#春樹サイド #ep1
「春樹って、彼女いたことないもんね」
蒼依の言葉に思わず、俺の足が止まっていた。
「うるさい。蒼依には関係ないだろ」
軽く言い返してみる。いつもの言い合いの延長線上のはずだった。
でも、内心ではちょっとムカついていた——
確かに、恋愛なんてずっと縁のない話だったけど、蒼依に言われるのだけは、嫌だった。
「お前こそ、誰とも付き合ったことないだろ」
こっちも負けじと言い返す。言った瞬間、あ、やっちまったと思った。
「人の気持ちも知らないで」
蒼依の言葉の意味が分からなかった——ただの意地なのか、それとも別の感情なのか。
そしてすぐに、いつもの負けず嫌いな目を光らせた。嫌な予感しかしない。
「だったら、勝負してよ」
そう言った蒼依の目は、獲物を見つけた猫のようだった——けれど、どこかで怯えるような瞳の揺らぎ。
「春樹が私を好きになったら、私の勝ち。私が春樹を好きになったら、私の負けってこと」
蒼依の顔には、得意げな笑みが浮かんでいた。強がりだとしても、負ける気は全くなさそうだ。
好きになったら負けだなんて、もう俺に勝ち目なんてないんじゃ——
「そんな簡単な話じゃないだろ」
「で、やるの? やらないの?」
勝負に乗れば、何かが変わっていく——そんなことは分かっている。
もし断れば、絶対に後悔する。それだけじゃない。たぶん、蒼依ときっと——ただの幼なじみには戻れない。
蒼依との関係を失いたくない——こう思ってしまう時点で、もう俺は負けているのかもしれないが。
「分かったよ。勝負すればいいんだろ」
心の中では大きなため息をつきながらも、ちょっと楽しみだな、と思ってしまう自分がいた。
蒼依は、昔からこうなんだ。
勝ち気で、負けず嫌いで、意地っ張りで……でも、それでも俺にだけは心を許しているような、そんな一面を見せることも——でも、そんなギャップをすごく可愛いと思う時があって。
たとえば、馬鹿みたいに真剣な顔で俺を睨んでる、今みたいに。
もしかして蒼依のことを——
本当は好きなんじゃないか、って。




