と思っていた。


「リセールが出てないかを、ずっと確認してたのよ。これ結構高かったんだからね」

「これでマグカップもほぼ手に入るはず。もしかして、春樹が蒼依ちゃんに買ってあげるの?」

 何かを理解しているかのような笑顔で、春樹の母親が、ニヤニヤしながら春樹のことを見ている。


「貸し借りみたいで、嫌って言われるだけだろ。だいたいプレゼントも、父さんと母さんのお金で買うわけだし」

「そういうのはまだ先っていうか。蒼依も同じようなこと言ってたから」

 春樹は、VODの画面を切り替えながら、『恋愛リアリティ』の特集で、一瞬だけカーソルを止めていた。


「それが春樹と蒼依ちゃんのペースなのね。だったら私はうるさく言わない」

「ほっとけ、ほんとにもう。すぐ面白がるんだから」


 番組の説明を見ながら、選ぶ、選ばれるの関係性や、こんな駆け引きが自分達にも起きるのだろうか、なんていう変な考えがよぎったことに焦って、春樹は思わずテレビ画面を消してしまっていた。

 自分の部屋に戻った春樹は、ベッドに寝転がりながら、蒼依へのメッセージを考えていた。


『母さんが先行チケット買ってくれた』

『優先入場すれば、マグカップ買える』


 春樹は行くか、行かないかも聞くべきだよなと思いつつ、これを送れば蒼依から行きたいと申し出てくれるだろうな、とも思っていた。


「これ以外に無いもんな。とりあえず送っとくか」

 蒼依にメッセージを送る。春樹はスマホを布団の上に投げるように置くと、ゲーム機の電源を入れた。


 すぐにスマホが振動する。通知を確認すると、蒼依からのメッセージだった。


『すごっ!! ぜったい行きたい!!!』

『春樹のお母さん大好き(うさぎの絵文字)』


『了解』

『いつにする?』


 すぐに既読がついた。蒼依もスマホを見ているようだ。


『24日が良い! 23日は友達と出かける』

『了解。朝九時に蒼依の家の前で』


 クリスマスの予定に関する話を、前に蒼依としていたが、春樹はパーティーの方をどうしようかと考えていた。


『駅がいい』

『時計塔のモニュメントの下に来て』


 なんで駅なんだと思いつつ、春樹はメッセージを入力する。


『了解』

『忘れ物するなよ』


 用件が済んだので、春樹はスマホを再び掛け布団に向かって、無造作に置いた。


 部屋のテレビでは、ゲームのオープニングムービーが、繰り返し再生され続けている。


「よし、始めるか」

 テスト期間中に出来なかったログ集め。ようやく世界を救えるのだと思うと、春樹の胸は高鳴っていた。


 オープニングムービーを飛ばすと、タイトル画面に移る。春樹がロード画面を開いてセーブデータを選択していると、スマホが震えた。


『かめが蔑む顔のスタンプ』


 蒼依からのメッセージ。通知を見た春樹は、ちょっと損をした気分になった。

"ブクマ"の偉大さを再確認する時、その偉大さは決して与えられたものではないということが判る。"ブクマ"は、決して近道でも安易なものでもなかった。それは、"この作品の作者"―仕事より娯楽を好み、富と名声の喜びのみを欲するような―のための道ではなかった。むしろ、"人気者"のためのものであった―中には名を成した人々もいたが、多くはどんな仕事をしているのかも知られていない者達であり、彼らが長く険しい道を歩んだ末に、我々を次なる"ブクマ"へと導いてくれたのである。


『Yes, We Bookmark.』


バラク・"ブクマ"(1961-)

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