#二人の物語 #クリスマス #ファミレス2
「お待たせしました。トレーから料理をお取りください」
忙しないファミレスの店内を、配膳ロボットが縫うようにやってくると、蒼依と春樹のテーブルの横に止まった。
最初に届いたのはポテトフライだった。蒼依が手を伸ばして、皿を取ると、配膳ロボットがゆっくりと回転して、別のテーブルへと向かう。
「配膳ロボットって可愛いよね。真剣に仕事してるって感じがする」
「仕事以外のことをし始めたら怖いけどな。どうする? もし急に壊れて、すごいスピードで走りはじめたりとかしたらさ」
春樹がくだらないことを言いながら、ポテトをフォークで刺した。正直、あんまり面白くないなと思いつつ、蒼依も箸でポテトを摘んだ。
「イルミネーション綺麗だよね。ここのロータリーって、季節で色々変わるから」
「すっかりクリスマスって雰囲気だな。だからどうしたって感じだけど」
「なんか、斜に構えてて嫌。私はクリスマス好きだから」
蒼依はロータリーのイルミネーションを見ながら、クリスマスのことを思い出す。サンタを最近まで本気で信じていたり、砂糖でざらざらになったケーキを、得意げに家族に振る舞ってしまったりと、ちょっと恥ずかしいものもあったが、どれも大切な思い出だった。
「クリスマスっていえばさ、うちで何度かパーティしたことあったよな。蒼依のお母さんもうちに来て、母さんとずっとワイン飲んでたし」
「それ三年前だよ。小五の時」
「三年前か。蒼依のお母さん凄かったよな」
「……うん。酔うと皆、大好きって言いながら、世界平和を祈り始めるから」
明らかに面白がっている春樹に、蒼依は軽くため息をつきながら、お母さんの酒癖の悪さに頭を悩ませていた。
「普段は美人で物静かなのに。蒼依もお酒飲むとああなるのかな」
「な、ならないわよ! 多分……」
家だとそんなに物静かでもないんだけどなと思いつつ、蒼依は本人の名誉のために、お母さんの普段の様子を口にするのはやめておいた。
「でも俺、やっぱりクリスマスまでの雰囲気とかは嫌いじゃないな。街全体が浮かれてる感じっていうか」
「プレゼントとかも貰えるし、別にクリスマスに悪いことなんてないんだよね。ケーキもチキンも美味いしさ」
「冷静だよね、春樹は」
「そうなのかな? クリスマスって、何をどうすればクリスマスなのか、を分かってないだけな気もする」
春樹がポテトを食べながら、ロータリーのイルミネーションを見ていた。蒼依も何となく分かる気はしたが、せっかくなら自分たちでも楽しみたいと思っている。
「だからクリスマスっぽいものを頼んでたのか。ちょっと蒼依のやってることの意味が分かったかもしれない」
春樹が何かに納得しながら、メニューに描かれたクリスマスの飾りを見ていた。蒼依は春樹が何に納得しているのかはよく分からなかったが、真剣に馬鹿なことを考えている春樹の横顔が印象に残っていた。
「うちの母さんが、蒼依にすごく感謝してるんだよね。春樹の勉強を見てくれてありがとうだってさ」
「……春樹はどうなの。テストの点が悪いと困るのは春樹な訳だし」
「俺か? 感謝というか、意外と楽しいけどな」
「ふ、ふーん。意外と楽しいんだ……」
意外との部分がちょっと引っかかってはいたが、楽しいという言葉を聞いて、蒼依は密かに喜んでいた。春樹のお母さんに頼まれるのもそうだけど、不思議と色々な理由が重なって、一緒に春樹と何かをできることが、単純に嬉しかった。
「母さんが、蒼依にきちんとお礼しなさいって言ってたんだけど。どうしたらいいかな」
「お礼なんて別にいいよ。私の復習にもなってるし」
春樹がそうか? とつぶやくと、再び人の間を縫うようにやってきた配膳ロボットがテーブルの横で止まった。
「俺のだな。立ち上がらないと取れなさそう」
「プレートで火傷しないようにね」
「大丈夫。そんなヘマはしないから」
春樹が配膳ロボットのトレーから、ハンバーグプレートを慎重に持ち上げる。
美味しそうな音と、湯気をあげながら、運ばれていったハンバーグを、蒼依は思わず目で追ってしまう。
「……もしかして、食べたいのか?」
席に座りかけていた春樹が、蒼依の顔を見ながら言った。
「そ、そんな訳ないでしょ!」
「でも、めっちゃ見てたし。誰がどう見ても食いたい人にしか見えなかったけど……」
「余計なこと言わなくていい! 恥ずかしいでしょ、もう!」
真剣な顔をしながら、バカなことを聞く春樹に、蒼依の顔が赤くなっていた。
美味しそうだなと思ったのは事実だったとしても、食べたいとまでは思ってない。
「ポテトの皿でいいかな。ほら、蒼依」
「まだ手つけてないから、ハンバーグ一切れあげるよ」
春樹がポテトが入った皿の空いている部分に、切ったハンバーグを置いた。
「別にいいって言ったのに」
「蒼依の釜焼き風パスタは時間かかりそうだし。先に一人で食べてるってのも、なんか微妙じゃん」
「食べてていいよ。冷めちゃったらもったいないし」
「一緒に食べたいって言ってたけど、本当に良いのか」
「だから、そういう意味じゃなくて!」
蒼依は慌てて否定する。
あれは自分が悩んでいる間に、春樹の料理が運ばれてきてしまったら大変と思っただけで、同じものを一緒に食べたいという意味で言ったわけではなかった。
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