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237  作者: Nora_
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08

「はは、上鶴ちゃんって捺生以上に露骨すぎない?」


 あれからは一切来ていない、捺生のところにこちらからいったところで近づいてくることもない。

 その一貫した態度には感心するしかないけどまあ……言いたくはなる。


「正直、千種先輩の方に驚いています」

「露骨かな?」

「わかりやすく好意を持って近づいてくるのが一人だからでしょうけど凄く楽しそうですもん、あんまり言いたくはないですけど平方先輩といるとき以上かもしれません」

「うわ、たまに言葉で苛めてくるよね」

「事実ですから、適当に言われたくないですよね?」


 せっかく切り替えたところなのに自分が始めたことで無駄にダメージを受けることになった。

 だからわかりやすく逃げて拗ねていると呆れた顔の後輩が当たり前のように探し出してきたので困った。


「……そうだ、ちゃんと誘っておいたからね」

「よく誘えましたね、邪魔者にしかなれないと思います」

「え、四人でいきたいって言ったのは捺生でしょっ」

「平方先輩って行動力がありますよね、だからこそ出てくる問題というのもありますが」


 くそう……結局欲しかったのはストレスを発散できるサンドバッグだったのだ。


「もう帰るんですか? それなら荷物を持ってきますね」

「いい、一人で帰る」

「そう拗ねないでください、待って――いてくださいと言っても聞いてくれないでしょうから捕まえておきますね」


 逃げることは簡単だけど怪我をさせたくないから大人しく付いて歩いていた。

 だ、だって仕方がない、思い切り掴んできているのならなにくそこのとできるのにただただ優しいからやる気がなくなってしまったのだ、彼女は卑怯だ。


「はい、アイスです、全ての味をコンプリートするぐらい好きでしたよね?」

「……なんか怖い」

「怖くありませんよ、相手の全てなんて言うつもりはないですけど私は情報を知りたいだけですからね」


 自分の分は買っていなかったから買って渡しておいた。

 行儀が云々は考えずに食べながら帰っているとあっという間に彼女の家に着いた。


「今日は十七時までに帰ってくるように言われているので大人しく帰りますね」

「う、うん」

「それでは」


 ぐぅっ、なんなんだあの後輩ちゃんは!

 むかついたからあの二人の邪魔でもしてやろうと学校まで戻ったら由真だけの状態で発見、それならもっと気にする必要もないから話しかける。


「私的にも上鶴ちゃんより臼井ちゃんの方が怖いよ」

「でしょっ? もうなんなのあの子!」


 物に八つ当たりなんかはしないけど暴れたくなるぐらいのレベルではある。

 みんなはこういうときにどうやるのかが気になる、必死に抑え込もうとするのかなんらかの方法で発散させようとするのか。


「はは、新しい杏梨が見られて嬉しいよ」


 ただ、由真がくれたのはへにゃりとした柔らかい笑みだった。


「は……新しいってどこが?」

「だってこれまでは私だけで私が違うところにいっていても少しいってあげたら嬉しそうな顔をしてくれていたでしょ? それなのに臼井ちゃん相手には違うからさ」

「由真の邪魔をしたくなかっただけだよ」

「ふふ、嘘つきだね」


 これまでの私はそういう風に言い聞かせていただけでしかない。

 本当に由真しかいなかったから私が一番一緒にいたかった、だけどぶつけたところで彼女には他にも友達がいて届かないから諦めていただけなのだ。

 たまにでも彼女が来てくれるというメリットと、そんなことがあるから期待して来てくれなくてがっかりしてしまうデメリットは常にあった、なんなら一時期はデメリットの方が大きくて離れようとしたこともあったぐらいだ。


「杏梨しかいないから言うけどさ、上鶴ちゃんのために譲っていなければ私は臼井ちゃんとそのまま仲良くなれていたと思う。だけど本人が引いてしまったらどうしようもないからさ? それに上鶴ちゃん、成美ちゃんとだって適当に一緒にいるわけじゃないからさ」

