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第五話

 ジェットコースターは、思ったより速かった。


「っっはーー!! やばい!! 喉死ぬ!!」


 ひよりが絶叫しながら笑い転げている。

 海斗と南雲もテンションが上がりきっていて、息を切らしながらハイタッチしていた。


「悠、お前最後の下りで絶対笑ってたよな!」


「別に」


「いやいやいや! あれ楽しんでた顔だったぞ!」


 俺は黙って肩をすくめる。

 すると——


 袖を、ちょん、と引かれた。


「……黒川くん」


 振り返ると、澪が少し赤い顔で立っていた。


「大丈夫? 怖くなかった?」


「まあ、平気」


「そっか……よかった」


 澪は小さく息をついて、俺を見上げる。

 風で少し乱れた髪が揺れ、目の奥はどこか安心した色をしていた。


「白雪さん、大丈夫!? 顔赤いよ!?」

 ひよりが覗き込む。


「ん、ちょっとだけね。風、強かったから」


 澪は柔らかく笑う。

 だがひよりに向ける視線だけ、ほんのわずかに温度が低かった。


(ああ……ひよりは完全に気づいてるな)


 そんな空気をすずが感じ取ったのか、手を叩いて話題を変えた。


「そろそろお昼にしよ? お腹すいたし」


「賛成ー!!」

 ひよりが全力の声で走り出し、みんなでそのあとを追った。


 


 園内のレストランはちょうど混み始める時間だった。

 俺たちは六人で円卓に座った。


「黒川くん、ポテト食べる?」

 ひよりが当然のように俺の皿へポテトを置く。


「いや、自分の食えよ」


「えー、サービス精神だよ〜」


 ひよりは笑いながら、俺の隣の席に腰を下ろそうとする。


 が——その瞬間。


「浅海さん、そっち座るんだ?」


 澪の声が、静かにその動きを止めた。


「え、ダメ?」


「ううん。ダメじゃないよ。ただ……あっちの席のほうが、日陰になるから」


「え? あ、ほんとだ。じゃあ、こっち座る〜」


 ひよりが納得して別の席へ移動すると、

 澪はそのまま自然な顔で俺の隣に座った。


 肩と肩が触れないギリギリの距離。

 でも、息遣いはちゃんと届きそうなくらい近い。


「悠、これもう完全に狙われてるぞ……」

 海斗がひそひそ声で言う。


「知らん」


「いや、知らんで済む問題じゃねえぞマジで」


 俺が返す間にも、澪はちらりとこちらを見る。


「黒川くん、それ好き?」


「まあ……美味いな」


「そっか。よかった」


「なんで白雪が安心してんだ?」


「えっと……ただ、なんとなく」


 澪はふわりと笑って、言葉を濁す。

 でも、その笑顔の奥に隠れているものは、俺以外の全員にも見えていた。


 


 昼食を終えたあと、南雲が地図を広げる。


「よし次どこ行く!? 俺は観覧車だと思う!」


「いやお化け屋敷でしょ!」

 ひよりは元気よく言う。


「やめろ。絶対叫ぶ」

 南雲が青ざめる。


「黒川くんは? 怖いの平気?」


「まあ……」


 ひよりが距離を詰めてきて——


「苦手ならさ、私が腕——」


 その腕が俺へ伸びる直前。


「浅海さん」


 その声は、今までより少しだけ低かった。


「暗いのって……苦手だったよね?」


「え、私?」


「ううん。黒川くん」


「いや別に——」


 言い終わる前に、澪は俺の腕をそっと掴んだ。

 指の力はほんの少し強い。


「昔、電気消えたとき……ちょっとだけ困ってたの、見たから」


「そんなことあったっけか」


「うん。覚えてなくても、いいよ」


 にこ、と笑う澪。

 今の視線は完全にひよりへ向いたものだった。


「だからね、お化け屋敷は——私が隣」


「え、あ……うん。じゃあ私は後ろでいいわ!」


「なんで俺の後ろ!?!?」

 海斗の叫びが響く。


 


 そして、俺たちはお化け屋敷へ入った。


 暗い。

 壁も床もよく見えない。

 かすられるような悲鳴と、湿った風が通る。


 澪は腕を掴んだまま、まるで影のようにぴったりついてくる。


「黒川くん」


「ん」


「……さっきみたいに、隣を取られるの……あんまり好きじゃない」


 耳のすぐ横。

 声は小さくて甘いのに、温度は高かった。


「別に取られたわけじゃなくね?」


「ううん。取られそうだったの」


 ぎゅ、と指が食い込む。


「嫌なんだよ。黒川くんには……私の横にいてほしいから」


「そんなに気にすることか?」


「気にするよ」


 闇の中で、澪の目だけがはっきりと見えた。

 光のないはずの場所なのに、なぜかまっすぐ見える。


「今日は……ずっと隣にいるから」


 その言葉に、ひよりが後ろで息を呑む気配がした。


 でも澪は、聞こえていないように前を向いたまま、

 俺の腕を掴んで離さなかった。


 


 遊園地を出る頃、夕日が沈みかけていた。


「楽しかったねー!!」

 ひよりは相変わらず明るい。


「また来たいな〜」

 すずも笑っている。


「俺は当分絶叫乗らねえ……」

 南雲はげっそりしていた。


 駅へ歩く途中で、澪が袖をつまんだ。


「ねえ、黒川くん」


「ん?」


「今日は……すごく楽しかった」


「ならよかった」


「うん……でもね」


 澪は一度だけ、ひよりのほうに目を向けて、


「……ちょっとだけ、疲れた」


 そう小さく呟いた。


「なんだそれ」


「……ううん、なんでもないよ」


 微笑む澪の表情は優しいけれど、どこか静かすぎる。

 その横顔を見て、ひよりは小さく眉を寄せた。


(……この子、本気なんだ)


————————————————————————


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