雪女
『怪異 雪女』
そんな新聞があった。なんでも大昔、この山には雪女がいて、好きになった男性が出ていこうとして凍らせてしまったのだという。
そして今は男の魂を求めて彷徨っているそうだ。
「愛が深いな」
部屋の机にある新聞を見て、無意識に目を奪われる。
俺は薄緑の使い古された畳に座っていた。和風の作りの部屋で、木で壁や天井が作られ、部屋の片隅には黒いテレビがある。
窓の外からは雪に覆われた町が見下ろせる。旅行で来なければ一生知らなかった町。周囲を山に囲われた田舎町。
「……」
窓に目を向け、外の景色をじっと見てしまう。この町に来た時から何度もあったことだ。平凡な景色に目が離せなくなる。
そして脳裏にいつもの人影。女。青い和服に真っ白な肌。美しく、心が惹かれてしまう容姿。そして彼女を見て逃げ出したくなる恐怖。
「はぁはぁ、ふう」
荒くなった息を抑え、ため息をつく。胸に手を当てると心臓がどくどく音を立てているのを感じる。幼い頃からの癖だ。理由は分からないが、山を見ると時々なる。
雪女の伝説。俺の癖と関係がある気がして、大学がない日にわざわざ来た。
ここには雪女の伝説が伝わる神社があるそうなので、そこに行ってみる。
俺は宿を出て町を進む。スマホの地図を確認しながら、知らない町を歩んでいく。
そして山道を歩くと、その神社についた。
神社はひっそりとしていて、誰もいなかった。
神社自体は掃除もされ、落ち着いた雰囲気があったが、まあこんなものかという規模だ。
雪女の伝説に関する看板も無く、拍子抜けだった。
「まあ、いいか」
俺は宿に帰ろうと、引き返す。
すると神社の入り口に女がいた。思わず鳥肌が立つ。
美しい女だ。青い浴衣を着て、異様に目立つ。
俺の知っている女に瓜二つ。こんな偶然あるのだろうか?
彼女は俺の方に近づいてくる。俺は一歩後ずさりしてしまう。だけど彼女はそばに寄ってきて顔を覗き込んできた。美しい顔だ。
「お帰り。出ていくの?」
「……っ」
出ないと。ここにいちゃいけない。
俺は心が冷えたような気持ちになり、足早に神社を出ようとする。
だけど足が動かず、足元を見ると白い雪が伸びていて、どんどん体を飲み込み。最後には全てが雪に覆われた。
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