#蒼依サイド #五歩目
スマホをしまい、ふと駅の窓に目を向ける。
そこに映っているのは、制服姿の自分。いつもは気にならないのに、今日は自然と足を止めていた。
「……はぁ、何やってんのよ、私」
ついさっきまで写真を見ていたせいか、無意識にガラスに映った自分と見比べてしまう。
そこには、なんとなく難しい顔をした私がいた。
こないだの写真とは、全然違う表情。
「自然体、か……」
春樹が見てた『私』と、今の『私』は、何が違うんだろう。
スマホの中の『私』は、ただの一瞬を切り取っただけ。
演じたわけでも、作ったわけでもない。
でも、それを『良い』って言われた時——
なんか、胸の奥がくすぐったかった。
『そこでちょっと止まってろよ』
『いいから、じっとしてて』
『自然体で、美少女って感じだったぞ』
——ばっ、バカじゃないの!?
思い出した瞬間、顔が熱くなるのが分かった。
慌てて、窓から視線を外す。
……まったく、春樹ってば、普段は適当なくせに、こういうことをさらっと言う。
◇
駅のホーム。電車が滑りこんでくる。
ドアが開くと、私は何も考えずに乗りこんだ。
(違うよ。きっと考えてないふりをしてるだけ)
向かいの窓に映った、自分の顔。
また、昨日の写真とは違う。
——今度は、何も考えていない顔。
「……はぁ、もういいっての」
スマホを取り出す。何も考えずに。
けれど、どういうわけか、指が勝手に写真フォルダをタップしていた。
そして、昨日の写真が目に入る。
ちょっと戸惑ってる私。
こういうのって、あんまり私らしくない、と思うんだけど。
「これが、自然体……?」
無意識につぶやいたその言葉に、自分で驚く。
だって、私は写真を撮られるのがそんなに得意じゃなくて、いつも変に意識してしまうのに。
春樹が撮ったこの一枚は、やっぱり変に飾っていない。
ただの無防備な私が写っている。
(いやいや、そういうことじゃなくて!)
慌ててスマホを閉じる。
暗くなった画面に、今の私が映っていた。
——なんか、真剣に考えすぎじゃない? 私。
こんなの、きっとゲームでしかなくて。
『好きになった方が負け』っていう、変な勝負。
でも——
「負けたくないはずなのに、なんでこんなこと気にしてるのよ」
小さく息を吐いて、顔を上げた。
◇
スマホに通知。春樹からのメッセージ。
『昨日の写真、意外と気に入ってるだろ?』
——は? 何言ってんの!?
思わず、スマホを持つ手に力が入っていた。
いやいや、そんなわけないでしょ。
こんなの、ただの試練で撮っただけで——
(……いや、何であいつ、そんなこと聞くのよ)
すると、すぐに追加のメッセージが届く。
『今頃、どうせ見返してるんだろうなと思って』
「~~っ!!?」
思わず、スマホの画面を消していた。
どこかで見てる? いや、そんなはずない。
でも、偶然にしてはタイミングが良すぎるし……。
(何でこういうときだけ、勘が鋭いのよ!)
考えすぎて、顔が熱くなってくる。
ドアが開いた瞬間、私は勢いよく電車を降りた。
◇
家に着くと、私は制服のままベッドに倒れこんだ。柔らかいマットレスに揺られて、干したばかりの掛け布団の匂いに包まれる。
「……なんでこんなに疲れるのよ」
枕に顔を埋めながら、ため息をつく。
春樹のメッセージが頭から離れない。
『昨日の写真、意外と気に入ってるだろ?』
春樹に言われると、なぜか反発したくなる。
『別に気に入ってなんかないし』と言い返したい。
でも。
……写真、まだ消せてない。
そっとスマホを手に取り、また写真を開く。
昨日の自分。
知らないうちに、自然と撮られていた一枚。
これが、『私』なの?
起き上がって、部屋の鏡の前に立ってみる。
鏡の中には、不安そうな顔をしてる私。
「どっちが、本当の私なんだろ」
写真の私は、ちょっと戸惑ってるけど、今の私よりも、ずっと素直な顔をしていた。
(自然体、って、そういうこと?)
次に春樹がシャッターを切る時、私はどんな顔をしてるんだろう。
そんなことを、考えた瞬間——
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