「そっか」


 まあ、こう言うしかないよなぁ。

 好意をわかりやすく出して近づく人間が多かったからこそ起きたことだ。


「でもさーそれよりも杏梨さんのことをすぐに気に入っているのがちょっとねー」

「私が嫌いだったことも由真に対するそれも嘘じゃないって言っていたよ」

「そうだろうね、だからこそちょっともやっとするんだよ」


 上鶴ちゃんを守ろうとしたとはいえ、捺生からすれば挑発的な態度を取っていなかったらもしかしたら変わっていたかもしれない。

 とはいえ、譲ってしまったことを考えると吐き出せる対象がいなくて一人で抱え込んでしまっていたかもしれないからあのときの私ナイスと褒めたくなる自分もいる。

 もっとも、ご両親がいるうえに勝手に上鶴ちゃん以外で大事なことを吐ける存在がいない前提で考えているからこれも失礼な想像ではあった。




「これとかどうですかね?」

「捺生は黒色がいいよ、白色って感じがしないし」

「なんか馬鹿にされている気がしますね、普段後輩に自由にやられていて不満が溜まっていたから少しずつ仕返しがしたい、というところでしょうか?」

「ま、水着の色なんて言ってしまえばどうでもいいんだよ、遊べればいいんだからね」


 わざわざいかなくたっていいのだ、お祭りだって同じだ。

 冬は寒いから屋内に長くいるように夏だって暑いのだから大人しくしておけばいいのだ。

 押し付けはしないから違うところで盛り上がってほしい、休みなのだから休んでおきたい。

 なのにこの時点で矛盾していることになる。


「本当にプールにいくの? 私、水着を買ってまではいきたくないんだけど」

「でも、ないんですよね?」

「ないけどほら、付いていっておけばそれだけでよくない?」


 積極的に付き合って引かれよう作戦は失敗に終わった、なんなら私が彼女の行動力の高さに引いて終わった。

 だからもう冷めている、というか、本当に暑くて危ないから床にでも張り付いていたいのだ。


「そんな保護者じゃないんですから……」

「保護者だよ、暴走してしまいそうになっている後輩を止めるのも先輩の役目だよね?」

「暴走って……私はただ平方先輩と夏休みを楽しみたいだけですけど」

「で、二人きり?」


 ここに来る前に聞いてみたけど由真は誘われていないと教えてくれた。

 そこで誘えばいいのに私も誘わずにこうしてお店に来てしまっているわけだけど……。


「だってあの二人を見たらやっぱり誘えませんよ、求められていませんもん」

「わ、私が捺生といたいように見えているってことっ?」

「私的にはそう思っていてもらいたいですね」


 はい敗北。

 迷惑にしかならないからそれっぽいのを買って退店した。

 お金だってちゃんと持ってきていた時点で言い訳をしたところで虚しいだけだ。


「ま、こんな感じ、普通だね」


 スルー……思い切り見てきているのになにも言わない。

 できる後輩だからなんとかいいコメントを出そうとして考えているということか。

 似合っているから似合っているとこちらはもう言っている状態だから手を掴んで歩き出す、結構人が来ているから止まっていると邪魔になるからだ。


「はい、ゆっくり入りましょうねー」

「……冷たいですね」

「温かったら嫌だよ」


 泳ぐというか歩いているけどそれでも水に触れられている分はマシだった。

 だけど人の多さに疲れるからやはり私には向いていない、慣れている人間がいなければ来ない方がいい。


「休憩休憩、連続は無理」

「それならなにか買いにいきます?」

「私はいいや、いきたいならいってきなよ」

「それなら私もいいです、離れたら合流も大変ですからね」


 仕方がないから連れていくことにした。

 なんでも合わせればいいわけではない、あと、私がここにずっといれば合流だって楽なのになにを遠慮しているのか。

 なにも買わないようにするとまた気にするから商品だってちゃんと買った。

 正直に言えばこういうのは避けたいところだ。

 ぐいぐい積極的に腕を掴んで連れていってくれた方がいい、私がその役をやるのは違う。


「ほら、お腹もそれなりに満たされたしちゃんと付き合うからいこうよ……っとぉ、今度はなに?」

「このままでいいですか?」

「いいからいこう」


 先程まで明るかったくせに何故こうして遊べているいま暗い顔をしているのか。

 面倒くさがらずに楽しもうと切り替えたのに駄目になった、いま私達を見ている人がいたとしたら帰ればいいのにと言いたくなると思う。

 それでも三時間ぐらいはなんとか爆発もせずに遊んで、流石に疲れたということだったからプール施設をあとにした。

 腕ではなく手を掴んできている状態だけど後ろを歩く彼女は依然としてそのままだ。


「あーもうなにか言いたいことがあるならはっきり言いなさい!」

「自信がなくなっただけです」

「私は細いだけで巨乳だったとかじゃないんだからさあ」


 どちらかと言えばぺたりとしている側だ、筋肉のある男の子の方が大きく見えるぐらいのレベルでしかない。


「体の話じゃないですよ」

「は……じゃあ私が勝手に馬鹿なことを考えただけってこと?」

「でも、平方先輩が関係しているのは確かですね」


 どういう……あ、人が沢山いても恥ずかしがらずにいられたからとか?

