#蒼依サイド #三歩目
部屋に戻るなり、私はベッドに倒れこんだ。
スマホを放り投げて、顔を枕に埋める。
「……はぁ、バカみたい」
そうつぶやいてみたけれど、それでどうにかなるはずもない。
手のひらがじんわりと熱を持っているような気がする。
『蒼依の手って、小さくて、綺麗だよな——』
春樹の言葉が忘れられない。
いつもなら適当に流せるはずなのに、どうしてか今日はまともに返せなかった。
手を繋ぐなんて、ただの試練。
アプリのルールに従っただけ。こんなのゲームの一環。
(……だったら、こんなに動揺する必要なんてないじゃない)
でも胸の奥に広がるこの感覚を、私はどうすることもできない。
何がどう違うのか分からない。けれど——小さい頃に春樹の手を握っていた時とは、明らかに何かが違っていた。
『昔は蒼依の方が手を繋ぎたがってたのにな』
『ほら、公園で遊んだ帰り道とかさ。暗くなると、街灯が少ない通りが怖いからって、俺の袖を掴んできたことあっただろ?』
覚えていたのは、あいつだけじゃない。
あの時の私は、確かにあいつの袖をぎゅっと握っていた。
怖かったから。
そういう時こそ離れたくなくて、あいつにずっとそばにいてほしかったから。
(……私は"そばにいてほしい"って、思ってた)
その感情が何なのかなんて、当時は考えもしなかった。
だけど今、もしまた同じことをすれば——
それは"ただの幼なじみ"がすることじゃなくなってしまう気がする。
「好きになったら負け、なんだけど……」
本当は勝ち負けの話じゃないのかもしれない。
それでも、そう思わないと、バランスが崩れてしまいそうだった。
私は、春樹に勝たなきゃって、この勝負を始めたはず。
なのに、勝てる気がしなくなってるのは、どうしてなんだろう。
スマホの画面を開く。
今日の試練で加算された『恋ごころ』の数値が表示されている。
「……何よ、こんな簡単にいく訳ないでしょ」
負けちゃ駄目だと、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
その数値が示しているものが、本当に"ただの試練の結果"なのか。
私の中では、まだうまく整理が出来ていなかった。




