#二人の物語 #クリスマス #ファミレス4
春樹の食器が片付けられてからも、蒼依はしばらく一人でパスタを食べていた。
窓の外を見ていれば良いのに、何を思っているのか、春樹がたまに蒼依のことをじっと見つめている。
「落ち着かないんだけど。さっきから、なんでこっち見てるの?」
赤い陶器製の器の底に、あとすこしだけ残っていたパスタを、フォークですくいながら、蒼依が春樹に訊ねた。
「ちょっと面白いなって。動物みたいで」
「……聞かなきゃ良かった。バカ春樹」
「幸せそうな顔してたから、思わず見てた。面白いっていうか、なんか可愛い」
「か、可愛いって。どうしたの突然……」
蒼依は動揺していた。まさか春樹が急にそんなことを言い始めるだなんて。
可愛いという言葉は、正直、とても嬉しかったが、恥ずかしさと困惑が、蒼依の内側をぐるぐると巡っていた。
◇
「お待たせしました。お料理をお届けしました」
配膳ロボットが、ブッシュ・ド・ノエルとクリスマスドリンクを運んでくる。
蒼依は、はやる気持ちを抑えつつ、それを自分の前へと丁寧に置いていく。
「可愛……いや、これすっごく美味しそうだし、クリスマスっぽいかも!」
「見てよ、春樹。粉砂糖が雪みたいになってるんだけど」
「面白いな。丸太みたいな形してる」
「だよね。めっちゃ可愛……おしゃれ!」
すこし前に、店員が食器を片付けていったので、テーブルの上にはブッシュ・ド・ノエルとドリンクだけが置かれている。
「さっきからどうしたんだ。なんか言いかけて止まってるぞ」
「春樹には関係ない。いや関係あるんだけど……」
可愛いという言葉が、頭の中でリフレインしていた蒼依は、恥ずかしさを振り払うようにデザートをじっと見つめていた。
「クリスマスって感じがしてくるよね」
「そうなのかな。あんまりピンとこないんだけど」
「こういうのがクリスマスなんだから」
派手さはなかったが、ちょっとした非日常さを感じられるので、蒼依の気持ちは満たされていた。
「ごゆっくりお過ごしください」
しばらくすると、配膳ロボットが再び動き出す。
次の目的地は分からなかったが、ピザやポテトフライが載っていたので、厨房には戻らずに、きっとどこかのテーブルを盛り上げにいくのかなと、蒼依はその姿を優しく見守っていた。
◇
「いただきまーす」
小さく手を合わせた後、蒼依がフォークの先端に巻かれていた紙ナプキンを外した。
「どこから食べよっかな。全部美味しそうで迷っちゃうんだけど……」
雪のように粉砂糖がかかった部分から、チョコクリームとスポンジをまとめてすくうと、蒼依はそれを嬉しそうに口に運んだ。
「ねぇ、春樹。すっごく美味しい! クリスマスだけじゃなくて、いつも置いといてほしいくらい!」
ただ甘いだけじゃなかった。ちょっぴりビターなチョコの風味と、ベリーの酸味が、蒼依の心を爽やかに癒していく。
「春樹も食べれば良かったのに。絶対頼んだ方がいいと思う」
「俺が甘いものそんなに好きじゃないの知ってるだろ。誰かさんは無視して、さんざんお菓子作ってきてたけどな」
春樹が苦笑いで答える。別に嫌がらせで作ったわけではなかったが、春樹を太らせてしまったのは事実なので、蒼依はちょっとだけ居心地が悪かった。
「……蒼依の枯れ木ケーキを見ても、やっぱり実感が湧かないな」
「ブッシュ・ド・ノエル! くだらないこと言わないでよ、もう」
「ごめん。そんなに怒るなって」
「別に怒ってないし!」
頬を膨らませた蒼依の姿を、春樹が笑顔で見つめていた。すぐに気が移ったのか、今度は頬杖をつきながら、店内の賑わいを不思議そうに眺めている。
枯れ木ケーキだなんて、全然面白くない冗談に、蒼依は内心でムッとしていたが、優しい目をしながら、周りを見ている春樹の様子に、何だかチョコのほろ苦さが重なっていくようで、本気で怒る気にはなれなかった。
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