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#二人の物語 #クリスマス #約束3

 蒼依がふと、立ち止まってスマートフォンを取り出した。

 ちょうど交通量の増える中央通りに入り、コンビニを過ぎた先の信号に差しかかろうとした時のことだった。


「……待って、春樹」

「どうした」

「今、そのマーケットの公式サイト見てみたんだけど……」

 蒼依の指が画面をスワイプしていく。そしてあるページへと視線が釘付けになっていた。


「えっ、嘘。やばいかも」

「だから、どうしたんだよ。何か面白いものでも見つけたのか」

 クリスマスマーケットにヤバいものなんてあったか、と疑問に思いつつ、歩道の端に立ち止まってまでスマホに夢中になっている蒼依の姿を、春樹は無言で見ていた。


「……行く。春樹、やっぱり行く! 絶対に行かなきゃ!」

「さっきまでとは大違いだな」

 この方が良いとは思いつつも、急な変貌ぶりに春樹は戸惑っていた。


 そんなことはいざ知らずといった様子で、蒼依はスマホの画面を、春樹の目の前に差し出した。

「コラボやるなんて知らなかった!」

「『かめとうさぎ。』のコラボやるんだって!」


 画面に映っていたのは、蒼依が大好きなアニメのキャラクターたち。そして、『会場限定コラボマグカップ』という文字だった。


「そのアニメ、面白いか?」

「面白いよ。中毒性あるから」

 何かにうなずきながら、蒼依にスイッチが入った。


「今から魅力を三行で説明するね」

 得意げに人差し指を頬のあたりに添えながら、蒼依が春樹に微笑む。


 これは三行じゃ絶対に終わらないだろうと思いながら、春樹は白い息が浮かんでいく様子に合わせて、天を仰いだ。


「なんか斜に構えたかめ、これは春樹にもちょっとだけ似てるんだけど、いつもうさぎの足を引っ張ってて、この世界ではトラブルとか仕事はみーんな『100m走』で解決するでしょ? うさぎはうさぎなのに、なぜか足があんまり速くなくて、そこではかめにいつも負けちゃうの! だからうさぎはかめに別の勝負を挑むんだけど、かめがやれやれって感じで、何かを話すたびに蔑んじゃって、もうそのシュールなやりとりと結果がいっつも可哀想だけど、可愛いって感じがしちゃって、ねぇ、もうちょっと頑張ろうよって、うーん、なんて言うのかな……あっ、めちゃくちゃ尊いっていう感情に襲われて!」


「ストップ。長すぎる……」

 徐々に一歩ずつ近づきながら、マフラーを下げてまで、熱弁していた蒼依を春樹が静止する。


「語彙力が怪しいぞ、蒼依」

「そんなことない。春樹の理解力の問題だから」

「まったく。勝負好きの『うさぎ』には、いつも困ってるんだよ」

「春樹! それ『かめ』の台詞っ!」

 目を輝かせながら、蒼依が笑顔になる。


 朝のニュース番組の間でやっていたのを、春樹も何回か見たことがあったが、今は『かめ』の気持ちがよく分かっていた。


「サンタの帽子被ってるし! 可愛すぎ! やばい、これ絶対欲しい!」

「安直なクリスマスだな」

「なんか言った?」

「何でもないぞ。何でもない」


 笑顔で抗議のまなざしを向ける蒼依に、春樹は慌てて首を横に振る。


 さっきまでの拗ねていた蒼依とは打って変わって、その瞳には既にマグカップしか映っていなかった。


「……じゃあ行くってことでいいんだな?」

「うん! ……あ、でも」

 蒼依の表情が曇る。


「これ、数量限定って書いてある。SNS見たら、『開場と同時に、多分整理券が配布終了する』とか、『二時間は待つ』とか書いてある……」

 蒼依の肩ががっくりと落ちる。


 冬休みに入ってからの日程は、特に混雑する時期と重なっていた。


「当日券で入ったら、入場列でも並んじゃうし。多分、行っても買えないね……」

「昨日から買えるんだよな?」

「そうだよ。もう転売とかも出ちゃってるし、二十三日から二十五日までの優先入場券も販売終了してる」

「はぁ、残念。サンタさんにでもお願いしようかな」

「それはやめてあげてくれ……」


 春樹は、蒼依にとっての『サンタさん』たちの顔を思い浮かべながら、同情の想いをこめて、蒼依を諭していた。

"ブクマ"の偉大さを再確認する時、その偉大さは決して与えられたものではないということが判る。"ブクマ"は、決して近道でも安易なものでもなかった。それは、"この作品の作者"―仕事より娯楽を好み、富と名声の喜びのみを欲するような―のための道ではなかった。むしろ、"人気者"のためのものであった―中には名を成した人々もいたが、多くはどんな仕事をしているのかも知られていない者達であり、彼らが長く険しい道を歩んだ末に、我々を次なる"ブクマ"へと導いてくれたのである。


『Yes, We Bookmark.』


バラク・"ブクマ"(1961-)

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