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#二人の物語 #クリスマス #ファミレス

 エスカレーターを上がっていくと、店の前には四、五人が待っていた。待つのが嫌だと言っていた春樹も、これなら多分、嫌がらない。


 蒼依は順番待ちの名簿に、『さくらば』とひらがなで書きこんでから、待機席に座る。

 しばらく待つと、やれやれといった様子で店に向かってくる春樹の姿が現れた。

「……遅い。案内されちゃったらどうするのよ」

「普通だろ。怒って早足になったのはどっちだよ、もう」

「別に怒ってない。それより春樹、あんまり待ってる人いなかったよ。私の前に五人くらい」

「五人も待ってるのかよ。どっかで時間潰す?」

 春樹が面倒くさそうな顔でつぶやいた。

 別にそれくらいいいじゃんと思いながら、蒼依は膝の上の鞄をぎゅっと抱きしめる。


「俺も座りたい。ごめん、詰めてくれ」

 春樹が床にリュックを置くと、それを自分の脚の間へと引き寄せる。すこし肩が当たってちょっと痛かったが、蒼依は黙っていた。


「賑わってるな。席空かなそう」

「もう、さっきからそればっかり。会計に二組並んでるから、そんなに時間かからないって」

「分かってるけどさ、気になるんだよね」

「何が?」

「あの人すぐ食べ終わりそうとか、ドリンクバーで粘ってるとか。こういうのってはっきりとした時間が分からないじゃん」

 春樹が笑いながら、話を続けていく。


「店内に美味しそうな匂いがしてるし、賑やかな様子を見てると、だんだんお腹空いてくるんだよね」

「それはちょっと分かるかも。春樹も楽しみってことでしょ?」

「だな。早く席空いてほしいって思ってる」

 当たり前のことを春樹が真剣につぶやいた。


 ちょっとズレたところがムカつくこともあるけど、こういうところは面白いなと思いつつ、蒼依は自分の揃った靴の先を見ていた。

「お待たせいたしました。二名様でお待ちの『さくらば』様」

 若い女性の店員が、高めの声で呼びかける。


 蒼依は手を挙げながら、私ですと告げると、急いで立ち上がって、店員の元に向かう。

 春樹もゆっくりと立ち上がってから、蒼依の隣に並ぶと、店員が二人を確認して、慣れた様子で席へとスムーズに案内していく。


「こちら窓際のお席になります。ごゆっくりどうぞ」

 案内されたのは、ロータリーが一望できる席。

 蒼依はイルミネーションが綺麗に見えて、良い席に座れたなと、内心で喜んでいたが、春樹は特に興味もなさげに座ると、卓上でメニューを開く。


「何食おう。ステーキは高いし、ハンバーグとかにしようかな」

 蒼依は巻いていたマフラーとコートを丁寧に畳むと、ソファ席へと静かに置く。

 コートを脱ぐとちょっと寒かったが、食べてるうちに暖かくなるだろうと思って、メニューに夢中な春樹の向かいへと、ゆっくり座った。

「これ美味しそう。クリスマスシーズン限定の三種のベリーとブッシュ・ド・ノエル」

「トマトクリームパスタも美味しそうだけど、このグラタンみたいなパスタも美味しそう」

「ここに説明書いてある。ミートグラタン風のパスタで、釜焼きパスタだって!」


 蒼依はメニューを何度も見比べていた。

 春樹はすでに決まったらしく、ロータリーの景色をぼーっと眺めている。


「春樹、どれにする?」

「俺に聞くなよ。蒼依が食べるもんだろ」

「えーっ、どうしようかな。せっかくお母さんが何でも食べてきなさいって言ってたし……」


「全部頼めば。蒼依って割と大食いだから、食べられるんじゃない」

「はあ? 別にそんな大食いじゃないし」

 春樹の適当な言葉に、思わずムッとしてしまう。

 しかし、何を頼むかが楽しみだったので、そこまで気にならなかった。春樹がいつもこんな感じなのは、蒼依もよく知っている。


「春樹はもう決まってるんだよね」

「うん。腹減りすぎて死にそう」

「もうちょっと待ってて」

「早くしてくれよ。先頼んどいてもいいか?」

 春樹が注文用の卓上タブレットを手に取る。

 自分の注文を先に入れておくようだが、蒼依は相変わらず自分の注文に迷っていた。


「……別に良いけど、せっかくなら一緒に食べたいかな」

「はいはい、分かったよ」

 春樹が肘をつきながら、退屈そうにロータリーの景色を見ている。さすがにちょっと申し訳なくなった蒼依は、ごめんね、春樹と小さくつぶやいた。


「見れば見るほど迷っちゃうんだけど」

 蒼依は香ばしく焼けたチーズも食べたいし、トマトクリームパスタのコクと酸味も良いなと思いつつ、春樹とピザをシェアするのも楽しそうだなと延々と迷っている。


「どうしよう。全部食べるわけにもいかないし……」

 デザートは決まっていたが、追加でクリスマス限定メニューにある、苺ピューレの入ったドリンクも頼もうかなとも思っていて、蒼依の心はなかなか決まらなかった。


「……決めた。この釜焼き風パスタにする」

「春樹もポテト食べる? クーポンで安くなるから」

「良いね。もう俺の注文入ってるから」

 春樹が注文用のタブレットを手渡す。

 それを受け取った蒼依は、釜焼き風パスタとフライドポテト、デザート、ドリンクを注文に入れていく。


「……頼みすぎでは? さすがに太っちゃうぞ」

「うるさい。別に今日くらいはいいでしょ」

「また部活が始まったら、どうせ運動するんだし」

 そうは言いつつも、テスト後に終業式で、冬休みの部活が顧問の都合でほとんどないことを考えると、蒼依は若干心配になっていた。

読んでいただき、ありがとうございます!

定期更新してますので、よろしくお願いします!


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