 わからない、わからないけど気持ちよく解散とはならないのはわかる。

 せっかく頑張ったのに暑い夏に無理をして出かけた結果がこれなら次はもうないぞ。


「暑い……やっぱり捺生の家に移動してからにしよう」

「はい」


 家なら大体緩くなる、言いたいことだってなんでも吐いてくれるだろう。

 炭酸ジュースなんかがあるともっといい、酔わなくても勢いでやれてしまうからだ。


「近いし暑いし熱い」


 歩くだけで汗をかくからせめて二人分ぐらいは距離を作ってほしかった。

 ここまで近づいておいて文句を言ってきたら黙らせるしかない、どうやるのかはまだ考え付いていないけど。


「一緒にいる時間は極端に減りましたが連絡は取り合っているんです、誘わなかった理由は今日成美も千種先輩とお出かけする予定だったからというのもありました」

「うん」

「言いたかったことはそれぐらいですね」


 なんだそりゃ、新しい情報はないと言ってもいいぐらいだからつまらない。


「平方先輩、ここに寝転んでください」

「はい」


 先程よりは距離ができたようなできていないような、少なくとも顔と顔の距離は変わってはいない。


「捺生は結局私になにを求めているの?」

「近くにいてほしいです。常には無理でもそのつもりで、この距離感でいたいんです」

「じゃあ変な遠慮をやめるところから始めないとね、さっきのあれで夏休みが終わるまで出たくなくなったぐらいだよ?」


 実際は登校日があるからずっと引きこもっておくのは無理だったけどね。

 あとはママやパパのお仕事にも必ず休日があるから一緒に出掛けるなんてこともしていただろうから結局は守れなかった。


「……いまはもう変わっている状態でしたから刺激が強かったんですよ」

「刺激がって言うけどさっきも言ったようにただ細いだけだよ?」

「いやだから……気にしてしまっている時点で男の子と女の子の恋愛と似たようなものじゃないですか」


 どうにかして普通の恋愛ということにしたいところもあるのかもしれない。

 私の場合は同性の由真としかいられなかったから同性の子に求められた方がそれらしい気がするからここからも広げられる。


「なら捺男って呼んだ方がいい?」

「そう呼んだら杏子って呼びますよ」

「いいじゃん、可愛いじゃん」


 そうして二人は見つめ合ってそのまま……うん、そのままだった。

 やれることがなさすぎてこの状況に疲れてきた、多分彼女的にもどくタイミングがわからなくなっていて困っていると思う。

 たーだ何故かどいてって言えないのだ。

 なにもないからどこかで気にしているのかな……? 本当は私の方が強く彼女のことを求めてしまっていたのだろうか。


「捺生、部屋にいるの?」


 救世主の登場、でもなかった。


「最初からそうだけど過激だね」


 上鶴ちゃんはなんとも言えない顔で呟くようにしてそう言った。


「お母さんだよね」

「そう、一緒に帰ってきて上がらせてもらったの。だけどまさか押し倒しているところだとは思わなかった、あ、それでも部屋に入ることを許可したのは捺生だから責めないでね」

「責めないよ、これは成美に知ってほしくて続けたんだから」

「そうなんだね」


 だからって現在進行形で押し倒しておく必要はないと思う。

 見せつけられてもえ? としかならない、その気でも言葉だけでちゃんと伝わる。

 上鶴ちゃんが私のことを気にしているのなら効果的かもしれないけどこれだと二人だけ恥ずかしいだけだ。


「平方先輩、私よりも捺生の方が激しいので頑張ってくださいね」

「うん」

「じゃあそろそろ疲れただろうから捺生もやめて、緩くお喋りしようよ」

「うん」


 まあ、まだまだこのあたりは上鶴ちゃんの方が有利か。

 私が由真に対して少しは自信を持って行動できるように彼女に対してはね。


「なんでこんなに早く解散にしたの?」

「アイスを食べすぎた結果だよ、由真先輩がお腹を壊しちゃって解散」

「あーあの短期間でもあったよ、飲み物とかを飲みすぎるんだよね」

「平方先輩はなんでかわかりますか?」

「不安であったり緊張をしているからだね、隠そうとしてたまにコントロールできなくなっちゃうんだよ由真は」


 なにも起こらずに終わることがない、必ずマイナスの影響が出る。

 解散にした理由はそのときは本当に酷い顔になるからだ、それを見られたくなかったから仕方がなくだ。


「でも、止めるのは難しいですよね」

「四杯目のために立ち上がったら止めてあげて」

「わかりました」


 あとは由真には悪いけどそのまま付き合ってしまうのがいい。


「平方先輩、私に対するアドバイスなんかはありませんか?」

「したいことをちゃんと言うこと」

「一貫していますね」


 そりゃ私なのだからそうだ。

 つまりそれを守るだけで私なんかは余裕だということだった。

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