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#第四話 #手繋ぎ #ツンデレ

『——試練:手を繋いでみよう! 二人の気持ちも繋がるかも!』

 放課後の教室。スマホが震えると同時に、次の試練が表示される。それを見た瞬間、二人は言葉を失った。


「えっ、これ、本気?」

 蒼依が画面を見つめたまま硬直している。その反応が何だかおかしくて、春樹は思わず笑っていた。

「次は手を繋ぐ試練か。だんだん恋愛っぽくなってきたな」

「なんでそんなに冷静なのよ。これやるの、恥ずかしくないの?」

 蒼依が眉間にしわを寄せながら、スマホを春樹に向けて突き出す。

 耳の先が赤くなっていて、動揺を隠せていないのは丸わかりだった。


「試練だから仕方ないだろ。拒否したって、何も進まないわけだし」

「私も分かってるけど。でも、手を繋ぐなんて、やっぱり恥ずかしいじゃない」

 内心では春樹も動揺していた。手を繋ぐなんて——子供の頃以来、記憶にない。

「手を繋ぐなんて、昔はよくやってただろ」

「今と昔は違うでしょ」

「そうだけど。ほら、蒼依が始めた試練だから」

「なんか私のせいみたいじゃない。もう、分かったわよ……」

 蒼依は一度大きく息をつき、遠慮がちに手を差し出してきた。

「手汗とか、その気持ち悪かったらごめん……」

 指先がすこし震えているのが分かる。蒼依がここまで緊張してるなんて、ちょっと意外だった。


「あっ……」

 蒼依の手は、春樹が思っていた以上に冷たくて、小さかった。お互いの存在を意識させられて、段々と鼓動が早くなっていく。

「ちょっと。そんなに強く握らないでよ」

「ごめん、悪気はない。俺も緊張してるっていうか」

「いつもより時間を長く感じるな……」


 誰もいない静かな教室。

 沈黙のせいか、相手の存在を感じるたびに、やけに周りが気になってしまう。変に見えていないだろうか……いや、そもそも気にするような関係ではなかったはず。

「向き合いながら、手を繋ぎ合ってるって、ちょっとシュールかも」

「なんの実験だ、って感じだよな。ちょっと慣れてきた」

 そう言ってから、春樹は蒼依の顔を見つめる。一瞬だけ視線があった後、蒼依はすぐに窓の外を向いてしまった。


「昔は蒼依の方が手を繋ぎたがってたのにな」

 不意に口をついて出た言葉に、蒼依が驚いたように顔を上げた。

「ほら、公園で遊んだ帰り道とかさ。暗くなると、街灯が少ない通りが怖いからって、俺の袖を掴んできたことあっただろ?」

「そんなことない」

 蒼依が小さく顔を左右に振った。春樹には、その仕草が妙に幼く見えて、何だか懐かしい気持ちになる。


「あれは怖かったんじゃなくて、違う理由もあったの」

「違う理由って? どう見ても怖がってたけど」

「うるさいわよ。もうそんなの忘れていいから」

「それにしても、蒼依の手って小さくて、綺麗だよな」

「な、なによ、急に……」

 蒼依が思わず、春樹の手を離そうとする。

「いや、ただ思っただけだって」

 春樹が慌てて言い訳すると、蒼依はさらに頬を赤く染めた。


「そういうの、なんかムカつく」

「なんでだよ」

「だって……なんか、あんたが普通にやれてるのがムカつく。私ばっかり意識してるみたいで嫌……」

 蒼依が言葉を詰まらせた瞬間、スマホが震え、10分経過を知らせる通知が表示された。


『試練クリア! 絆が深まりましたね! 蒼依の恋ごころ+15 春樹の恋ごころ+15』

 画面の横では、巫女のキャラクターが『おめでとう!』と拍手している。


「おめでとうじゃないわよ、もう」

 お互いの手を離しながら、二人は一息つく。あいつの手が離れた後も、自分の手の中に相手の存在が残っているかのように感じられて、不思議な感覚だった。

「二度とやらないんだから。これは本当に仕方なくやっただけで……」

 蒼依が顔を背けながら早口で言った。照れ隠しなのか、自分に言い聞かせるようでもあった。

「楽しそうだったじゃん」

「それは春樹がでしょ。私は楽しいなんて思ってないし」

「ほんと分かりやすいよな、蒼依って」

「何、その訳知り顔。すっごーくムカつくんだけど」

 怒ったような声とは裏腹に、蒼依の口元はどこか柔らかい。


「……ツンデレって言うんだよな、それ。だいぶ昔に流行ったらしいよ」

「知らない。うるさい、ばか」

 何だかマイルドに聞こえたツンデレ台詞の後、蒼依はしばらく窓の外を静かに見つめていた。

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