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#二人の物語 #クリスマス #ファミレス5

「そろそろ帰ろうぜ」

 飲み終えたカップを、蒼依が机の上に置くと、春樹が目で合図を送る。


 無言で一度うなずくと、蒼依は立ち上がってコートを羽織った。軽く裾のあたりを整えると、春樹に行く? と同じように目配せをした。


「母さんに言われてるんだ。蒼依にご馳走してあげろって」

 春樹がすっと手を伸ばして、テーブルの端に置かれていた伝票を手に取ろうとする。蒼依は、すぐにその手を軽く掴んで止めた。


「ちょっと待ってよ。うちのお母さんがご褒美にって言ってたから、奢られるのは嫌」

「いいよ、そんな風に気を使わなくても。これからも、こういうことがあるかもだし……」

 春樹の腕を握りしめながら、貸し借りのような関係にはなりたくないと、蒼依は首を横に振った。


「でも蒼依に奢らないと、俺が母さんに怒られるから」

 掴まれていない方の手で、春樹が伝票を取ろうとする。

 何だかドラマとか、大人たちがやってる小芝居みたいだなと、蒼依は心の中で苦笑いをしていた。


「だから良いって。もし春樹のテストの点が上がったら、その時にでも、また考えてみて」

「……私、クリスマスの予定空けとくから」


 春樹に聞こえてなければ良いなと思いながら、蒼依は小さくつぶやいた。

 聞こえていたとしても、きっと鈍感な春樹のことだから、遊びに行くことくらいにしか考えない。


 握った腕を、無意識のうちに軽く引き寄せていたが、期待している答えは返ってきて欲しくないなと、蒼依は思っていた。


「クリスマスか。じゃあ、うちでパーティーでもするか?」

「……何でもいいよ。春樹が決めて」


「俺が決めるのかよ。まあ考えておくけどさ……」

 何なんだ、という顔をしながら、春樹が伝票を確認する。

 会計の前に、お互いが食べた分のお金を出しておくことになったが、鞄から財布を取り出しながら、蒼依は、別に何も考えなくていいんだけどね、と思っていた。

 自動ドアが開くと、十二月の冷気が二人の顔を包んでいく。暖かかった店内との差に、蒼依は思わずマフラーに顔をうずめていた。


「さむっ。コート着てても寒いよ」

「やっぱり夜は冷えるよな」

 春樹も背中を丸めながら、ズボンのポケットに両手を突っこんでいた。


「今日は特に冷えこむんだって。二月並みの寒さらしいね」

「それはまいったな。二月並みの寒さって、実際よく分かんないけどな」

 二人の吐く息が、駅前の光に照らされて白く浮かびあがってから、煙のように消えていく。


「見て、春樹。トナカイみたいになってるよ。なんか可愛いね」


 駅前ロータリーのイルミネーション。青と白のLEDが、モニュメントや低木に巻きついて輝いていた。


「そうだな。寒い寒い」

 ポケットに手を突っこんだまま、背中を丸めた春樹が、さっさと帰りたそうに蒼依の方を見た。


「もうちょっと付き合ってよ。あと少しだけ話したいことがあるから……」


「分かった。寒いし、歩きながらにしよう」

 白い息を吐きながら、春樹が催促する。


 ゆっくりとロータリーの周りを歩きながら、蒼依は、クリスマス前のこの光景を目に焼き付けていた。


「……ねぇ、春樹。これなんかデートっぽくないかな」

「デートって。俺と蒼依が、いつものように歩いてるだけじゃん」


 楽しそうに歩く恋人たちや、家路を急ぐサラリーマン。雑踏の音と、どこかの店から流れるクリスマスソング。


「で、話って? どうせ帰り道同じなんだから、別にここ回らなくても良かったような」

「たまには良いでしょ。春樹は嫌なの?」

「嫌じゃないけど。とにかく寒いんだよ」

 春樹はポケットに手を入れて、服で擦りながら、暖を取ろうとしている。


「変わらない方が、きっといいこともあるんだけど」

 ベンチに座りながら、手をつなぎ合っているカップルを見て、蒼依は思わずコートの袖口を握りしめていた。


「……うちでパーティーでもするか、か」

 蒼依は、さっきの言葉を反芻していく。

 特別なデートなんかじゃなくて、ロマンチックな場所でもない。


 昔から知ってる、春樹の家。

 この寒空の下で、先を歩いている春樹の丸まった背中を見ていると、何だかそんな関係が、今の私たちには良いのかもなと、蒼依はぼんやりと思っていた。


「ねぇ、春樹」

「ん?」

「……やっぱり、私も寒い」

「当たり前だろ。二月並みの冷えこみだしな」

 春樹が呆れたように笑ってから、白い息をぼわっと吐き出す。

 そんなバカみたいな白さが、夜空に溶けて消えていくのを、蒼依はしばらく目で追っていた。


「帰ろうか、春樹」

「話があるんじゃなかったのかよ」


 蒼依は返事も待たずに、さっさと帰りの道へと歩いていく。春樹が何かを言っていたような気もしたが、今日は何も聞かないことにした。


「とりあえず明日も勉強会やるからね。ゲームばっかりしてないでよ」

「テスト一週間前だぞ。そんなことしてたら、蒼依と母さんに何言われるかって」


 ため息のように白い息を吐いた春樹の姿がおかしくて、蒼依はマフラーの下でしばらく笑っていた。


「これからどうなるかなんて、誰にも分からないけど」

 ずっと、そばにいて欲しいな。

 言葉には出さずに、蒼依はほんの少しだけ、春樹の方へと肩を寄せてみたのだった。

モチーフはOasisの「Stand By Me」

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